投稿日:2025年10月18日

ティッシュボックスの取り出しやすさを作る折加工と紙厚設計

はじめに:ティッシュボックスの“使いやすさ”とは何か

ティッシュボックスは日常生活のどこにでもある消耗品ですが、その「使いやすさ」を意識して設計された経験がある方は意外に少ないのではないでしょうか。

製造業の現場やメーカーが重視すべきは、「取り出しやすさ」という極めて実務的な課題です。

消費者が無意識に感じているストレス――例えばティッシュが途中でちぎれたり、複数枚まとめて出てきたり、そもそも取り出し口で紙が引っかかるといった現象。

これらの現象は、折り加工や紙厚設計、ボックスの形状設計の工夫の積み重ねが足りないことから起こります。

本記事では、製造業の現場からの視点で、ティッシュボックスの取り出しやすさに直結する「折加工」と「紙厚設計」の重要性、そして改善の方向性と未来について考察します。

「取り出しやすさ」を生み出す要素とは

ティッシュの使いやすさを決定づける要素は、主に三つあります。

1. ティッシュ本体の紙質と厚み(紙厚設計)

紙が薄すぎれば簡単に破れ、厚すぎれば手触りが悪くなります。

また、コストや輸送性、箱への収容枚数にも直結します。

絶妙なバランスが求められます。

2. ティッシュの畳み方(折加工)

ティッシュは、製造ラインで一定のパターンで折りたたまれ、箱詰めされます。

通常は「インターフォールド」方式、つまり一枚を引っ張ると自動で次の一枚の端が持ち上がる折り方が採用されています。

この時、折り目のズレや密度によって、多枚取り・一枚切れ・残留出しなど、ユーザーがストレスを感じる事象が多発します。

3. ボックスの口径や取り出し口形状

取り出し口の大きさや縁の硬さ、紙の引き出しやすさにも大きく影響します。

本稿では主に1と2、すなわち折加工と紙厚設計にフォーカスします。

折加工の現場的落とし穴

現場の声として、折り加工におけるトラブルはしばしば見逃されがちです。

昭和から続く習慣的な生産ラインでは、「定番の折り設定」「ベテラン担当者の勘」に頼って問題を先送りする例が多いためです。

頻発するトラブルとその背景

・折り目が浅く、箱の重みで崩れる
・機械精度のぶれにより折幅が不均一
・紙送り時の静電気でシートが貼り付いて複数枚が取り出される

こうした現象は、現場のカイゼン活動やQC(品質管理)サークルでも度々議題となっていますが、「1分間に何枚生産できるか」という生産性の論理に押し切られる場合がしばしばあります。

サプライヤーの立場で見れば、「納品仕様には沿っています」と突っぱねるのが正直なところです。

バイヤーや製品設計者の皆さんには、こうした現場目線もぜひ知ってほしいと思います。

解決の方向性:数値化と標準化

折加工を“感覚”から“数値”へ。

・折りしろの精度(±〇mm)
・折目圧(N/cm2で管理)
・静電気への対策(イオナイザー搭載、湿度管理)

最近はAIカメラで折り加工の乱れを検知する事例もあります。

品質を「数値」で語れる現場に進化することが、折加工の未来です。

紙厚設計のジレンマ

バイヤー、調達担当の目線で最も現実的なのはコストと品質のバランスです。

厚いティッシュと薄いティッシュ、それぞれのメリット・デメリット

・厚い紙:しっかりしていて破れにくいが、枚数が減る・コスト増
・薄い紙:コストダウン・入数アップ・輸送効率向上だが、使用感の悪化(透ける、破れやすい)

