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公差帯の再配分で高価工程の負担を軽い工程へ移す設計連成

目次
はじめに:公差帯の再配分がもたらすもの
ものづくりは設計から始まり、調達、製造、品質管理と多くのプロセスを経て最終製品が完成します。
その中で、公差管理は製品の性能・コストを左右する極めて重要な要素です。
特に日本の製造業においては、公差設計が古い慣習に引っ張られがちであり、設計変更や改善による大幅なコスト低減のチャンスが見逃されています。
本記事では、「公差帯の再配分」という切り口から、高価な工程の負荷を比較的低コストな工程に移す「設計連成」の考え方を、実例や業界動向も交えながら解説します。
現場目線の実践論を通して、調達購買や生産管理、品質保証に関わる方のみならず、業界に新たな視点をもたらしたい方にぜひ読んでいただきたい内容です。
公差設計とは?ものづくりの基本をおさらい
公差は品質・コスト・生産性のバランスポイント
公差設計とは、部品や製品の寸法や性能に許されるばらつき(誤差)の範囲を設計図面上で定めることです。
「±0.01mm」や「H7」などの表示が典型ですね。
この範囲が狭すぎると、精密加工や高価な検査が必要となりコストアップにつながります。
逆に、範囲が広すぎると品質不良や事故のリスクが高まります。
このバランスの最適化こそが、公差設計のプロの腕の見せ所です。
しかし実際には、長年の慣習や「事故が起きるよりは厳しくしておこう」という心理、安全係数を多く積んだ図面によって、本来は不要な高コスト化が起こっているのが日本の現場のリアルです。
公差の割り振りがもたらすサプライチェーン全体への影響
例えば、調達バイヤーが発注先サプライヤーに「最終製品全体で公差±0.02mm特性」を要求したとします。
その際、どの工程にどのくらいの公差帯を割り振るか(分配するか)により、部品コストも外注先の選定も劇的に変わります。
もしも精密研磨や特殊機械加工が不要な部分まで厳しい公差を設定してしまえば、無駄な費用や納期遅延、品質問題を招いてしまいます。
現場で多発する“もったいない公差”的事例
プロジェクト初期の決定が製造現場を苦しめる
部品同士の組み合わせ精度が必要な場合、最終製品の性能を保証するため「全部の工程でギリギリの寸法で作らないといけない」と考えがちです。
しかし、組立や検査の現場から見ると、加工コストが跳ね上がり、しかも現場では「何のためにここまで精密に?」と思われている部分も少なくありません。
典型的な例として、2000年代初頭に現場で見かけた「全自動組立機」の導入があります。
機械自体は最先端なのに、流れてくる部品にはミクロン単位の厳しい公差が設定されていました。
その理由が「これまでの設計図面の流用」でしかなく、設計者・生産技術者間の会話もほとんどない――。
熟練オペレーターが手仕上げで対応するしかなく、納期遅延や不良発生が多発した苦い経験があります。
アナログ業界の“伝統”が現代ものづくりにおいて足枷に
日本の製造業、とりわけ昭和から続く機械/電気業界では「仕様は厳しい方が事故が起きない」という根強い信仰があります。
その結果、図面の公差だけがどんどん厳しくなり、受ける現場・サプライヤーは「難しい要求ばかり」と疲弊してしまいます。
特に地方中小企業のベテラン現場責任者からは、「元請けの図面ありきで限界まで作るしかなく、仕様緩和の交渉が困難」という声がよく聞かれます。
この不合理を打開するために、新たな公差設計・管理のアプローチが求められています。
設計連成とは何か – 公差配分の新たな潮流
公差帯の再配分で全体最適を叶える
設計連成(Design Integration)という考え方は、機械設計・電気設計・生産技術・品質管理・調達など複数部門が連携しながら製品設計の最適化を追求するアプローチです。
注目すべきは、「全体で必要な精度を担保しながら、高価な(難しい)工程の厳しい公差帯を、より負担の軽い工程に移し替える」ことです。
たとえば、次のようなケースが考えられます。
– 高価な研磨加工工程で厳しい寸法精度を求めていた部分を、前段階の機械加工(フライスや旋盤等)でもっと緩い寸法でも良いと評価しなおす。
– 部品面取りや位置決め精度を、自動組立設備で吸収できるように設計変更し、個々の部品公差を緩和する。
– アッセンブリでのクリアランス計算を一から見直し、厳密な組み立て精度よりも部品同士の噛み合い遊びで調整する設計に移行する。
業界を代表する自動車メーカーや精密機器メーカーの最先端現場では、設計段階からシミュレーションやDFM(製造容易化設計)、現場ヒアリングを取り入れ、「どこに公差の“帳尻合わせ”をするのが全体最適か?」を徹底的に検討しています。
なぜ今、公差配分の見直しが必要なのか
市場環境の変化、高付加価値化、働き方改革、コストダウン、デジタルトランスフォーメーション(DX)と、製造現場の要請は年々多様化しています。
