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国際物流におけるトレーサビリティ確保と製造業の責任

目次
はじめに:グローバルサプライチェーン時代のトレーサビリティとは
目まぐるしく変化する国際社会のなかで、製造業に従事する皆さんも日々「安心・安全」だけでなく、「責任あるものづくり」に対する社会的要請が高まっていることを痛感しているのではないでしょうか。
とりわけ近年注目されているのが、「トレーサビリティ(traceability)」の確保です。
トレーサビリティとは、製品や部品、原材料がどこから来てどのような経路で最終製品になったのか、その履歴を正確に追跡・証明できる状態を指します。
グローバル化した製造業では、調達先のサプライヤーや輸送ルートが多岐にわたり、もし何らかの問題が発生した場合はトレーサビリティの有無が「企業の信頼」と「社会的責任」を左右します。
本記事では、長年製造業の現場に従事した実体験を交えながら、国際物流におけるトレーサビリティ確保の重要性、その実践方法、昭和型の慣習と現代要請とのギャップ、これから求められる製造業の責任について掘り下げていきます。
国際物流とトレーサビリティの重要性
グローバルサプライチェーンに潜む「ブラックボックス」
日本の製造業は、かつて国内中心のサプライチェーンで品質管理や納期管理の徹底を武器にしてきました。
しかし、グローバル化の潮流に押され、サプライヤーや部品の二次・三次調達先はアジア各国や欧米、新興国まで拡大しています。
この中で最大のリスクは、「情報の断絶」と「見えないリスク=ブラックボックス化」です。
たとえば、ある工場で生産した部品が、現地の下請け会社を経て、輸出業者、通関業者、倉庫業者、船会社、輸入業者と幾重にもバトンパスされます。
この各プロセスで生じる情報の非共有や記録漏れ、管理の甘さが「どこで・何が・どのように起こったか」を完全に追えなくしてしまいます。
もし工程不良や有害物質混入が見つかったとき、原因箇所を即座に特定できなければ、リコールや事故対応で多大なコスト・信用失墜に繋がります。
お客様・社会・取引先、それぞれが求める「トレーサビリティ」
いまやトレーサビリティは、単なるコスト削減や品質管理のためだけではありません。
「安心・安全」「説明可能性」「法令遵守」の観点で、顧客や社会、最終消費者が求める「信頼の証」となっています。
たとえば、自動車部品ならリコール対応の容易さ、食品や薬品なら安全証明、電子機器なら紛争鉱物排除や環境規制対応など、国境を越える製品ほど「説明責任」の重みが増しています。
また、バイヤー(調達担当)はサプライヤー選定時に、トレーサビリティの仕組みや実記録の有無も評価ポイントにしています。
昭和型アナログ管理が抱える限界
紙伝票文化の功罪とデジタル化の壁
日本の製造業では、現場の職人気質や「書類主義」が根深く残っています。
出荷伝票や品質記録など、いまだに紙ベースでの運用が多い企業も散見されます。
手書きの管理簿、印鑑ラリー、FAXでの注文書…。
これらは少量多品種・人海戦術時代ならではの「現場力」を支えてきた一方で、現代のグローバル競争や緊急対応には不向きです。
紙媒体の管理は、記入漏れ・紛失・改ざんリスクが大きく、複数国・複数企業間での即時共有は不可能です。
現場も「トレーサビリティの仕組みが複雑」「IT化は難しいこと」という思い込み(言い訳)に陥りがちです。
属人的な“経験”頼みの危うさ
工場によっては、「○○さんの頭の中にしか分からないノウハウ」が現場でまかり通ります。
出荷ロットや仕掛品の履歴、事故品の追跡なども「顔なじみの運送会社に電話一本で」といった昔ながらの方法です。
しかし、これでは担当者の退職や担当外異動などで「知見が一気に失われる」という大きなリスクを孕んでいます。
現場で“人の繋がり”がモノを言うのは素晴らしい面もありますが、製造ラインや物流工程の「証跡化なくして説明責任なし」の時代にはそぐいません。
実践的!国際物流トレーサビリティの仕組み構築法
まずは自社の「現状把握」と“見える化”から
