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トレーサビリティ強化で逆に現場の作業量が増える問題

目次
はじめに:トレーサビリティ強化の皮肉な現実
トレーサビリティという言葉は、近年の製造業において非常に重要なキーワードとなっています。
製品や部品の生産履歴を管理し、万が一不良品が発生した際に迅速に原因を特定、対応できる体制を築くことは、顧客からの信頼を得る上でも欠かせません。
しかし一方で、トレーサビリティを強化することによって逆に「現場の作業量が増えてしまった」という声が多く聞かれるようになりました。
まさに目的と手段が逆転した、本末転倒のような状況が一部の現場で発生しているのです。
この現象の背景には何があるのか。
なぜ、昭和時代から続くアナログな文化が根強い日本のものづくり現場で、トレーサビリティの強化と現場の負担増という矛盾が起きてしまうのか。
20年以上の現場経験をもとに、その実態と課題、そして打開策について掘り下げていきます。
トレーサビリティ強化の目的と期待される効果
まず、「なぜ今トレーサビリティ強化なのか」をおさらいしましょう。
高まる製品品質への要求
世の中は「安心・安全」「コンプライアンス重視」「責任追及」の方向に明確に舵を切っています。
食品や自動車などの大規模リコール事故が社会的大問題となり、一度信頼を失えば事業存続すら危うくなる時代です。
そのため、製造工程を全て記録・可視化し、「どこで」「誰が」「どのような材料から」「どんな条件で」作ったのかを1品単位で追跡できる体制が求められています。
不適合品発生時の迅速な原因究明・対応
トレーサビリティ強化によって、問題が発生した際には、関係する部品ロットや作業ライン、協力会社などをすぐに特定できます。
これにより、リコールやクレーム対応の範囲を最小限に抑え、被害拡大防止や信頼回復につなげられるのです。
国際取引やサプライチェーンのグローバル化への対応
海外顧客とのビジネスや、自動車・航空機といった多重階層のサプライチェーンに対応するためにも、万全の履歴管理体制が避けて通れなくなっています。
なぜ現場の作業量が増えるのか?その理由を深掘りする
本来ならば、トレーサビリティは“効率化”や“自動化”とセットで語られるはずです。
しかし現実は、「書類や伝票が増える」「チェック作業が増える」「手書き記録が減らない」といった現象に悩んでいる現場が非常に多いものです。
その背景には3つの大きな要因があります。
要因1:アナログ文化から抜け出せない現場の実態
日本の製造業は「紙の帳票文化」と密接です。
導入されるトレーサビリティのシステム自体が形だけIT化されても、現場では相変わらず作業日報やチェックシートを手書きで回覧したり、エクセル手入力による転記作業が消えていません。
「現場はパソコン作業に慣れていない」
「急なトラブル時はとりあえず紙」
「システムは納期内に導入したけど教育や現場仕様に作り込めていない」
こういった状況では、トレーサビリティ強化は「単なる記録作業の増加」でしかなく、現場の作業工数を圧迫するばかりになります。
要因2:目的が現場に伝わっていない・腹落ちしていない
多くの企業で、トレーサビリティ強化は「本社主導」「品質部門主導」で決まります。
現場としては「なぜ今までよりも厳密に記録が必要なのか」「自分たちの作業にどんな意味があるのか」が実感できず、形だけ記録を埋めて“こなす”状態になりがちです。
本来、現場に「自分たちの作業が会社を守る」「工程異常の早期発見につながる」という認識が広がれば、無駄の少ない運用や提案も出てきます。
しかし、現実問題としては「ただの業務増、負担増」として受け止められやすいのです。
要因3:システム開発・導入に現場の声が反映されにくい
トレーサビリティ用のシステムや仕組みは、IT部門やコンサルが中心となり導入される場合がほとんど。
「現場の手順」「運用の流れ」「現物と帳票の一致」まで踏み込めず、途中で現場独自の作業手順が上書きされてしまいます。
その結果、
・システム内データと現場現物が合致しない
・現場でしか分からない「困りごと」が放置される
・“システムのための手作業”が無理に増やされる
といったミスマッチが増大します。
