投稿日:2025年8月14日

アセット管理連動で予備部品発注を最適化し保全コストを削減したTPMサポート例

アセット管理と予備部品管理の融合がもたらす製造現場の革新

製造業の現場において、設備保全や工場運営の「ムダ」をいかに減らすかは、長年変わらぬ課題です。
特に、予備部品の発注最適化と在庫管理は、現場の運用コストを大きく左右する要素です。
多くの工場では、「万一のトラブルに備えて、つい多めに部品をストックしてしまう」「現場ごとにバラバラのルールで管理されている」「設備の稼働状況を正確に把握できていない」という昭和からの“あるある”が未だに根強く残っています。

今回は、アセット管理システム(設備管理システム)と連動した予備部品管理を進化させ、TPM活動(Total Productive Maintenance:全員参加の保全活動)を支援した先進的なサポート事例を、現場視点で解説します。

なぜ予備部品の「ムダ」が発生するのか

設備保全担当者が直面してきた現場のリアル

私が現場で約20年間経験してきたなかで、多くの工場では「予備部品の山」が常態化していました。
設備が停止した際、必要な部品がすぐ手元にないと生産ラインが止まってしまう——この不安に多くの現場担当者が駆られ、「保険」として、多めの在庫を抱える傾向があるのです。

しかし、この「保険」はやがて“腐った資産”となっていきます。
なぜなら、「たぶん使うだろう」と入れた部品が結局使われず、長期在庫化や廃棄ロスにつながるからです。

アナログ管理の限界

記録や管理がExcelや紙ベースで行われていた伝統的なアナログ現場では、在庫状況の見える化ができていません。
「○○ラインの部品はどこに保管されているのか?」「使用履歴は?」「交換推奨時期は?」といった情報が、個人のノートや記憶、属人的なファイルに埋もれているケースがよくありました。
この状況が、在庫の重複購入や抜け漏れ、計画的な棚卸しの遅れを慢性化させています。

なぜ今、「アセット管理連動予備部品管理」が注目されているのか

DX推進とTPM活動の両立の時代背景

2020年代、コロナ禍を経て、製造現場にはデジタル化(DX)の大きな波が押し寄せています。
一方で、現場力を底上げする活動——まさに昭和のものづくり精神を受け継ぐTPM——も進化が求められています。

この両者を橋渡しするカギが、アセット管理(設備ごとに台帳管理、稼働履歴、メンテナンス情報などを一元化するシステム)の活用です。
アセット管理システムとサプライチェーン上の予備部品調達の仕組みを連動させれば、「いつ」「どの設備が」「どの部品を」「どれだけ必要とするか」の精度が飛躍的に高まります。

最新のアセット管理連動型サポートの全体像

最近の先進工場では、アセット管理システム(たとえばCMMS:Computerized Maintenance Management System)と部品在庫管理システム、発注システムがAPI連携されています。
設備側の稼働ログ、メンテ履歴、故障傾向などをデジタルで可視化し、予測メンテナンスと部品の必要数を自動で算定。
さらに、そのデータをもとに、購買部門やサプライヤーがリアルタイムで調達計画を立てる——この流れが、今まさに現場標準となりつつあります。

実際に保全コストを削減したTPMサポート事例

1. 某自動車部品メーカーでの取り組み

ある自動車部品メーカーの工場では、10年以上にわたり同一設備が並列稼働する“多ライン生産”を行っていました。
従来は各工程ごとに担当者が予備部品をバラバラに発注。
交換推奨間隔や部品寿命、設備の型番などは「経験則」や「前任者からの引継ぎメモ」が頼りでした。

そこで、アセット管理システムと部品管理システムの「統合管理」に踏み切りました。

2. アセット管理と部品発注の自動最適化

設備ごとに、型番、設置日、稼働時間、過去の修理履歴を一元的にデジタル登録。
設備メーカーごとに予測される部品寿命データをあわせてシステム化しました。

これにより、設備の稼働実績や故障率をもとに
・どの部品が、あと何時間後に交換推奨なのか
・既存の予備部品在庫で足りるのか、何個追加発注が必要か
・他ラインでの「部品貸与・融通」が可能か
などをリアルタイムで自動計算。

現場担当者や購買部門は、アラートメールやダッシュボードを通じて「今、何をすべきか」が一目で分かるようになりました。

3. コスト削減と現場意識の変化

この仕組みの導入で、以下のような劇的な変化が起きました。

・部品在庫、特に「長期間眠っていたムダな予備部品」が30%削減
・棚卸し作業の時間が半減
・購買業務の発注ミス、納期遅延が激減
・現場の設備保全スタッフ間で「見える化による情報共有・応援体制」が構築

現場の安全性や設備稼働率が向上すると同時に、間接部門(調達・購買)の負荷も大きく減りました。

バイヤー・サプライヤーが押さえるべき新たな地平線

「過剰在庫=善」という昭和的な価値観からの脱却

これまで、現場の安心感を保つためには「在庫は多めに」が常識でした。
しかし、アセット情報と連動するデジタル管理が進む今こそ、バイヤーやサプライヤーが「本当に必要な分だけを、ジャストインタイムで届ける」発想への転換が求められます。

サプライヤーは「データ提供型パートナー」へ進化すべき

従来の「売ったら終わり」ではなく、設備の稼働情報、部品の摩耗トレンドなどを顧客と共有し、「いつ・どんな部品が・どれだけ必要になるか」を一緒に考える関係が重要です。
AIによる部品消耗予測や、オンラインによる「部品適合性ナレッジ共有」など、バイヤーとデータ連携しながら価値創造に取り組むべき時代に入っています。

バイヤーを目指す方が今、学ぶべき3つのポイント

1. 設備ごとの稼働サイクルやトラブル傾向、部品寿命を「データで語れる力」
2. 部品在庫の適正化に向けた「現場との対話力」
3. サプライヤーとの協業で「コストだけでなく、リードタイム・現場便益」を意識した調達戦略

この3つを押さえれば、これからの「戦略バイヤー」として一歩抜き出すことができます。

アナログ現場でも“今すぐ”始められる改善アクション

「ウチの工場は古い設備ばかりで、システム化なんて無理」——そう感じる方も多いと思います。
しかし、段階的にでもいいので、以下のアクションから始めることが可能です。

・まずは現場の予備部品を棚卸しし、リスト化・使用履歴を記録する
・部品の交換頻度や故障内容を、簡単なExcelやGoogleスプレッドシートでもデータ化
・月1回でも「購買・保全・現場スタッフ」で在庫見直しのミーティングを持つ

この小さな一歩が「現場の知恵」をデジタルに蓄積していきます。
いずれ、業務プロセスが整理され、ITツール導入の段階に一気に飛躍できる土壌が生まれます。

まとめ:保全コスト削減は、現場×データが切り開く

アセット管理と予備部品管理の連携は、決して「IT化による机上の空論」ではありません。
現場の汗と勘、長年のノウハウに「データの力」をかけ合わせることで、ムダのない部品管理、保全コスト削減、ひいては日本製造業の底力強化につながります。

これからのバイヤー、サプライヤー、現場エンジニアは、部門の垣根を越えて「何が本当に現場にとって価値なのか」を問い直してみましょう。
アセット管理連動型の予備部品最適化は、現場と調達が一体となり、新しいものづくりの地平を切り開く道標となっていくはずです。

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