投稿日:2025年8月15日

粉体塗装への置換で溶剤管理費と歩留まり損を減らす外観設計の勘所

粉体塗装が注目される背景

製造業の現場では、使用する塗料の見直しが継続的なテーマです。
従来は溶剤塗料が主流でしたが、環境問題への配慮、コスト削減、法規制の強化といった背景から、粉体塗装への置換が加速しています。

特に近年では、VOC(揮発性有機化合物)排出規制や労働環境の改善ニーズが高まっており、溶剤管理費や事業所ごとの安全管理コストも無視できなくなっています。
こうした問題に応える形で、粉体塗装の導入が現場で具体化しているのです。

しかし粉体塗装は万能ではなく、製品設計や外観品質、歩留まり改善の「勘所」を押さえなければ、思わぬコストアップを招くこともあります。
本記事では、溶剤塗装から粉体塗装へ切り替える際に気をつけるべきポイントや、歩留まり損失の改善方法について、現場経験者の視点から解説します。

溶剤塗装から粉体塗装への移行メリット

1. 溶剤管理費の大幅削減

溶剤塗装は、有機溶剤の購入や保管、廃液処理、作業環境測定など、見えにくい維持コストが数多く存在します。
特に現場では、溶剤の取扱い量が多いほど管理費は膨らみます。

一方で、粉体塗装は溶剤を使わないため、有害なVOC発生源がなくなります。
結果として、防爆設備や換気設備の管理コスト、溶剤使用量に起因する規制対応支出が大幅に減少します。
また危険物倉庫や消防法・労働安全法令対応の負荷も軽減されるため、総合的な溶剤管理費を劇的にカットできるのです。

2. 歩留まり損失の低減

従来の液体塗装では、塗着効率(塗料が製品表面に付着する割合)が50〜60%程度にとどまり、“ミストロス”として回収不能な塗料損失が課題でした。
さらに再利用も困難なため、使うほど原価が上がり、歩留まりも悪化しがちです。

粉体塗装では、静電気の付着作用により塗着効率は通常70〜80%、さらに未付着の粉体塗料も回収し再利用できます。
これにより、現場での塗料原価のロスを最小化することができ、長期的には原材料全体の仕入れコストも抑えられます。

“昭和的”な常識と最新動向――アナログ現場のリアル

“昭和”的な製造現場では「塗装は液体が常識」という固定観念が根強い場合があります。
特に設計段階での思い込みや、現場の「うちはこのやり方でずっとやっているから」という声には注意が必要です。

また、ベテラン作業員の勘や経験に依存した調整が多い現場に粉体塗装を導入すると、品質バラツキや歩留まり悪化を招くケースも少なくありません。
これは粉体塗装が「一定以上の膜厚を必要とし、設計クリアランスや母材表面状態への影響度が高い」という技術的特性に依っています。

最近では、他業界(例えば家電や建材)を中心に粉体塗装のノウハウが蓄積され直近10年以内で仕様転換する会社も急増し始めています。
周囲の業界動向と自社現場の“昭和的習慣”を客観視し、柔軟な発想転換が問われる時代となっています。

設計段階での勘所――粉体塗装化の成否を分ける3つのポイント

粉体塗装化を進める際、設計・調達・製造各部門の密連携が求められます。
その中でも特に重要なのが、以下の3つの「勘所」となります。

1. 製品形状・凹凸の設計調整

粉体塗装は、厚膜を一気に形成できる一方、複雑形状や細かな凹部への塗着ムラが生じやすい欠点があります。
“引きずり現象”や“塗装半影領域”が生まれがちで、溶剤塗装時以上にR処理や面取り、エッジの緩和設計が重要となります。

また、溶剤塗装時に設計側が見逃しがちだった“シャドー部(塗料が届きにくい裏側/深い凹部)”や“袋状形状”は、粉体塗装化で塗膜不良のリスクが一気に顕在化します。
CAD段階から「粉体塗装性」を意識し、製品の形状条件の見直しや、塗装工程での治具仕様も並行してセットアップすることが大切です。

