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データ分析指標が多すぎて優先順位が崩れる現場

データ分析指標が多すぎて優先順位が崩れる現場
はじめに ― 指標迷子になる製造現場
製造業の現場では、「データドリブン経営」「見える化」という言葉が日常語のように飛び交っています。
IoTやAI、各種センサの導入により、現場のあらゆる工程で膨大なデータを取得し、数値での管理や分析が容易になりました。
しかし、その一方で「何を重視し、どの指標で現場を動かすべきか」の優先度が曖昧になりがちです。
特に調達や購買部門においては、納期遵守率、コスト削減比率、品質不良率、発注リードタイム、サプライヤーパフォーマンスなど、管理するべきKPI(重要業績評価指標)があふれかえっています。
現場の管理者やスタッフは、多すぎる指標を前に「結局どこを改善すればよいのか」と戸惑い、本来目指すべきゴールがぼやけてしまうことも少なくありません。
この記事では、製造業の現場でよく起きている「指標迷子」状態に焦点を当て、優先順位を崩さないための考え方や、アナログ文化が色濃く残る業界ならではの問題点、サプライヤーやバイヤー視点での工夫について解説します。
なぜ指標が増え続けるのか
データ分析の指標が増え続ける背景には、大きく3つの要因があります。
1つ目は、「現場で困ったことが起きるたびにKPIを追加する」という場当たり的な文化です。
ある品質不良が発生したから「品質トレンドの見える化指標を追加」、ある納期遅延が発生したから「納期遅延件数を新たなKPIに加える」など、対症療法的な追加が繰り返されてきました。
2つ目は、「デジタル化によるデータ取得コストの低下」です。
センサやMES(製造実行システム)、ERPといったツールによって以前は取得できなかった細かなデータも簡単に取れるようになり、「せっかく取得できるなら分析しましょう」と全てを可視化しようとする傾向が強まっています。
3つ目は、経営層や監査部門から多岐にわたるKPIの提出要望が多発し、現場レベルの整合が取れないまま「とにかく数値を出す」風潮に拍車がかかっている点です。
これらの要因が複合することで、結果的に指標の数が膨大になり、現場が何を目指せばよいのか分からなくなる「指標迷子」に陥るリスクが高まっています。
昭和から続く「アナログ業界体質」と指標乱立の相性の悪さ
日本の製造業は世界から高い評価を受けていますが、その現場の多くはいまだに「メモと勘、ベテランの神の手」に頼るアナログ体質が根強く残っています。
近年データ活用やデジタル化が急速に進む一方で、昭和世代から続く現場リーダーや工場長の中には、「数値はあくまで参考」「現場で見る肌感が大事」といった考え方が今なお強いです。
この状態で、ただでさえ分かりにくい指標が増え続けると、「これは本当に現場に必要なのか?」と疑念が生まれ、現場の士気が下がることも起きがちです。
例えば、品質指標だけでも「一次合格率」「不良品率」「クレーム件数」「瑕疵対応時間」などが並び、さらに社外監査で新たな指標が求められ、現場が振り回されてしまう。
数値管理が現場現実と乖離すれば、「結局、昔ながらの職人技が一番だ」となり、データドリブンの取組みが形骸化する危険性すらあります。
指標迷子が引き起こす4つの現場リスク
指標乱立によって現場にどのようなリスクが生まれるのでしょうか。
過去20年以上にわたる私の経験から、以下の4つが頻発します。
1. **数値達成のための小手先の行動が増える**
KPIの数が多いと、現場は「この指標だけ達成すれば良いだろう」と、恣意的な数字合わせや一時的な対応が増えてしまいます。
本質的な改善ではなく、報告用の数値作りに終始してしまう危険性があります。
2. **改善活動のプライオリティが混乱する**
どのKPIを最優先に改善すべきかの判断が曖昧になり、現場スタッフも「今日はこの数字、明日はあの数字」と、軸のない改善活動を続けることになりがちです。
3. **現場と経営の危険なズレが発生する**
現場で本当に困っている課題と、経営層が求める指標が乖離すると、「トップダウン型の押しつけ」と現場反発の温床になります。
