投稿日:2025年8月21日

海外サプライヤーとの時差や言語による意思疎通の困難さ

はじめに:グローバル化の進展と現場のリアル

製造業のサプライチェーンは日に日にグローバル化が進み、日本国内だけでなく、海外サプライヤーとの取引なしには成り立たなくなっています。

しかし、実際の調達や生産現場では「海外との時差」や「言語の壁」に悩まされる場面が数多く発生します。

ベテランの工場長として、そして現場での泥臭い実務経験を踏まえて、時差や言語によるコミュニケーションの障壁、その解決策と今後の業界動向を、実践的・多面的に掘り下げていきます。

海外サプライヤーとの時差問題:24時間工場が回る中で

生産・調達現場における時差のリアル

日本が業務時間の真っ最中でも、欧米やアジアの一部地域では深夜や早朝の場合が多々あります。

例えば調達購買部署で、現地に確認したい不明点ができた時、サプライヤーの営業時間外であれば翌営業日まで回答が得られません。

その間、設計変更や原材料の手配、生産スケジュールがストップしてしまうことがあります。

これが納期遅延やコストアップの火種となることは、現場で責任を負う立場ほど痛感するものです。

なぜ時差問題が深刻なのか?昭和型と令和型の視点

昭和の時代、日本のものづくりは「現地現物」「顔を合わせての確認」が重視されていました。

国際電話やFAXのやり取りも一般的でしたが、数時間、場合によっては数日かかるやり取りが当たり前。

一方、令和の今はスピード命です。

チャット、オンライン会議による即時レスポンスが求められ、そのギャップに戸惑う熟練技術者も多いです。

この「スピード感のズレ」こそ最大の障壁でもあります。

時差を味方につけるラテラルな工夫

ラテラルシンキングで考えるなら、時差を単なる「障壁」と捉えるのではなく、「24時間工場を回す武器」と考えてみましょう。

アジア→ヨーロッパ→アメリカと、タイムゾーン別に購買・生産・品質の分業体制を構築することで、世界をリレー形式でつなぐ「24時間プロジェクト推進型」も実現可能です。

また、どうしてもタイムラグが問題になる現場では、日米欧など各主要マーケットに「カスタマーサービスの拠点」を作り時差を吸収する戦略も有効です。

言語の壁:誤解・失敗は現場でこうして起きる

通訳がいても通じない「現場言葉」

一般的な商談であれば、通訳を介せばある程度意思疎通は可能です。

しかし、図面の読み合わせ、工程異常の報告、緊急トラブルの要因分析など、現場独特の専門用語が飛び交う場面では、意外とニュアンスや本質が伝わらないことが多いです。

例えば「仕掛品の在庫」「面取りの取り違え」「公差不良の傾向」など、日本語特有の曖昧さや文化的背景による表現は、翻訳ソフトではまず完全には変換できません。

”Yes”と言ってはくれるが、本当に分かっているか?

海外サプライヤーの多くは、表向きは柔軟で丁寧な対応をしてくれます。

しかし、実際には「理解したふり」や「自信がないのにYesと言う」といった現象も珍しくありません。

そのまま進行してしまい、いざ量産開始後に重大な設計漏れが発覚したり、納品物の品質が日本の基準と合致しない、といった事故につながるケースは枚挙にいとまがありません。

