投稿日:2025年8月5日

無償支給材シリアル管理で委託加工品の紛失リスクをゼロにした追跡システム

無償支給材シリアル管理で委託加工品の紛失リスクをゼロにした追跡システム

はじめに:製造現場の「一品一様」と不可視リスク

製造業の現場では、部品や原材料を委託先に「無償支給材」として支給し、加工や組立作業を依頼するケースが日常茶飯事です。
特に高価格部品や、社内で在庫管理が難しい特殊材料は、メーカーから協力工場や外注先へ直接支給され、その後完成品またはユニットとして納品される流れとなります。

ところが、この「無償支給材」がブラックボックス化すると、紛失・誤用・未返却などのトラブルへと発展しやすくなります。
昭和の時代から伝わる伝票主義やアナログ管理に依存している現場では、帳簿上は在庫が合っているのに、実物が見当たらない…。
そんな事態が、実は珍しいことではありません。

この記事では、無償支給材管理の「現場で起こるあるある」から出発し、最新のシリアル管理技術・IT活用事例、導入による劇的な効果について、実践者目線で深堀りします。

無償支給材とは?委託加工の舞台裏

無償支給材とは、字の通り「無償」にてメーカー(発注側)が協力工場(受託側、サプライヤー)へ提供する部品素材です。
加工済みを仕入れるのではなく「素材」や「加工前中間品」の状態で送ることで、委託先の工場が社内調達をすることなく加工業務へ集中できるメリットがあります。

特に次のような場面で重宝されています。

・複雑な法規制が絡む部品(海外調達も含む)
・高価格・入手困難な特殊材料
・社内品質管理基準を順守した材料のみ使用可の場合

一方で、自社の在庫とは別管理になるため「いつ、どこに、いくつ」支給して「何に、どう使い、どこから返ってきたか」のトレーサビリティが求められます。
しかも、一つの工場に複数メーカー分の支給材が混在する。
担当者の異動や、多品種少量生産へのシフトで、物の流れや責任所在がどんどん不透明になりがちです。

昭和型・アナログ管理の落とし穴

いまでも多くの製造現場で見かけるアナログ式管理、それは「エクセル台帳」「紙伝票」「手書きノート」など、人の手を介した台帳主義です。

取引台帳に
・いつ
・どこへ
・いくつ送ったか
を記録し、返却と照合。

単純である一方、次のような課題が噴出します。

・記入ミス、転記漏れ、現物との不一致
・委託先で混載、紛失、誤加工した場合の特定困難
・バイヤー・サプライヤー双方で認識が食い違う

とくに、人の異動・退職・引継ぎ漏れで「把握できる人がいない」「現場で在庫が見つからない」事態も…。

これでは
・紛失の責任の所在が不明
・損失発生時、再調達や生産遅延を招く
・委託加工先の信頼失墜
につながります。

シリアル管理で根本解決:一品一様の「見える化」と追跡

そこで注目されるのが「一品ごとの固有識別番号=シリアル管理」によるデジタル追跡です。

部品や無償支給材一つひとつに
「シリアルナンバー」
「2次元コード」
「RFIDタグ」
などの固有IDを付与し、

・受け入れ時
・社外支給・委託加工時
・加工工程
・完了戻り
などの各タイミングでスキャン・記録。

これにより、個体単位で
「いつ、どこで、どうなっているか」
をリアルタイムで追跡できます。

たとえばある支給品の履歴情報を検索すると、下記のような管理が可能です。

【例:支給材A 00001234】
・2024年2月1日 本社倉庫より支給出庫
・2024年2月3日 委託先A社に到着
・2024年2月7日 A社ライン投入・加工中
・2024年2月15日 加工完了品として回収
・同日 本社検収・生産投入

