投稿日:2025年12月12日

部品ばらつきの許容範囲が狭すぎて現場が苦しむ状況

はじめに

ものづくりの現場において、「部品のばらつき管理」は品質維持・コスト削減・生産効率向上すべての基本です。
しかしながら、スペックシートに記載された“許容範囲”が実際の現場作業にどのように影響を及ぼしているかを理解している方は、意外と少ないものです。
特に「ばらつきの許容範囲が必要以上に狭く設計され、現場で過剰な管理や対応を強いられる」現象は、多くの製造業で現在進行形の課題です。

この記事では、20年以上の製造現場管理の経験を踏まえて、「部品ばらつきの許容範囲が狭すぎることで現場が直面する問題」「なぜそうなってしまうのか」「取るべき対策」「関連する業界動向」まで深く掘り下げて考察します。
現場だけでなく調達・バイヤー・サプライヤー、それぞれの立場でどう向き合うべきかも紹介します。
特に昭和型のアナログな意識が残る組織であれば、必見の内容です。

ばらつきの「許容範囲」とは?基本を整理する

設計値と許容差

製品や部品には「この数値でなければならない」という“目標値(設計値)”があります。
しかし、すべてのものは必ず寸法や特性にばらつきが発生します。
そのため、設計と現実の橋渡しとして「許容範囲=許容差(トレランス)」が設定されます。
例えば「10.0±0.2mm」という表示であれば、9.8~10.2mmまでが合格ラインです。

許容範囲が狭いとどうなるか

許容範囲が狭ければ狭いほど、部品間の品質は均一になりますが、その分だけ不良品が発生しやすくなります。
また、測定や検査もシビアなものとなり、現場の負担は跳ね上がります。
さらに、調達先サプライヤーにも高度な管理、高い製造コストが波及します。

現場が苦しんでいる「ばらつき許容範囲」問題の実情

厳しい管理で現場にのしかかる3つの負担

1. 歩留まり悪化によるロス
狭い許容範囲を満たせず、不良判定が増加します。
その結果、せっかく作った部品がムダになります(=歩留まりの悪化)。

2. 検査工数・選別コストの増大
現場は安心して「ラインフロー」で組立てることができず、厳しい測定や選別作業が必須となります。
自動化も難しく、手作業が増えて現場は疲弊します。

3. サプライヤー管理コストの増加
品質規格が厳しいことは、調達部門や取引先のサプライヤーにも大きなプレッシャーです。
時にはコスト増や納期遅延の一因となり、「発注先が見つからない」「サプライヤー撤退」につながることも。

現象の一例:自動車業界での実態

例えば自動車業界では、外観の美しさ・安全性を理由にごく小さな寸法ずれも許されない部品があります。
しかし実際は、その微妙な“シビアさ”が、現場での選別作業や調達コストを増大させ、深刻な生産遅延を生み出していることも少なくありません。

なぜ「許容範囲」が無駄に狭められてしまうのか

1:設計→生産現場の断絶

設計段階では理想的な条件下で数値設定されがちですが、実際の製造現場では「温度変化」「工具摩耗」「測定誤差」など様々なバラつき要素が加わります。
設計と現場の情報が十分に共有されていないと、現実乖離が起きます。

2:過去トラブルの“反動”で保守的になる

一度でも重大な不良やクレームが発生した過去があると、再発防止のために過剰なまでに基準を厳しくしがちです。
「厳しくしておけば安心」という心理が働きます。

3:最先端競争と、求められる証明責任

受託生産や自動車・エレクトロニクスの分野では、海外顧客やグローバルサプライチェーンの要求で“ただしさ”が増幅されがちです。
厳しい規格で品質維持を証明すること自体が「商売の武器」となるケースも存在します。

許容範囲設定を見直すべき理由

QCD(品質・コスト・納期)のトータル最適化

ある部品で極端に狭いスペックを設定すると歩留まり悪化・ロス拡大・納期遅延が発生し、総コスト増となります。
本来のQCD最適化の観点では、“現場が実現可能な幅”で“最終品質保証”を果たす基準見直しが重要です。

サービス化・リードタイム重視の時代背景

昭和のように「大量生産一律」が“品質の正義”だった時代と異なり、現代は「多品種小ロット」や「スピード納品」がますます重視されています。
過剰なシビア管理は、柔軟なモノづくり文化の足かせとなります。

現場力の低下リスク

一生懸命良品づくりをしている現場が、理想と現実の間で疲弊し、モチベーションや人材定着にも悪影響を及ぼしかねません。

業界アナログ文化の“根強い壁”

なぜ脱・昭和型が進まないのか?

日本の多くの製造業では未だに“経験則”と“先輩の目”がものをいう現場文化が根強く残っており、積み上げ型でスペックが決まりがちです。
根本の「仕様の妥当性」「データと根拠の再評価」が置き去りになりやすい現実があります。

形式主義・縦割り組織

「図面通り」でなければNGとする形式主義、情報が層ごとに隔離された縦割り組織体制が、設計・調達・現場の本音交流を阻害しています。
こうした風土が、許容範囲見直しのイノベーションを妨げます。

サプライヤー&バイヤー視点で考える“許容範囲”

サプライヤー: “現場でギリギリ作れる”情報発信を

調達先となるサプライヤーは「何がどこまで作れるか」を現場実力ベースで積極的に開示・提案することが大切です。
“スペックの無理”を単なる「現場の努力不足」にせず、根本から協力検討するスタンスが次の取引に繋がります。

バイヤー: サプライヤーの現場の声を聞く重要性

調達担当やバイヤーは、“立場”でスペック要求や合否判断をしがちですが、生産現場やサプライヤーの情報も重視してください。
持続的なモノづくりパートナーシップ構築のためには「QCDベースでの打ち合わせ」や「現場の声を設計・開発に持ち帰る」姿勢が求められます。

これからの時代に適した取り組み

データドリブンな許容範囲再設計

IoT・デジタル技術の進展により、現代は現場のばらつきデータや工程能力を的確に数値化できる時代になりました。
各種統計データを活用し、「現場の実情」と「最終製品品質」を両立できる合理的な基準策定がより現実的になっています。

現場間・サプライヤー協働ワークショップのすすめ

問題のある仕様に関しては、製造現場・品質管理・調達・設計・サプライヤーが一堂に会し、「現実に作れる範囲」や「本当に必要な品質」について膝をつき合わせて議論する機会が有効です。

設計段階からのバリューチェーン参画

“後工程はお客様”という考え方が本当の価値を生むのは、設計・仕様決定時から現場・調達・サプライヤーが対等に参加できる仕組みを作ることです。

まとめ:現場目線の許容範囲が、製造業の未来を切り拓く

部品ばらつきの許容範囲が狭すぎて現場が苦しむ状況は、決して“自分たちだけの悩み”ではありません。
設計~現場~調達~サプライヤーのどの立場であっても、「最終製品にとって本当に必要な許容範囲とは何か」を、現場データや事実の議論をもとに再検討する時期が来ています。
デジタル技術と人の知恵を掛け合わせて、ムダな厳格さから現場を解放することが、戦略的なモノづくり変革の鍵になります。

一緒に、昭和を超えて、より強く、しなやかなモノづくり現場を築いていきましょう。

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