投稿日:2025年8月28日

鋳造+二次加工でCNC一体加工を置換するトータル原価比較

はじめに:CNC一体加工vs.鋳造+二次加工の新たな原価比較観点

製造業に長く携わっていると、常に「コストダウン」「納期短縮」「品質の安定」といった課題と向き合う必要があります。

中でも調達・購買の現場や、バイヤーを志す方、またはサプライヤーとして新規提案の糸口を探している方にとって“最適な加工方法の選択”は強い関心事です。

近年までは、量産品の機械部品における精度や歩留まり、柔軟性を重視して「CNC一体加工(=削り出し)」が主流の座にありました。

しかし、昭和の時代から根強く残る鋳造+二次加工(仕上げ加工)の工法も、現代的な生産管理・品質保証の進化と相まって再評価の機運が高まっています。

本記事では“鋳造+二次加工”による工法が「CNC一体加工」をどのように置換できるのか—特にトータル原価比較という視点から、現場目線で深掘りします。

なぜ今、鋳造+二次加工の再評価なのか

時代背景:コストリーダーシップの重要性が再認識

原材料費の高騰やエネルギーコストの上昇、サプライチェーン混乱の影響もあり、これまで以上に原価管理の重要性が高まっています。

特に、リーマンショック以降の不況や、新型コロナウイルス流行などの外的ショックは、調達購買部門に「地に足のついた原価低減」の視点を突きつけました。

これにより「CNC一体加工一択だった」現場でも、昭和時代に主流だった“鋳造+二次加工”方式の強みが、再び注目されはじめています。

デジタル技術×アナログ工程:製造業の二律背反の中で

多くの製造現場では「自動化」「IoT」「MES(製造実行システム)」といったデジタル化の波が押し寄せています。

しかし、自動車・重工・農機・産業機械など、いわゆる筐体や塊モノの部品領域では、いまだに鋳造工法のコスト競争力と生産スピードは侮れません。

「最新CNCばかりに目を奪われて、現場にある鋳造&加工のオヤジたちの“生きた知恵”を軽視していないか?」

この問いが、今あらためて多くの製造現場で意識されつつあります。

工法の違いとその本質的な特徴

1. CNC一体加工(切削による削り出し)

CNC一体加工は、アルミや鋼・ステンレスなどの素材から「塊」状態で部品形状を削り出す製法です。

強みは、多品種少量生産や設計変更に即応できるフレキシビリティ、切削ならではの高精度、少人数でも対応できる自動化との親和性です。

また、メニュー化されたCNCプログラムで迅速な立ち上げが可能。少量多品種の今時の製造現場には欠かせない武器ともいえます。

しかし、材料ロス(歩留まりの悪さ)、大型となるほど高額になる材料費、総削りによる加工時間や工具コストの増大が課題です。

2. 鋳造+二次加工(鋳物素材の機械仕上げ)

鋳造+二次加工は、まず鋳型に溶けた金属を流し込み、ほぼ最終形状の素材(鋳物)を製作。そこから必要部位のみ切削や穴開けといった仕上げ(二次加工)を行います。

最大の武器は、形状が複雑で肉厚ムラのある大型・中型部品や、抜き勾配・アンダーカット・内部中空形状など“削り出せない形”への対応力です。

材料ロスが最小限、質量当たりのコストが低減できるため、大ロットであればCNCよりも圧倒的な価格競争力を発揮します。

ただし、一品一様の金型コストや、精度・品質の安定に向けた工程管理、本質的な立ち上げのリードタイムなどが課題となります。

現場目線から見るトータル原価比較

原価構成要素を見極める—単純な加工賃比較の罠

多くのバイヤーがやってしまいがちな失敗が、「加工賃(工賃)」の金額だけで比較してしまうことです。

本当に重要なのは、次の5つのトータル原価視点です。

1. 材料費(素材・歩留まり)
2. 金型費(イニシャルコストの回収可能性)
3. 加工費用(人件費・機械稼働コスト)
4. 品質保証関連費(不良リスク・検査費用)
5. 物流コストおよび納期ロス(在庫・保管費も含む)

たとえば、CNC一体加工は「加工費用」は高いものの、「材料費が高い」「金型費は不要」「納期は柔軟」といった特性があります。

一方、鋳造+二次加工は「大量生産」「複雑意匠」で真価を発揮しますが、「金型コスト」をどう分母で割り戻せるか、「納期の初期リードタイム」をどう圧縮できるかがボトルネックとなります。