事例で見る:現場目線のトレーサビリティ強化による業務増のリアル
ここでは実際の現場で遭遇した事例から、現場のリアルな苦悩を紹介します。
事例1:自動車部品メーカーA社の場合
グローバルOEM向けの要請で、全工程の部品ロット管理に着手。
・新たに入出庫時のロット番号スキャン、現品票への手書き記入、製品ラベル発行と管理簿の記入が必須化
・データベースは導入されたものの、現場作業者が全工程でパソコン入力なのは非現実的
・結局、現場では紙に記入→事務所で事務員がパソコンに再入力という「二度手間」が日常になった
現場からは
「ほんとうに必要な記録か?」
「IT化といいつつ手作業が増えただけ」という不満が噴出しました。
事例2:中堅加工メーカーB社のケース
QMS(品質マネジメントシステム)強化のために、仕掛品在庫や加工条件の履歴一覧化を実施。
・現場オペレーターが作業毎にチェックリストを手書きで作成
・品質管理者がその紙をまとめてエクセル化し、保存
・作業者も管理者も「作業の流れが中断される」「退勤後の残業時間が増えた」
導入後の結果、肝心なトレーサビリティのデータは「不備や記入漏れも多く信頼性に課題あり」となってしまったのです。
現場の負担を減らし、真に有効なトレーサビリティへ導くポイント
本来の“意義あるトレーサビリティ”を実現するには、単なるシステム化ではなく現場目線で伴走型の取り組みが不可欠です。
具体的なヒントをいくつか紹介します。
ポイント1:現場担い手の「腹落ち」と理解を最優先する
現場担当者が「なぜこの記録が必要か」「どこまで求められるのか」を自分の言葉で説明できる状態をつくりましょう。
そのためには、トップダウンだけでなく現場との双方向のコミュニケーションや教育が重要です。
「できるだけ現場の工数を増やさない」「無駄な記録を作らない」という姿勢とセットで進めるのがポイントです。
ポイント2:IT化・自動化は“現場起点”で考える
すべてをIT化する必要はありません。
まずは今の手順をていねいに可視化し、「どこなら現場で入力できるのか」「どこなら自動で情報取得できるのか」を分解してみましょう。
例:
・バーコードやQRコードの活用
・ハンディ端末での現場入力
・センサー連携でデータ自動収集
こうした工夫で、紙とデジタルの“いいとこ取り”を目指してください。
ポイント3:現場のフィードバックループを仕組み化する
一度仕組みを整えても、現場の声や運用実態に合わせて変更・改善できる仕掛けが必要です。
「記入作業が現実に合っていない」
「無意味な転記が多い」
こんな声を拾い、定期的に運用ルールやシステムを見直すことが、ムダな作業と現場のフラストレーションを防ぎます。
サプライヤー・バイヤー・現場を繋ぐ新たな地平線を探れ
日本のものづくりは、サプライヤーとバイヤー(顧客)両方の信頼で成り立っています。
今、求められているのは「単なる作業指示」ではなく、互いが相手の立場や現場の実態を“知り合う”ことです。
サプライヤーこそ、現場の業務負担や改善ノウハウを積極的に発信しましょう。
バイヤーは、記録やトレーサビリティの要請が現場でどう受け止められているか一度足を運んで確認してください。
「お互いの立場を知り、現場・経営の間をつなぐ」
それこそが昭和的なピラミッド構造から脱し、持続可能なものづくり革新につながる道です。
まとめ:トレーサビリティ強化の“本当の価値”を見失うな
トレーサビリティ強化は決して現場に“無理をさせる”ものではありません。
真に意味のあるトレーサビリティとは、不良流出の防止や無駄な手戻り撲滅、そして困った時に「自信を持ってエビデンスを出せる」こと。
それは、現場を守り、顧客を守り、ひいては企業を守ることに直結しています。
昔ながらのアナログな手順をIT化するだけでは、逆に業務負担増大という罠に陥る可能性が高いのです。
「ムダ・ムリを省く」「価値ある記録に絞る」「現場の工夫・知恵を活用する」
この視点こそが、令和時代の製造業に求められる新たなラテラルシンキングだと私は考えます。
現場・バイヤー・サプライヤー…この三者が本音で語り合い、協力できる関係を築いていきましょう。
あなたの現場での一歩が、明日の日本のモノづくりを変えていくのです。
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