投稿日:2025年8月16日

玩具OEMの基礎:玩具安全・小部品試験・年齢区分表示の実務

はじめに―玩具OEMの世界とその重要性

玩具OEM事業は、アジアの製造業を中心に世界的にも高い発展を遂げた分野の一つです。
日本国内でもバイヤーとして購買を担う方、サプライヤーとして設計・製造の現場に立つ方が、日々品質やコスト、納期の維持向上に努めています。
しかし、玩具は「子どものための商品」という点が他の製品と大きく異なり、とりわけ安全面や法規制への対応が不可欠です。

ここで課題となるのが、玩具安全基準、小部品試験、年齢区分表示といったテーマです。
実際の現場では、昭和からの慣習やアナログな手法も根強く残っており、時代が変われど「どうクリアするか」に多くの現場が苦心しています。
本記事では、それぞれのポイントについて、現場目線で掘り下げ、バイヤーの立場、サプライヤーの立場の双方から“実際に即した実務のリアル”を解説します。

玩具安全とは何か―歴史と業界規格の基礎知識

玩具安全、なぜここまで厳しいのか?

玩具は「子どもが思いもよらない使い方をする」ことが日常茶飯事です。
設計・調達・生産の各現場では、子どもの安全を最優先する必要があり、それが故に安全規格も毎年のように改定や厳格化が進んでいます。

主な法規制・規格の体系

日本国内では、ST基準(日本玩具協会制定)、食品衛生法、PSCマーク(消費生活用製品安全法)、さらには対象年齢区分によるさまざまなガイドラインが存在します。
輸出先が欧米の場合は、EN71(欧州)、ASTM F963(米国)など各国ごとの基準にも適合しなければなりません。

これら法規制・規格は、
– 材料の有害物質規制
– 機械的・物理的安全性
– 小部品試験や鋭利エッジの有無
– 表示方法
など、細かいチェック項目が多数定められています。

業界では「とりあえず現行の基準を満たすだけ」になりがちですが、現実には規格改定や海外顧客ごとの要件追加も日常です。
現場では、規格の要点を“肌感覚”で把握し、いわゆる「まあ、これくらいで大丈夫だろう」を排除することが求められます。

小部品試験の落とし穴―現場での“想定外”をなくすには

そもそも小部品試験とは何か

小部品試験は、「玩具の一部が容易に外れて乳幼児が誤飲しないか」を確認するものです。
試験には“シリンダーゲージ”(通称:誤飲チェッカー)が用いられ、直径31.7mm×長さ57.1mmの円筒に入ってしまうパーツは、“小部品”として扱われます。

日本ではST基準、海外ではEN71などでも同様の考え方が導入されています。
この試験に不合格となれば、市場での回収やリコール、最悪のケースでは訴訟リスクにもつながります。

よくある現場の失敗例

現場目線で見逃しがちなのが、
– 設計段階でパーツの接合強度を甘く見積もる
– 組立工程での作業が手作業に頼っている
– ロットごとの微妙な寸法バラツキや接着品質の変動
などです。

例えば、試作品で問題なかったパーツが量産時に微妙にサイズダウンし、検査時にシリンダーゲージをすり抜けてしまうケースもあります。
業界のアナログな慣習(「これまでの実績でOKだった」)や現場の勘頼りが、今も根強く残っていることを痛感します。

対策のポイント

バイヤーや設計・生産現場で重要なのは、「設計段階~生産現場まで一貫した小部品リスク管理」です。
概念的なテストだけでなく、
– 量産ラインの抜き取り・全数検査
– サプライヤー現場との連携(品質要件の明確伝達)
– 材料ロット管理、強度検証
に努めることが要点となります。

そのためには「試作段階からとことん壊してみる」「現場で怖いと思うポイントを洗い出す」といった、アナログならではの泥臭い工夫も侮れません。

年齢区分表示の重要性―曖昧認識が大事故につながる

なぜ年齢区分がここまで重視されるのか

玩具パッケージや取説でよく目にする「対象年齢3歳以上」「6歳以上」などの表記。
これには、誤飲や安全事故を未然に防ぐ重大な役割があります。

年齢区分は、
– 子どもの身体・知能の発達段階ごとのリスク
– 使用者が期待したとおり使える玩具か
という観点で適切に設定されなければなりません。

特に“3歳未満”は、世界的に最も高い安全要求が課されています。
3歳未満向け商品では“誤飲”、“突起物の誤挿入”、“誤った遊び方”など多数の危険性を考慮する必要があります。

