投稿日:2025年9月13日

日本メーカーとの共同物流で得られる輸送コスト低減効果

はじめに:製造業の物流課題と日本メーカーの現状

日本の製造業は、世界トップクラスの品質力を誇りますが、その裏側では依然としてアナログ体質が根強く残っています。
とりわけ、調達と物流の現場においては、長年の慣習やサプライチェーンの分断が輸送コストの増加要因となり、利益を圧迫し続けているのが現状です。

近年、原材料高騰や「2024年問題」と呼ばれる物流危機の影響を受け、企業は輸送コスト低減に本腰を入れ始めました。
この流れの中、『共同物流』という新しい発想が注目を集めています。
本記事では、現場目線で共同物流の具体的な施策や、実現時に得られる輸送コスト低減効果を、従来型の製造業特有の課題を踏まえながらわかりやすく解説します。

今後バイヤーを目指す方や、サプライヤーの立場からバイヤー思考を知りたい方にとっても必見の内容となっています。

共同物流とは何か?概要と日本メーカーにおける実態

共同物流の定義と歴史的背景

共同物流とは、複数の企業や事業者が出荷・輸送を協力して効率化する取組を指します。
一社単独でトラックを手配する従来型物流に対し、異なるメーカー同士が『荷主連携』することで、積載率を最大化し、物流拠点や車両の共用によるコストダウンを狙うものです。

元来、日本の製造業界は「自社完結主義」が根強く、ロジスティクスの差別化や管理コストの抑制の観点から全て自前で対応する傾向が強く見られました。
しかし時代は変わり、サステナビリティや人手不足が深刻化する現代において、企業の垣根を超えた“協調”が命題となっています。

なぜ今、共同物流なのか?

現場を知る方ほど体感されている通り、トラックドライバーの高齢化や若年層の減少はますます加速しています。
加えて、宅配需要の爆発、燃料費・人件費の高騰といった外部環境も激変しました。
その中で、従来通りの自前主義を堅持するだけでは、将来の経営は立ち行かない危機感が多くの企業に広がっています。

共同物流は、複数社で効率よく積載・配送できるため、限られた物流リソース(車両・ドライバー)を有効活用し、コストだけでなくCO2排出や取引先からの社会的要請にも応えやすい解決策となりつつあります。

日本メーカーが共同物流で輸送コストを下げる具体的なポイント

輸送コストの構造を理解する

まず、輸送コストには「ピックアップ(集荷)」「幹線輸送」「ラストワンマイル」「車両の空き走行(空車率)」などさまざまな構成要素が存在します。
製造業特有の課題として、納品先ごとに異なる指定時間、荷姿、少量多頻度化など、非効率の温床となる要素も多数。
共同物流では、この分断されていた荷物や物流網を再設計し、以下のようなポイントでのコスト低減が期待できます。

積載率向上による効率化

最大の効果は、同じ地域・納品先に向かう複数メーカーの荷物を「ひとつのトラック・ひとつのダイヤ」で運ぶことで、トラックの積載率を格段に向上できることです。
従来30~50%だった積載率が、共同配送によって80~90%へ向上した実例も多く報告されています。

同じ配送ルート・納品形態を標準化することで、小ロット・多品種だからこそ発生しやすかった「空気を運ぶ無駄」を一気に削減できます。

物流拠点の共用化と在庫リスクの分散

共同物流プラットフォームを活用すれば、地域ごとの共同配送センター(クロスドック)が設けられるケースも増えています。
これにより、各社が個別に設置していた物流拠点を部分的に統合・縮小でき、固定費の圧縮はもちろん、災害リスクや急な需要変動時にも柔軟に対応が可能となります。

また、配送便の時間指定や納品形態の制約も、複数社での交渉・標準化を行うことでサプライヤー・バイヤー双方にとって納得感あるルール設計ができる点も大きなメリットです。

バイヤー目線でのメリット

特に調達・購買担当者やバイヤーの方にとって大きなポイントは、共同物流を導入することで「全体最適」によるコスト削減はもちろん、サプライヤーへ発注ロットや納入頻度の柔軟性向上を求めやすくなる点です。

一社独自で物流を最適化しようとすると、無理なコストカット要求や納期短縮で現場を疲弊させ、品質トラブルや納品遅延の温床となっていました。
ですが、共同物流を通じてサプライヤー同士が物流面で協力する場が自然発生しやすくなり、業界全体として健全な関係構築・パートナーシップ強化につながる側面があります。

サプライヤー・バイヤー双方にとっての現場課題と共同物流の現実解

昭和型慣習からの脱却と現場課題

依然として多くの現場で「昔からこうやっているから」と守られ続ける物流慣習があります。
例えば「納品先ごとの厳格な時間指定」「細かすぎる包装・荷姿指定」「全数検品を納入時に求める」などのしきたりは、作業負担やコスト増に直結します。

共同物流導入にあたり、初期段階では現場の抵抗感は避けられません。
筆者自身も現場管理をしていた際、業務プロセス可視化や関係者への丁寧な周知活動をとことん繰り返し、実務担当者からの反発なども一つ一つ解消してきた経験があります。

「共通化」と「柔軟性」のバランス

共同物流導入成功のカギは、機械的な一律運用に走るのではなく、各社の事情や取引先の要件を丁寧にすり合わせるラテラルな視点です。
「ここは共通化する、ここは柔軟に(カスタマイズし)残す」という仕分け、無理難題を押し付ける『現場無視』ではなく、双方納得できるルールメイクが不可欠です。

特に多くのサプライヤー・バイヤー現場で、怒号が飛び交う納品現場や、仕様変更・納入ミスで信用問題に発展する場面を幾度も経験してきた身からすると、事前の現場ヒアリングを徹底する重要性を痛感しています。

共同物流導入の効果事例と最新動向

大手メーカーの成功事例

有名な実例としては、複数の精密機械メーカーが東日本地域で共同配送網を立ち上げ、1社あたり年間輸送コストを20%以上削減した成功例や、自動車部品業界におけるJTロジスティクスの共同輸送物流などが挙げられます。

これらのプロジェクトでは「異業種共創」や「シェアリングエコノミー」の発想も盛り込み、デジタル化された運行管理・リアルタイム積載マッチングなど、最新技術を積極導入することで大幅な効率化とコスト低減を実現しました。

IT・AI技術の活用と今後の方向性

共同物流は、単なるアナログの“相乗り”ではありません。
最近ではクラウド化された配送管理システムや、AIによる動態管理、最適配車ルート自動生成といったデジタル技術の導入が進んでいます。

また「データ共有」を通じて付加価値分析(たとえば納入遅延要因や空車率の可視化、CO2削減効果の見える化)も可能になるため、今後はESG経営やグリーン調達の要請にも積極的に応えることが期待されています。

まとめ:これから共同物流が製造業にもたらす未来

日本の製造業界は、長きにわたり独立・分断された物流体制から抜け出せずにいましたが、今ここにきて本物の改革が始まっています。
共同物流は単なるコスト削減手法にとどまらず、現場や会社の壁を超えたイノベーションのエンジンとなるものです。

単に安く早く運ぶ、ではなく、誰もが持続可能なサプライチェーンを構築し、製造現場の信頼・パートナーシップの強化、そして事業そのものの競争力向上に直結する取り組みです。

バイヤーを志す方、サプライヤーとしてバイヤーの考えを理解したい方は、ぜひ「共同物流」という新たな選択肢に目を向けてみてください。
そして、アナログな現場でも今日から一歩踏み出すことが、製造業の新しい地平線を切り拓く力になるはずです。

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