トレーサビリティ確保の第一歩は、まず自社サプライチェーンの「現在地」を正しく見極めることです。
すべてを一度にデジタル化/システム構築する必要はありません。
・どこからどこまでが「ブラックボックス」なのか
・どの工程や書類がまだ“紙文化”に頼っているのか
・過去1年間のクレームやトラブルで、追跡不能だった事例は
・外部サプライヤーにどこまで情報提供・保管を期待できるか
こうした現状を、工程フローや情報伝達チャートで「見える化」し、関係部門(調達、物流、製造、品質保証など)と共に棚卸しすることが重要です。
最低限備えるべき「履歴管理のツール」
トレーサビリティに必要なのは、高価な専用システムよりも「継続性」「即時性」「証跡化」を達成できる仕組みです。
今ではExcelやクラウド型サービス、バーコード/QRコード管理アプリ、簡易なデータベースなど、安価で始められるソリューションも充実しています。
例えば、出荷ロットごとにバーコードを付与し、各物流工程(出荷、輸送、入庫、仕掛り、加工、納品)ごとにスキャン記録を残します。
これにより、どこでモノが止まっているか、不良品発生時に即座にロケーションや関連品番を抽出できるようになります。
また、国際物流業者との連携も不可欠です。
輸送履歴や通関情報をリアルタイムでオンライン管理にすることで、もしトラブルが発生しても「輸送中の温度管理や事故・盗難」に迅速に対応できます。
“仕組み化”と“教育”で属人性を排除する
どれだけシステムを導入しても、現場が使いこなせず属人化したままでは意味がありません。
「誰でも・どこでも同じ品質で管理できる」仕組み(マニュアル作成・教育・定期的なルール見直し)を徹底し、異動や退職に備えることも重要です。
管理項目や記録フォーマットも「現場が無理なく続けられる」程度に一元化し、最低限:
・ロット番号/製造日/作業者/工程履歴
・入出庫日時/輸送会社名/配送温度等
・サプライヤー別の証明書類(原産地証明や成分証明)
この3点は必ず紐づけ記録しましょう。
製造業が果たすべき「責任」とこれからの方向性
法令遵守とリスク管理:企業価値を守る第一歩
海外市場では、RoHS/REACH規制、紛争鉱物規制、各国の税関・検疫要件など、進出先ごとにトレーサビリティ対応が法律で義務化されています。
違反すれば輸出停止や罰金、場合によってはブランド毀損や取引停止にも直結します。
調達担当者やバイヤーは、自社とサプライヤーの双方がこれらのリスクを先取りし、厳格な証跡管理と書類備蓄体制を持つことが、結果的に「長期的な競争力」に直結します。
CSR(企業の社会的責任)としてのトレーサビリティ
消費者や社会的評価が厳しくなった今、「安心安全」だけをアピールしても不十分です。
「どうやって“その安心”を証明しているか」「問題が起きた際、どう遡って説明・改善できるか」という“説明責任”が重視されます。
またSDGsの観点からも、製造の透明性・労働環境への配慮・環境負荷の管理など、バイヤーにはサステナブルな調達活動が求められています。
これはサプライヤー側も同じです。
発注元の要求に“ただ合わせる”だけでなく、「自分たちもお客様の責任を担っている」という共通認識がなければ、今後のビジネス存続は難しい時代となっています。
まとめ:現場目線で一歩ずつ、未来へのトレーサビリティを高めよう
国際物流におけるトレーサビリティ確保とは、単なる法令対策や事故防止だけにとどまりません。
「モノの流れ」の見える化を通じて、お客様・社会・そして自分たち自身が“安心”できる責任あるものづくりを実現するための道しるべです。
デジタル化や仕組み導入は、一度に全てを変えようとせず、「現状把握→見える化→ツール導入→仕組み化→定着」というステップを一歩ずつ着実に進めることが最も大切です。
昭和型の慣習と向き合いながらも、「属人化」「紙文化」からの脱却を恐れず、製造業の現場全体で“持続可能な責任”を共有しましょう。
それが、次世代のものづくりを担う皆さん―バイヤー、サプライヤー、現場担当者のひとりひとりが、より大きな信頼と誇りを持てる製造業への第一歩なのです。
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