現場で生じる課題と対策

現場では、
– 調達先や委託工場と年齢区分要件が正しく共有できていない
– 表示・仕様変更時の伝達ミス
– バイヤーとサプライヤーで「ギリギリ何歳向け?」の認識違いが起こる
ケースが珍しくありません。

このような事故を防ぐには、設計担当、購買担当、営業担当、品質管理担当、現場スタッフまで“年齢区分の根拠”を共通認識とし、厳格に管理する仕組み作りが必要です。

また、海外向けの場合は現地規格・文化(例:欧州は法規で3歳区切り、米国は6歳区切りが主流)に合わせた表示確認も欠かせません。

バイヤーとサプライヤー、それぞれの視点から見る実務の本質

バイヤーの実務―リスクを先読みし「声にならない要求」に応える

バイヤーは単純なコスト・納期管理だけでなく、
– 規格情報の常時アップデート
– サプライヤーの技術力・品質体制の見極め
– 取引先ごとの特有要件(表示、試験方法など)の把握
が重要です。

並行して「現場に眠るリスク」を可視化し、サプライヤーと率直に対話できる商談スキルも磨く必要があります。
昨今はリモートや書面商談が増えた分、細かい仕様変更やNG事例の見落としが増えてきました。
“現場でよくある落とし穴”を熟知し、「何が安全品質に響くのか」を見抜く感覚は、バイヤーの大きな武器となります。

サプライヤーの実務―現場の“なぜ”を言語化し、一歩先の提案を

サプライヤーの立場で差がつくポイントは、バイヤーが何に困っているか、何を恐れているかを先読みし「これなら大丈夫」と説明・証明できる体制です。

– 小部品試験の試験成績書だけでなく「自社での管理基準」「過去事例」「「想定外」に備えた追加検証
– 年齢区分や安全要件の妥当性について、根拠資料を踏まえた説明
– 不具合が生じた場合、バイヤーと早期に問題共有し原因・再発防止策を即時提示
こうした姿勢こそが、信頼されるサプライヤーの条件です。

現代の玩具OEM現場では、AIやIoT導入も進む一方で、「現場力」、「経験値」といったヒューマンスキルも不可欠なのです。

差がつく現場力―昭和的アナログの強みを活かす

“泥臭い現場スキル”とテクノロジーの統合

日本の玩具業界には、昔ながらのアナログな工程・カンやコツがいまだ根強く残っています。
一見、時代遅れと思われがちですが、実は「最後の砦」として重要な役割を果たしています。

例えば、
– 試作工程での念入りな“壊し”検証
– 塗料や接着剤の微妙な使い分け
– 量産立ち上げ時の現場目線のリスク洗い出し
など、現場で経験を積んだ担当者だからこそ気付く「感覚値」が、安全品質維持への強力な武器となります。

近年は、AIによるリスク解析やCADシミュレーション、デジタルIoT追跡が進んでいます。
しかし、いざトラブルが発生した時に物を言うのは、人間の“現場感覚”やアナログなリカバリー力です。

アナログの強みとテクノロジーの融合こそ、これからの玩具OEMの要となるでしょう。

まとめ―日本のものづくり力で世界に安心・安全を届けよう

玩具OEMの現場には、国・地域を飛び越えたグローバルな品質要求、一人一人の現場担当者の“経験値”、そしてアナログからデジタルへ進化する現場の両方があります。
重要なのは、「子どもの安全」を第一に、「小さな変化・違和感」に敏感になり、設計・調達・製造・出荷まで丁寧な現場力を維持することです。

そしてバイヤーとサプライヤーが対等なパートナーとして情報を開示・共有し合うことが、これからの製造現場の進化に直結するはずです。

玩具OEMの未来を担う“あなた”の現場での工夫や発見が、新たな価値を生み出します。
日本のものづくり力で、安心・安全、そして夢を次世代に届けていきましょう。

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