トイレットペーパーの肌触りを生む抄紙密度とエンボス圧制御

はじめに：日常の安心に隠れた技術——トイレットペーパーの肌触りを決めるもの

トイレットペーパーは私たちの生活に欠かせない日用品のひとつです。
しかし、その「肌触り」にこだわる消費者の目線を満たすためには、実は数々の高度な技術が密かに詰まっています。
なかでも、「抄紙密度」と「エンボス圧」は、紙の柔らかさや吸水性、そして使ったときの快適さを決定づける重要なパラメータです。

この記事では、長年の製造業現場で培った知見をもとに、トイレットペーパーの製造における抄紙密度やエンボス圧制御の実態と、その裏にあるバイヤーやサプライヤーの思考、業界全体の動向までをわかりやすく解説します。

抄紙密度とは何か？——肌触りを根本から決める基礎技術

抄紙密度の定義と製造プロセス

抄紙密度とは、文字通り「抄紙」、つまり紙を抄（す）く工程でコントロールされる紙の密度（体積あたりの質量）を指します。
この密度は原料パルプの繊維の配合比、水分量、さらには脱水や乾燥の仕方によって決まります。
密度が高ければ強度や耐久性は上がりますが、そのぶんゴワゴワとした手触りになることが多いです。
一方で密度が低すぎると、破れやすくなり、商品としての信頼性を損ないます。
理想的な肌触りのバランスを見つけることは、長年試行錯誤と現場知見が蓄積された製造ノウハウの塊と言えるでしょう。

昭和アナログ思考が色濃く残る密度設定の現場

抄紙工程では今なお職人の勘や経験値が強くものを言います。
現場が密度を最適化するために使う主な指標は、坪量（1平方メートル当たりの重さ）が一般的です。
昭和時代から続く「この設定が一番客ウケする」などの知見は、なかなか数値化や自動化が進んでいません。
しかし消費者ニーズの高度化や、高級トイレットペーパー市場の拡大によって、この「肌触りの黄金比」をデータ化して制御できるメーカーが一歩先を行く時代に突入しています。

バイヤー・サプライヤー観点で見た抄紙密度の重要性

バイヤーが最も重視するポイントの一つが「リピート率の高い品質」です。
肌触りや柔らかさ、破れにくさといった数値には表しきれない定性的な評価を、いかにプロセスで再現・保証できるかが問われます。
そのため調達先のサプライヤー選定では、「データで密度を可視化・管理しているか」「試作段階で柔軟に密度調整ができるか」などが大きなアドバンテージになっています。

エンボス圧制御とは——感触とボリューム感を生み出すもう一つの鍵

エンボス加工の役割と技術

エンボスとは、紙の表面に凹凸の模様を施す加工を指します。
ロール状の型で紙をプレスし、独特なふんわり感や立体的な柄を与えることで、「厚みが増した」ように感じさせたり、吸水性を高めたりします。
この時に決め手となるのが「エンボス圧」です。

高すぎれば紙が破れやすくなり、低すぎれば柄ははっきりしません。
ミリ単位、さらには圧力センサーで制御する繊細な仕事になります。
またエンボスのパターン自体も各社で工夫されている点です。

工場自動化とエンボス工程の進化

ここでも昭和アナログ業界特有の「職人技」が部分的に残っています。
しかし最近では、ロボットによるロール交換や、AI制御による圧力自動調整の技術が導入され始めています。
品質のバラつきを最小化し、不良率を下げるものですが、その一方で「高級ブランドの手触り」はいまだにベテラン職人の細かい見極めが重要です。
サプライヤー側は「自動化で歩留まり向上」「職人技の再現性保持」という両面の技術開発が求められています。

バイヤーがエンボス工程を見極める視点

バイヤーの視点では、製品本体の差はもちろん、「工場の技術力」や「安定供給可能な自動化レベル」も重要です。
さらには、ブランドを差別化できるオリジナル柄の開発力や、消費者テストの結果などをサプライヤー選定や価格交渉の材料として活用しています。

サプライヤー・バイヤーそれぞれが知るべき「見えない競争軸」

バイヤーに求められる「現場感覚」と「アナリティクス力」

バイヤーは従来の「価格・納期・見た目品質」だけではなく、「製造現場の工程制御レベル」「ESG（環境・社会・ガバナンス）観点での供給姿勢」といった、より多面的な評価を日常的に行う必要が出てきました。
質感や衛生性といった感覚的な部分も理解し、メーカーや工場現場との対話を深めることで、「本当に価値があるトイレットペーパーとは何か？」を再定義する力が問われています。