事例で読み解くコスト差分

たとえば、20kg級中型アルミ部品(生産ロット:年間1,000台)で比較しましょう。

CNC一体加工の場合:
・材料費(全削り出し):20kg素材 → 最終8kg→ 歩留まり40%、残は廃材ロス
・加工費用:高精度マシニング加工、多工程化
・イニシャル投資:ほぼ不要
・納期:随時柔軟
・品質:安定

鋳造+二次加工の場合:
・材料費(鋳造用):溶解分のみ → 最終形状に近く、歩留まり95%
・加工費用:要仕上げ工数は比較的少ない
・イニシャル投資:金型費用必要、回収にはロット見合いで試算
・納期:金型製作期間が必要
・品質:鋳造ゆえの内部欠陥や寸法公差リスクあり、要工程管理

このケースで重要なのは、
・CNCが短納期・柔軟性で優れるが原価高
・鋳造+二次加工は、大ロットで(特に量産後)圧倒的なコスト低減効果で優れる

という“製品ライフサイクル視点”も忘れてはなりません。

よくある現場の悩みとブレークスルー発想

悩み1:金型コストが高いから諦めてしまう

バイヤーなら「鋳造なら安くできそうだが、そもそも金型費が払えない」という壁にぶつかります。

これは「単年度の予算」だけでなく、「中期計画」や「累計数量」を合わせて損益分岐点を計算することで、革新的なコストダウン余地を“見える化”できます。

また最近では、3Dプリンタ技術を駆使した“簡易型鋳造”や“短納期型樹脂型”による金型費圧縮のソリューションも増えています。

悩み2:品質リスクが怖くて手を出せない

鋳造は「外観ムラ」や「内部欠陥(金属中の空洞)」が発生するリスクがあり、これを理由に断念する購買担当者も少なくありません。

しかし、IoT現場監視やCAE(鋳造シミュレーション)、超音波自動検査の導入により、以前よりも品質管理のバラツキが可視化されリスクが低減しています。

また、バイヤー目線では「QA(品質保証)含めた工法選定のプロセス」を、サプライヤーに“見える化”要求しやすくなっているのが今の時流です。

悩み3:設計変更や量産数量変動が多く採用に踏み切れない

「CNCは一体加工なので設計変更がききやすい」
「鋳造は金型流用・手直しが面倒」

この“昭和の常識”は、部分的にはいまだに当てはまります。しかし近年は、3D金型設計や現物スキャンリバースなどによる「型設計レスポンスの短縮」がなされています。

また、試作段階ではCNC、量産では鋳造と“使い分ける”ハイブリッド戦略も製造現場では常識化しつつあります。

調達購買・バイヤー・サプライヤー視点での今後の示唆

調達購買・バイヤーが押さえるべきポイント

・原価構成の分解検討(材料・加工・金型・QA・物流までの全体最適)
・製品LCA(ライフサイクルアセスメント)との連動(量産見込・市場動向・設計変更頻度も加味して工法選択)
・サプライヤー候補企業の技術力と品質管理体制の事前ヒアリング

サプライヤーが武器にできる新たな“価値創出”

・最新の鋳造シミュレーションや簡易型工法、工程自動化による「昭和→令和」型バリューチェーン再デザイン
・品質保証プロセスのデータ提示(トレーサビリティ・QAドキュメント化)
・バイヤー側の業務効率化・原価低減ロジックを“提案力”に変える

まとめ:現場で輝く「選択と集中」の本質

鋳造+二次加工でCNC一体加工を置換するかどうかの判断軸は、「1個当たりいくら?」の単純な工賃比較だけではありません。

・材料ロス/金型費/仕上げ工数
・納期や設計柔軟性
・品質管理の実現性
・ライフサイクル総原価

これらを“現場の知恵”と“経営判断”の両輪で最適化していく——その「知の実践」が今、製造業現場とバイヤーの本質的な価値になります。

最適な工法選定のために、数字の裏にある現場の声や業界トレンドにも積極的に目を向けてください。

鋳造+二次加工という“昭和の知恵”の進化版で、コスト競争力・品質・納期・サステナビリティの4拍子を実現する新たな提案が、これからの製造業における差別化の武器になるはずです。

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