「やらされ感」が強まることで、本来の改善意欲が失われてしまいます。
4. **過剰な数字管理による、現場オペレーションの停滞**
過度な指標管理のせいで、Excelや報告書づくりに現場の時間とリソースが吸い取られ、生産や品質管理などの本業がおろそかになる事態が起きます。
バイヤー・サプライヤーから見た指標乱立の本音
メーカー調達やバイヤーの立場から見ても、膨大な指標管理には困惑しているのが本音です。
最近の企業では「サステナビリティ」「CO2排出」「CSR調達」など新たな要求事項が次々と増えていますが、実際には本質的なパートナーシップや信頼構築に比べれば、数値はあくまで“手段”にすぎません。
一方、サプライヤーの側も「買い手から求められる指標がどんどん増え、正直どれを優先すればよいのか分からない」という悩みを抱えています。
「評価点数を上げるための形式的な書類や報告書づくりに追われ、本業の製造に手が回らない」と感じている企業も多いのです。
この構図は、「指標のための指標」になってしまい、本来のQ(品質)C(コスト)D(納期)に根ざした信頼関係の損失につながる恐れがあります。
現場目線で重要視すべき本当のデータ指標の選び方
現場管理職として、また現場で実践してきた経験則から、データ指標の取り扱いで最も大事なルールは「指標には目的と使い手を明確に持たせる」ことです。
具体的には以下の4点を徹底しましょう。
1. **現場の課題から“逆算”して指標を絞る**
現場のスタッフ、リーダーが「本当に今何に困っているか」をヒアリングし、課題解決に直結する指標だけを設定することが肝心です。
机上の空論ではなく、工場現場で「これなら実際に動ける、手が打てる」と納得できる指標に絞りこみましょう。
2. **経営・顧客・現場で同じ目的を共有する**
指標の「定義」と「目的」を全体で揃えることで、経営層や他部門から「数字のための改善」に引き込まれるリスクを減らします。
「なぜこのKPIが必要なのか」「これを改善したらどんな良いことがあるのか」を、現場〜経営まで一気通貫で紐付けて説明できる指標運用を目指します。
3. **KPIは“改善”できるものだけ採用する**
理想論や数値のための数値ではなく、「現場で現実的に今期中に10%改善できる見込みのある、一つ二つの指標」にフォーカスしましょう。
難易度が高すぎたり、仕組み上コントロール困難なKPIは優先度を下げるべきです。
4. **サプライヤー・バイヤーで“共通指標”をすり合わせる**
調達・購買の立場では、「なぜこの数値を求めているのか、サプライヤーは何を達成しようとしているのか」を双方が納得できる機会を持つことが不可欠です。
月例の進捗会議や現場訪問の場で必ず共通理解を図り、双方が追いかける「成果の見える化」を習慣化しておきましょう。
指標の“棚卸し”を定期的に行う文化を作る
現場のKPIマネジメントで失敗しがちなポイントが、「一度作った指標をそのまま使い続けてしまうこと」です。
半年や1年ごとに、「いまこの指標はまだ現場の課題に直結しているか? 古くなっていないか?」を必ず点検しましょう。
例えば、品質不良率のKPIが一定水準を超えて安定しているなら、その指標は一時的に優先度を下げ、次のボトルネックに集中する。
この“棚卸し”の文化を根付かせることで、現場が本来取り組むべきポイントに的を絞りなおすことができます。
まとめ:現場とデータは“共鳴”しなければ意味がない
製造業の現場は、今もなお昭和的なアナログ文化と、ITデジタル化の最先端が入り混じる独特の環境です。
指標が多すぎる現場の混乱は、決してデジタル化の副産物ではありません。
本来データは「現場を動かし、成果を上げる」ための道具であり、数字そのものが目的化したとき、現場は迷走しやすくなります。
私が推奨するのは、指標を“現場の困りごとに徹底フォーカス”して選ぶこと。
そして現場・経営・サプライヤー・バイヤーが「なぜこの指標なのか」の目的やストーリーを全員で共有し、数字達成のため“だけ”の動きにならない組織文化の構築です。
現場が共鳴し、納得できる指標運用ができれば、指標の数が少なくなっても「狙った成果」を着実に出せる製造現場を実現できます。
それが、昭和と令和をつなぐ製造業の「進歩の道」だと私は信じています。