物理的な「モノ」とデータが完全一致し、不一致時には即時発見&対処が可能となります。

シリアル管理システムの実装ステップと注意点

シリアル管理・追跡システム導入は、最新ツールを単純に導入するだけでは成功しません。
むしろ重要なのは「現場の運用にどう定着させるか」です。

基本となる導入ステップをいくつか紹介します。

1.
対象アイテムのリストアップ
・対象となる無償支給材、加工品、仕入先を洗い出す
・「どの単位(箱・ピース・ロット)」で追跡するか定義

2.
シリアル付与方法の検討
・バーコード/QR/ICタグどれを使うか
・製品特性(高温、油、粉体等)も考慮

3.
現場でのオペレーション設計
・現場担当者が「手間なく」「確実に」読み取り・記録できるフロー
・システム・端末(ハンディ,タブレット等)選定

4.
サプライヤーとの連携構築
・委託先工場側にも実運用してもらう仕組み化(目的の説明・トレーニング)

5.
例外処理とトラブル対応ルール化
・スキャンできない、ラベル剥がれ等のイレギュラー時の対応策

現場起点で「運用しきれるか」を何度もシミュレーションし、バイヤーとサプライヤーが共に納得できる運用ルールを築くことが肝心です。

追跡システム導入で得られる三大メリット

無償支給材のシリアル追跡導入によって、製造現場・購買調達側のリスクと業務ロスを大幅に減らすことができます。
主な三大メリットを整理します。

1. 紛失・誤用リスクを根絶
物理的な支給物と在庫台帳が「1対1」でひも付けば、
・紛失・誤納・誤加工が起きても即発見
・責任の所在が明確
・問題発生時も原因追及が容易
「なくなって行方不明」をゼロにできます。

2. コスト削減・業務効率UP
現場での照合や確認作業、Excel管理や伝票手書きの二重三重チェックが不要となり、担当者一人当たりの稼働時間・人件費を大幅にカットできます。
監査指摘やトラブル発生時の対応コストも大きく減ります。

3. バイヤー―サプライヤー間の信頼構築
「どこで、なにが、どうなっているか」がいつでも双方で確認できることで、
・未返却・紛失時のトラブルが激減
・「委託先で本当に使われているか」などの懸念も払拭
発注側・受託側が対等なパートナーとして生産効率の最大化に集中できます。

ラテラルシンキングで考える、シリアル管理の未来像

ここまでの内容は「ミスや紛失回避」を主眼とした現場改善ですが、ラテラル(水平)思考で一歩先を見据えてみましょう。

・支給材と最終製品、それぞれのシリアル情報を統合管理することで、完成品のライフサイクル管理(トレーサビリティ、リコール対応)が容易に
・IoT/AI技術との連携で、リアルタイムな異常検知や未来予測(在庫切れ、部品劣化警告など)
・サプライチェーン全体で情報を連携し、どこでも資材追跡や在庫見える化が実現

こうしたデータ活用は、サプライヤー、バイヤー、現場担当、経営層まであらゆる立場で価値を生み出します。
さらに、品質保証や監査の高度化といった、製造業全体の進化を支える強力なインフラへと発展する可能性も拓けます。

導入は「一歩ずつ」、しかし着実に

目の前の業務を変えるのは、現場に根ざした熱意と、現実的な「できる工夫」から始まります。
大規模なシステム一括導入で失敗例が多いのも事実ですが、まずは
・紛失が頻発する品目
・金額インパクトが大きい支給材
など、限定したアイテムから「シリアル管理テスト導入」してみましょう。

一度、部品追跡で「見える化」ができる体験をすれば、
・現場が前向きに運用を考案
・バイヤーが責任の所在をクリアにできる喜び
・サプライヤーもミス撲滅に貢献できる充実感
と、全員が「やってよかった」と実感できる好循環が生まれるはずです。

まとめ:現場発のイノベーションで「紛失ゼロ」時代へ

無償支給材シリアル管理は、単なる在庫管理強化にとどまらず、製造業に携わるすべての人に
・業務ストレスの解消
・顧客・パートナーとの信頼向上
・事業競争力そのものの底上げ
という大きな恩恵をもたらします。

長年、アナログ流儀が根付いてきた現場にデジタル変革を持ち込むのは容易ではありません。
しかし「一品一様を見える化」する仕組みづくりが、これからの製造業を支える新たなスタンダードになると確信しています。

サプライヤーとして、バイヤーとして、現場の責任者として。
それぞれの立場で「紛失ゼロ」に挑戦し、ものづくりの質と信頼性向上を、日本の現場から世界へ発信していきましょう。

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