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革製ポーチの印刷で色移りを防ぐトップコート剤の設計

目次
はじめに:革製ポーチの印刷と色移りの問題
革製品の中で、近年注目を集めているのがカスタマイズ性に富んだ革製ポーチです。
ブランド価値のあるロゴやオリジナルデザインをプリントすることで、他社との差別化を図るメーカーも増えています。
しかし、印刷した部分の色移り・色落ちは、長年業界全体を悩ませてきた課題です。
一度不良品が市場に流れると、信用失墜やクレーム対応など多大な損失が発生します。
色移りを根本的に防止するには、トップコート剤の選定・設計が最重要です。
本記事では、20年以上製造現場を率いた経験と最新業界トレンドをもとに、“色移りゼロを目指すトップコート開発”の実践ノウハウを詳しく解説します。
色移りトラブルが増える背景と業界の現状
量産スピード化と多様化ニーズで増すリスク
現在、受注生産だけでなく在庫型生産や短納期対応が主流となり、印刷後の乾燥や養生工程に十分な時間を割けないケースが増えています。
さらに、エコ志向の台頭や天然皮革と合成皮革の混用、印刷手法の多様化(インクジェット、UV印刷、シルクスクリーンなど)により、色移りリスクはより複雑になりました。
アナログな現場で残る“職人の勘”
トップコートの塗膜厚や塗布方法、乾燥条件など、現場の多くは“経験値”に頼っているのが現実です。
手作業や目視で仕上げをチェックする工程も根強く、標準化・数値化が進みづらい土壌があります。
こうした中でも「絶対に色移りさせたくない」という声に応えるトップコート設計が、今まさに求められています。
トップコート剤に求められる本質的な役割
機械的強度の確保
表面にトップコートを均一に形成することで、バッグの曲げや屈曲、摩擦、爪やカバンとの擦れに耐える強さが必要です。
特に角部や縫製部などストレスが集中する箇所への“膜切れ対策”も設計ポイントです。
耐溶剤・耐熱性の向上
日常使用の中で、アルコール系ウェットティッシュやハンドクリームなど思わぬ溶剤に触れる機会があります。
また、夏季の車内放置や長時間の直射日光など、高温下でも溶けない・ベタつかない特性が理想です。
デザイン性維持と経年変化への対応
トップコートは印刷色を美しく引き立てると同時に、時間の経過とともに黄変やひび割れが生じないことも重要です。
マット、グロス、ナチュラルなど質感バリエーションへの対応力も求められています。
現場目線で考える“色移りのメカニズム”とは
色移りの主な要因は、「インクとコート剤の密着力不足」と「コート剤のバリア力低下」に集約できます。
1.インクとコートの密着不良
インクがコート剤に馴染まない(相溶性が低い)、インクの乾燥不十分、異種材料同士による界面の滑り(せん断)が起こると、少しの摩擦で印刷面がはがれ色移りします。
2.トップコート膜の柔軟性不足
バッグの押しつぶしや重ね置き時の圧力にトップコートが耐えられないと、膜に微細な亀裂が発生しインクが露出・色移りに直結します。
3.コート剤の未反応・残留溶剤
塗装後の乾燥や加熱が不十分だと、コート剤に残った溶剤や未架橋樹脂が外部物質と反応しやすくなり、摩擦などの刺激で軟化してしまいます。
これら課題の本質を理解したうえで、設計思想を根本から見直す必要があります。
トップコート剤設計の実践ポイント
材料選定のラテラルシンキング
既存のアクリル系、ウレタン系だけでなく、“ハイブリッド樹脂”“シリコーン添加”など異分野技術の活用が有効です。
最近では紫外線硬化型(UV)や環境配慮型素材など、選択肢は拡大傾向にあります。
求める性能に応じて、複数樹脂の“積層”や“サンドウィッチ構造”も新しいアプローチです。
塗布方法と膜厚コントロール
ローラーコート、スプレー、ディッピング(浸漬)、グラビアオフセットなど、量産に適した塗布方法選定も重要です。
一方で均一な膜厚を確保するため、工場ごとの現場事情(作業環境、ライン設備、作業者スキル)に応じた微調整力も必要です。
特に膜厚“20ミクロン以上”を目安に、薄すぎれば色移りリスク増、厚すぎれば質感損失やコスト増発生、最適バランスを探ります。
乾燥・硬化条件の最適化と“数値化”
昔ながらの「夏は3時間、冬は6時間」といった目視・経験値に頼るのではなく、乾燥温度、時間、相対湿度などをデータ化・管理することが重要です。
最終的には硬度、付着性、ベタ付き具合を測定する検査手法の標準化、作業標準書化まで落とし込みを進めます。
検証と改善サイクル(PDCA)の徹底
実機テストとユーザー環境再現
トップコートを実際に施したサンプルを、摩擦試験(JIS R数)、熱老化テスト、アルコール拭き取り試験などで徹底的に評価します。
また、カバンに詰めて重ねたまま1週間保管、直射日光下で24時間晒すなど、ユーザー使用環境を忠実に再現することが大切です。
クレーム・市場情報の”宝探し”
実際のクレーム内容、小売店やユーザーの声、さらには現場作業者の“ちょっとした違和感”を積極的に吸い上げる風土を作ります。
失敗データは「将来のノウハウ」そのものです。
品質部門・生産部門・原材料サプライヤーなど、多部署連携による「色移りゼロ化プロジェクト」の立ち上げも効果的です。
新たな提案:デジタル×アナログのハイブリッド管理
昭和から続く現場文化を否定せず、現場での五感・職人の勘と、IoT・AI画像診断などデジタル制御を組み合わせることで不良発生の未然防止が可能です。
また、スマホやタブレットで工程履歴、トップコート製造ロット、乾燥条件などを記録し追跡、万一の色移りトラブル時にも迅速な原因究明が実現します。
サプライヤー・バイヤー視点での価値訴求
バイヤーは「色移り=重大な信頼問題」と認識しています。
納入前試験のクリア実績やデータ提出、現場でのトライ立会など、透明性の高い品質管理アピールが価値を生みます。
一方サプライヤーにとっては、導入後のクレーム工数・損失低減、取引先との信頼構築、次世代技術開発の足掛かりにつながる取り組みでもあります。
まとめ
革製ポーチの印刷色移り防止は、「単なるコート剤の選定」では終わりません。
材料選定力、作業工程管理、実機評価ノウハウ、現場とデジタルの融合に至るまで、多層的かつラテラルな視点が不可欠なのです。
新しい視点でトップコート設計に挑戦し、業界の課題解決と製品価値向上に取り組む現場担当者の皆様に、この記事が少しでも役立てば幸いです。
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