従来の分業構造や縦割り思考のまま戦おうとすれば、負担過多の部署が疲弊し、人財流出や下請けサプライヤーの倒産リスクも増加します。
そこで各部門の担当者がフラットな立場で連携し合い、公差設計の初期から現場現実を取り込むことが、持続可能なものづくりへのカギとなります。
現場目線で実践する公差帯の再配分フロー
1. 設計主導ではなく「連成」主導を徹底する
まず設計側が「この公差はこうあるべき」と独断せず、必ず生産技術・品質管理・現場担当者・調達バイヤーと相談します。
「現行工程では±0.01mmはコスト高。±0.05mmでも十分かも」という現場の声をデータで取得・共有し、設計仕様へフィードバックする仕組みが不可欠です。
2. 工程能力データを使った定量的な配分設計
各工程(旋盤加工、塑性加工、仕上げ等)の工程能力指数(Cp、Cpk等)を収集・可視化します。
このデータをもとに「費用対効果」を分析し、「円単位で誰がどのくらい貢献できるか」を比較します。
例えば「公差を1/2に厳しくすると工程コストが2倍になるが、最終製品でのトータルコストは10%しか下がらない」なら、現実的な配分再考を判断できます。
3. 工場自動化・品質保証現場と現物を見ながら詰める
自動化設備の限界や治具精度、現場作業者のスキルも勘案しなければなりません。
公差再配分は現場を知らなければなおさら非現実的です。
例えば「この部分は組み立てロボットによる位置補正が効くから、部品それ自体の寸法精度を緩めても良い」といった発想が可能です。
4. サプライヤー・外注先をパートナーとして巻き込む
「発注者 vs 受注者」の構図を超えて、サプライヤーの技術力、生産現場や管理コストまで加味したコミュニケーションが必要です。
「この寸法公差帯ならこの設備で月産○個まで可能」「自社工程ではこの部分の公差を拡げてくれればコストを3割下げられる」など、開かれた対話から全体最適が生まれます。
大手メーカーだけでなく、中小製造業でもサプライヤー開発やパートナーリングの先進事例が増えてきています。
実践事例:公差再配分によるコストダウンとQCD向上
ケース1:精密シャフトの加工負荷再配分
ある精密機器向けシャフト部品の例では、従来「研磨工程で±0.005mmの寸法公差」を規定していたものを、「前段階の旋盤工程で±0.02mmまで緩和」し、その分「組付け後の全長精度の総和で保証」するアプローチに変更しました。
その結果、研磨コストは30%以上削減され、不良率も大幅に低減。
旋盤工程のキャパシティ・設備能力把握と組み立て現場との議論が功を奏した代表的な事例です。
ケース2:組立ズレ吸収型設計で手作業コスト削減
自動車のダッシュボードユニット組み立て工程の見直し事例です。
従来は「各部品同士の公差を極めて厳しく統一」していましたが、組立治具側で遊び(ガイド)を設ける構造に設計変更。
個々の部品寸法公差帯を0.3mmから0.8mmに拡げ、発注先も近隣の汎用装置メーカーに切り替えました。
同時に現場作業者の調整時間も大幅削減。
QCD(品質・コスト・納期)全てで劇的な改善が実現しました。
公差帯再配分✕DX=製造業の未来
AIシミュレーション・自動最適設計の活用
昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)の波が製造業にも押し寄せ、AIによる公差シミュレーションや「自動最適公差設計ツール」の開発が進んでいます。
設計連成の議論の前に、多数のパターンを瞬時にシミュレーションし、「最もコスト効率が高い公差配分案」をAIが提案する時代が到来しています。
サプライチェーン全体のデジタル化により、発注前から工程・見積もり・納期シミュレーションが現実化しつつあります。
日本の現場がラテラルシンキングで変わるとき
公差帯の再配分・設計連成は、単なるコスト論理だけでなく、現場の豊富な経験・直感・“あの手この手”も融合させていくプロセスです。
異なる立場の知恵を結集し、「従来こうだったから」ではなく、常に新しい組み合わせ、仮説立て、現場トライを試みる姿勢=ラテラルシンキングが鍵となります。
まとめ:新しい公差設計で日本製造業をアップデート
公差帯再配分による設計連成は、設計者・調達購買・現場生産管理者・サプライヤーの皆さんにとって「負担のババ抜き」ではなく「全員が勝てる最適解」を探る共同作業です。
昭和流の慣習・思い込みを突破し、工程の見える化・データ化、現場現実の理解、そして柔軟な実践知が不可欠です。
ぜひ自社のものづくりにこのアプローチを持ち込んでみてください。
きっと“つくるよろこび”“売れるよろこび”“共に伸びるよろこび”を感じられるはずです。
製造現場で働く方も、これから調達購買やバイヤーを目指す方も、そしてサプライヤーの皆さんも、公差設計の本質を今一度問い直し、ラテラルな思考で新たな価値を創出されることを願っています。
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