根本的に言語の壁を崩す「現場目線」のやり方

昭和から続く「雰囲気で合わせる」「融通無碍な職人技」の文化を残したままでは、グローバルサプライチェーンでは通用しません。

ここで必要なのは、「現場で画一的に通じるルール化」と「当事者同士のダブルチェック体制」です。

仕様書・作業指示・異常時のエスカレーションプロセスなど、誰が見ても誤解のないチェックリスト化・共通化を図ります。

さらに、現地担当者に「なぜそうするのか」の理由づけまで伝え、必ず双方で復唱・再確認することが不可欠となります。

製造業アナログ文化からの脱却が生死を分ける

昭和型「口頭伝承」から抜け出せない罠

日本の製造業は「現場力」が強いといわれますが、裏を返せば「現場依存・職人芸」に頼る部分も大きいです。

属人的な伝承、言葉にならないノウハウ、これがあるがゆえに海外移転やサプライヤー最適化が進まない現場も多いです。

時差や言語の壁への対策は、こうした「見えない情報」「暗黙知」をいかに形式知化(ドキュメント化・可視化)できるかがキーとなります。

IT化・標準化は「現場用」「国際用」の二重化が吉

各種基幹業務システム(ERP)、オンライン会議、翻訳ツールはもちろん有用ですが、製造現場で本当に役立つのは「専門用語辞典」「現場QA」「トラブル対応記録」といった、実践的なナレッジベースです。

海外サプライヤー視点でいえば、日本独自の品質意識や現場改善指向を、「日本語版と英語版」「現場用と経営用」など、相手側も読める形で情報発信することが重要です。

現場社員に現地語の語学研修を施す、あるいは現地スタッフを日本に呼び寄せ研修する、など地道な「相互理解の投資」の積み重ねも長い目では大きな違いを生みます。

バイヤー視点:海外調達のリアルな悩みと解決法

海外サプライヤーとの信頼構築には時間がかかる

海外サプライヤーと長期間良好な関係を築くには、「細かいトラブル=成長のチャンス」と前向きに捉える思考が大切です。

問題が起きた時こそ、本音で状況を説明し合い、共通言語(技術・品質・工程の用語)を少しずつ理解し合うことで、次第に距離感が縮まっていきます。

また、相手国の文化・商習慣を理解して尊重する意識も不可欠になります。

ことばの壁を超える”現場主導”の草の根活動

本社主導の一方的な指示型ではなく、現場の購買・生産・品質担当者同士がチャットグループを作り、自主的にQAナレッジを蓄積する、小さなローカル改善を積み重ねるスタイルが、最終的には「失敗ゼロ」に繋がります。

現場から出る素朴な疑問・気付きこそが、全体最適化へのヒントになるからです。

サプライヤーから見たバイヤーの本音:成功する協働のコツ

「バイヤーが本当に求めているもの」を見せる努力

サプライヤーは仕様や注文書の内容だけでなく、バイヤーがどこまで品質にシビアか、どういった経営判断・リスク感覚を持っているかまで含めて深く知ることで、提案や納品精度が大きく変わります。

対バイヤーのコミュニケーション改善は、「頻度」よりも「質」です。

同じ内容でも、伝える順序や背景説明を工夫し、技術担当・生産担当・購買担当それぞれに合わせて伝え分けると、格段に信頼が生まれます。

Win-Winの視点で時差や言語の壁を乗り越える

国際分業体制のもとでは、単なる「お客様ー業者」の関係では現代のスピード、品質、コスト要求を満たすことができません。

バイヤーが求める納期・品質目標に、サプライヤーが主体的に「どうすれば解決に近づけるか」を自ら模索できる風土こそが、グローバルサプライチェーンで生き残る秘訣です。

そのためには、時差や言語の壁を想定した事前リスクアセスメント、緊急時のコミュニケーションフロー設計など、より高度な相互サポート体制が求められます。

まとめ:グローバル時代の現場力と新しい協業スタイルへ

海外サプライヤーとの時差や言語の障壁は、確かに製造現場に大きな課題をもたらします。

しかし、本質的に求められているのは、単なる”翻訳”や”時差吸収”ではなく、現場で通用するナレッジのグローバル標準化と、相手の立場への深い共感です。

昭和流の職人技だけでも、ただの最新IT化だけでもグローバル競争は乗り切れません。

泥臭い現場主義×ラテラルな相互理解の両輪による「現場発グローバル最適化」が、今後の生き残りの鍵を握るといえるでしょう。

一人ひとりの現場力が、世界へとつながる未来を信じて、小さな行動から現場は変革できる。

日本の製造業の底力を、グローバル時代の新しい現場コミュニケーションで発揮していきましょう。

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