2. 材質毎の下地処理・表面粗さ

粉体塗装は溶剤塗料よりも膜厚が増す分、下地表面の微細な傷や粗さが外観不良として出やすい傾向があります。
設計・調達担当として、「どの材質にはどの表面処理/研磨グレードが最適か」を事前に仕様化しておくことが、工程全体の歩留まり維持に直結します。

特にアルミ材や亜鉛メッキ材、鋳物などは、母材表層の品質バラツキ・ピンホール・荒れ面が顕著に現場課題となりやすいため、塗装前処理と一体で設計に反映させる工夫が求められます。

3. 外観要件(色・艶・触感)の明確化

粉体塗装用の塗料レシピは、溶剤系よりバリエーションが限定されやすい特性があります。
高光沢や特殊色、メタリック調の緻密な粒子表現などは、選定できる塗料が限られる場合もあり、設計部が意図する「仕上がり外観」と現場での「実現可否」を確認する必要があります。

また、同一色でも塗膜の“肉厚感”や“質感”が変わるため、調達・バイヤーはサンプル採用段階で必ず塗装方式ごとに比較確認し、後工程(組立・検査・現場クレーム)での「こんなはずじゃなかった!」を防ぎましょう。

粉体塗装導入の実践ステップ

1. 現場ヒアリングによる実情把握

昭和の“現場至上主義”では、溶剤塗装を続ける現場の「抵抗感」や「不安」がネックになる場合が多々あります。
導入を成功させるには、まず現場作業員や検査担当から直接ヒアリングし、「どんな問題点が普段生じているのか、何が塗装品質不良につながっているのか」をローに拾い上げる姿勢が大切です。

2. 塗装歩留まりデータの可視化

粉体塗装導入後の歩留まり向上効果を示すためには、現状(溶剤塗装時)の歩留まり、塗料消費原単位、ミストロスの定量的なデータ取得が不可欠です。
バイヤーや設計者は、外観NG発生率や再塗装率、不良部位の傾向や要因など「現場生データ」を可視化し、How-Why分析を徹底しましょう。

3. サンプル試作・塗装条件の最適化

試作段階で小ロット・多品種を複数パターンで塗装してみて、実際の工程能力や外観仕上がり、どこに不良が集中するか(例えば膜厚不足や凹部の半影化など)を洗い出します。
条件出しにはメーカー各社の塗料サプライヤー協力も不可欠です。
歩留まりと仕上がりのバランス最適化に徹底的に知恵を絞りましょう。

バイヤー/サプライヤー視点の外観設計・調達のコツ

バイヤーや外注化担当、または塗装サプライヤーの立場で「量産移行時の原価差異、歩留まり損失」を抑制するには、上記の「設計」と「現場の工程実態」の両輪で判断することがポイントです。

特に、サプライヤー殿は見積段階で極力リスクを減らすべく、1)塗料回収率、2)ライン設備の導入・保守コスト、3)現場での外観検査C/T(サイクルタイム)、4)不良発生時のリカバリー工数をきちんと整理して提示しましょう。

発注側(バイヤー)が“コストセーブ”に走りすぎると、サプライヤー側が不良編成リスクを過度に背負うことになります。
長期的なWIN-WINの関係を築くためにも、情報共有と相互理解を徹底することが市場競争力の源泉となります。

まとめ:現場力×設計力で“粉体塗装化”の真価を引き出す

粉体塗装は、適切な外観設計・現場力・データ管理を組み合わせてこそ、溶剤管理費や歩留まり損を大きく減らせる技術です。
古い常識や過去の成功体験に引っ張られず、現場の変化をポジティブに取り込み、業界全体で底上げしていく“現場目線のラテラルシンキング”が求められる時代に入っています。

バイヤーや調達部門、サプライヤー担当者の皆さま自身が「世代を超えて現場と設計をつなぐファシリテーター」となることで、ものづくり現場に新たな知恵と強固な付加価値をもたらしていきましょう。

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