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海外向け梱包の基準を理解していない企業が多すぎる現実

目次
はじめに:なぜ海外向け梱包の基準が重要なのか
製造業に携わっている方で、実際に海外へ製品を輸出した経験をお持ちの方は、海外向け梱包の”基準”というワードにピンと来るはずです。
しかし、現場レベルになると未だに「国内と同じ感覚で梱包しても大丈夫だろう」、「出荷後は物流会社に任せきり」といった声を多く耳にします。
これは特に昭和的なアナログ体質が根強く残る日本の製造業現場で顕著に見られる現象です。
せっかく高品質なモノづくりをしてきても、梱包に対する意識や基準が甘いせいで、せっかくの製品が現地でトラブルを引き起こすケースが後を絶ちません。
本記事では、なぜ海外向け梱包には明確な基準が必要なのか、そしてそれに対応しないことによるリスクやビジネスインパクト、さらには実務的に現場で実践できる具体的アクションまで、現場目線で深掘りしていきます。
なぜ、海外向け梱包は「特別」なのか?
物流距離・リスク・環境条件の違い
国内出荷と海外出荷でまず大きく異なる点は、「物流プロセスの複雑さ」「距離」「環境条件」です。
海外向けとなると、船積みや航空便での運搬が必要になり、積み降ろし回数も増えます。
その上、温度・湿度・衝撃など、製品がさらされる環境も非常にハードです。
国内なら1日で届けられる荷物も、東南アジアや欧米への輸出では、2~3週間以上もかかるのが当たり前です。
その間、製品は“誰も責任を持たない”状態で移動し続けます。
未経験であれば、この感覚を想像しにくいかもしれませんが、経験のある現場担当者は口を揃えて「本当に何が起こるか分からない」と言います。
このような背景から、海外向け梱包には独自の基準やノウハウが必要となるのです。
商習慣・法規制・検疫基準の違い
さらに見逃せないのが、各国ごとの商習慣や法規制、検疫(フィトサニタリー)基準です。
代表的なのは、“ISPM No.15”と呼ばれる木材梱包材への燻蒸処理やスタンプ表示の義務です。
これを怠ると、到着地での検疫で貨物が止まったり、最悪の場合は積み戻しや廃棄処分となることもあります。
また、EU諸国や北米・オーストラリアではリサイクル材や特定有害物質の含有規制があり、規制を知らずに梱包した場合、想定外の追加コストや納期遅延が発生します。
なぜ多くの企業が海外向け梱包の基準を理解できていないのか
昭和型のアナログ組織文化
多くの成熟した製造業では、「今まで通り」が最も重視されやすい傾向にあります。
伝統の業務フロー、慣習的な梱包方法、曖昧なマニュアル。
「事故がなければOK」という姿勢で、成功体験だけが優先されがちです。
私自身、工場長を務めていた現場で、部署間で基準の解釈がズレていること、そもそも責任所在が曖昧なまま海外梱包を続けているのを度々目撃してきました。
分断されがちな業務と情報
購買、物流、製造、それぞれが個別最適で動いており、梱包基準の「全体最適」を考えることが難しくなっています。
「購買部が手配した資材に問題があった」
「現場製造は出荷条件を理解していない」
といった部署間の分断がリスクを生みます。
とくに、バイヤー経験の浅い人や、調達・開発部門と製造現場との連携が希薄な企業では、この傾向が色濃くなります。
グローバル基準のキャッチアップ不足
法令や基準は年々アップデートされていきます。
たとえばEUの環境規制(REACH、RoHSなど)、国連勧告による梱包材基準の更新などです。
ところが、定期的な情報収集や基準の見直しができていない企業が大多数となっています。
バイヤー・サプライヤーの視点ギャップ
バイヤーは、コスト・納期・品質と共に、「トラブルゼロ」を重視します。
その一方、サプライヤーは出荷時点での“見た目”や自社側都合の効率を優先しがちです。
このギャップにより「海外基準」の本質的理解にズレが生まれやすいのです。
梱包基準を誤るとどうなるか――現場事例から学ぶ