新興国向け、介護施設向け、高級ホテル向けなど、ユーザー像によって厚みや肌触り、コストに対する理想バランスも変化します。

現場が知る“混抄”技術の進化

パルプにバインダーや機能成分(柔軟剤、防臭剤、抗菌剤など)を混ぜる“混抄”技術により、「薄くても柔らかく、しかも強い」ティッシュが作れるようになってきました。

一方で、機械による厚みのムラや、原紙メーカー間の品質安定性が課題です。

ここでも重要なのは、設計値と実態(現場の生産可能域)を一元化することです。

業界が見落としがちな「紙厚分布」

ユーザーは“最薄部”で感じ取る不快感に正直です。

三 sigma 管理による厚み分布の管理や、AI検査ラインによるサンプリング頻度の向上が求められる時代になっています。

調達・購買の力が問われるのは、単なるスペック比較で終わらず、「どこにリスクやブレがあるか」を現場と一緒に確認し、共通言語で会話できるかどうかです。

昭和から脱却せよ!アナログ現場の習慣を打破する

製造業、特にファインペーパー(家庭用紙製品)業界は手順書や職人任せの文化が色濃く残ります。

しかし、DXや自動化の波は少しずつ浸透しています。

現場の“当たり前”を疑うことから

・「いつも通りで問題ない」
・「多少のバラツキは仕方ない」
・「上からはコストだけ言われる」

そう考えてしまうのが現場の本音ですが、本当にそれで大丈夫でしょうか。

発想をラテラルに転換してみましょう。

たとえば――

・毎日1,000箱生産する現場で、10%が“多枚取りトラブル”と気付かず流れていたら?
・年次棚卸の返品率を調べ、実は取り出し不良が要因の半数を占めていたら?

「気付き(insight)」をシステムやデータから積極的に拾い、工場のQCDバランス(品質・コスト・納期)を現場起点で再設計することが、アナログ業界最強の武器になるはずです。

バイヤー・サプライヤーが知っておきたい現場の本音

製造業の調達・購買業務においては、「仕様書とコスト」のみで判断しがちですが、現場の実情としては次のような背景があります。

バイヤーとして気をつけるべきこと

・折り加工、紙厚設計の“実際の許容範囲”を現場基準で把握する
・不良の発生頻度、ユーザーのクレーム傾向も合わせて一元管理する
・現場視点での「工程キャパ」や「突発要因」もヒアリングする

逆に、サプライヤー側は「納入仕様通り」という主張で済ませがちですが、ユーザー目線をもう一歩押し広げ、「なぜ多枚取りが起きるのか」「なぜ取り出し口で紙が引っかかるのか」まで因果を求めましょう。

アナログ現場でもできる工夫

・QCサークルを活用した現場カイゼンの推進
・簡単なデータ収集(たとえば日報へのトラブル記録追加)
・現場・設計・調達による合同レビュー会の実施

たとえば、「第1・第3工程の交差点で静電気が発生しやすい」という仮説が出たら、対策前後で不良率をトラッキングし、現実とのギャップを可視化するだけで、現場のモチベーションや技術力は大きく変わります。

ラテラルシンキングで開拓する新たなものづくり

ティッシュという身近な日用雑貨ひとつを取っても、折加工・紙厚設計にまつわる数々の課題や、アナログ現場での先入観、コストと品質のせめぎ合いがあります。

これまで製造現場を効率化し、品質管理を粘り強く追求してきた私たちだからこそ、今こそ「産業の枠組み」をラテラルに捉え直すことができます。

たとえば“逆転の発想”もアリでは?

・「一枚引けば次が浮き上がる」インターフォールド常識の見直し
・複数枚を意図的に取り出し、使った分だけポイント還元するIoTボックス
・特定季節やユーザー層に合わせて「厚みが変化する」自動アジャスト製造ライン

こうしたアイデアが生まれる余地はまだまだあります。

現場起点でラテラルな発想に挑戦し、紙厚設計・折加工の領域を超えた「新しい日用品体験」を作っていく。

それこそが、今後のアナログ業界に求められる価値創出なのではないでしょうか。

まとめ:現場とユーザー、双方に“気持ちよさ”を届けよう

ティッシュボックスの「取り出しやすさ」は、折加工や紙厚設計など、きわめて技術的な積み重ねから生まれます。

しかし、その改善と変革には、現場の思い込みや慣習を打破する“気付き”と、バイヤー・サプライヤーの対話が不可欠です。

データや数値化、デジタルツールを積極的に導入し、ラテラルシンキングで現場発のカイゼンと新しい価値創造にチャレンジしていきましょう。

この記事が、製造業で働く方、調達・購買を目指す方、サプライヤーの皆さんにとって、新たな視点のヒントになれば幸いです。

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