Case1:ISPM No.15違反による納期遅延
大手自動車部品メーカーがヨーロッパ向けに納品した際、木製パレットにISPM No.15認証がなく、到着港で検疫ストップ。
2週間の保留後、最終的に“積み戻し”となり、現地工場の生産ラインが止まり、莫大な損害賠償問題に発展。
当時の現場責任者は「全て書面で要求があるはずと思い込んでいた」と証言しています。
Case2:簡易梱包による製品破損と信用失墜
電子精密部品メーカーが、アジア向けに国内流通と同じ段ボール梱包で輸出。
到着した製品の大半が振動・湿気でダメージを受け、「日本製=信頼」というブランド価値を大きく毀損しました。
現地バイヤーが激怒し、以降その顧客との取引が途絶えた痛恨事例もあります。
Case3:法規制無視によるコスト増加
米国向け梱包で、現地で禁止されている発泡スチロール材を使用してしまい、現地で全て再梱包・廃棄処分。
追加費用が全額製造元負担となり、利益が吹き飛ぶケースも耳にします。
現場レベルで実践できる、海外向け梱包基準確立のポイント
1. 各国・各顧客ごとの要求事項のリスト化
まず最初のステップとして、過去のトラブル事例や規制情報、顧客ごとの「お作法」をリストアップ・見える化することが鍵です。
バイヤーとのやり取りで明確に分からない点があれば、遠慮なくQ&Aリストを作り、必ず事前確認する文化を根付かせましょう。
2. 梱包設計の段階から全体最適化を意識
購買担当、物流担当、製造現場、品質保証が合同で、どこにどんなリスクがあるか、具体的にシミュレーションを行うべきです。
「誰かがやってくれるだろう」ではなく、「一度は全員で考え抜く」がトラブルゼロの鉄則です。
3. マニュアル・標準書の定期アップデート
法令改定やお客様の要求変化に追随できるマニュアル、標準化文書を整備します。
また月1回でも定期的にアップデートし、全員が必ず目を通す運用を仕組み化しましょう。
4. トラブル・ヒヤリハット事例の全社共有
実際の事故・失敗事例は、現場こそ「明日の自分たちのリスク」と肝に命じて取り扱うべきです。
メール通信や朝礼、社内掲示板等を活用し、カイゼン活動として全社で共有してください。
5. 梱包材サプライヤーとのパートナーシップ深化
単なる資材発注先ではなく、材料メーカーや物流会社と“対話”することで、最新の梱包トレンドや事故事例情報をキャッチアップできます。
“サプライヤーの立場でバイヤーの要求を知る”ことができる場でもあります。
バイヤー目線で考える、理想的なサプライヤーとは
大手メーカーのグローバルバイヤー達が最も重視しているのは、「トラブルゼロ=安心調達」です。
どんなに価格・納期が優れていても、梱包ミスや法規制違反があれば一瞬で関係終了となります。
理想的なサプライヤー像として、大手バイヤーが口にするのは、
・「法令や基準を自ら正確にキャッチアップし、能動的に提案できる」こと
・「トラブル・修正提案の際、スピーディーでロジカルな対処行動を取れる」こと
です。
梱包基準理解を深め、現場でのアクションに落とし込めるサプライヤーであればあるほど、購買担当者の“心配事”は減り、その分長期的な信頼・案件獲得に直結します。
まとめ:海外向け梱包基準の本質は「商売の土台作り」
製造業で働く方々、将来バイヤーを目指す方、そしてサプライヤーとしてお客様の要望に“気づける力”を高めたい方に向けてお伝えしたいことがあります。
海外向け梱包基準は、「面倒な追加作業」や「お金をかけるコスト」である以前に、「製品価値を守る」「信頼を積み上げる」ための商売の土台なのです。
この基準を軽視したままでは、どんなに性能やコスト競争力で優れていても、グローバルな市場で選ばれることはありません。
現場目線からの“実践的な気づき”を社内に広め、他社との差別化と「トラブルゼロ」の安心調達を実現しましょう。
新たな地平線は、「梱包基準」という地味ながらも確実なバックボーンから、必ず開けていきます。
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