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巻取り中の糸の飛び出しを防ぐトラバース角度とテンション制御法

目次
はじめに:巻取り工程における糸飛び出しの課題とその背景
巻取り工程は繊維・フィルム・樹脂線材など、製造業の多くのプロセスで欠かせない重要な作業工程です。
その中でも、「巻取り中の糸の飛び出し」トラブルは、現場担当者や管理者にとって日々苦慮する課題の一つとなっています。
一度でも糸が飛び出してしまうと、製品品質の劣化や後段工程でのトラブル、最悪の場合は生産ライン停止につながることもあります。
こうした問題は、いまだに昭和時代的な職人技だけに頼ったアナログ管理体制が残る製造現場ほど根深く、抜本的な再発防止が難しいものです。
本記事では、バイヤー志望者やサプライヤーの方にも役立つ、巻取り工程における糸飛び出し防止の観点から「トラバース角度(往復動作)」と「テンション制御(張力制御)」の最適化方法について深く掘り下げます。
また、現場実践で獲得したノウハウや最新業界動向も交えつつ、昭和の常識から令和の新たな地平線を切り拓くヒントを提示します。
巻取り工程における糸飛び出しのメカニズム
なぜ糸は飛び出してしまうのか?
巻取り工程で糸の飛び出しが起きる主な原因は、「並び段差(糸段差)」と「糸の余剰張力」に加えて、「トラバース(往復運動)」の制御ミスが挙げられます。
トラバースは巻取りドラム(ボビン)の横方向へ糸を往復に動かし、美しく均一に糸を敷き詰めるための機構です。
この動作が最適でない場合、糸同士に段差ができたり、過剰な圧力が加わって糸が跳ね上がったり、「お団子巻き」のような形状不良が発生します。
もう一つ重要なのが糸テンション(張力)です。
テンションが強すぎると糸の伸びや破断、弱すぎる場合は糸の浮きや糸重なりが起きます。
これらのバランスが取れていないと、どんなに熟練工が付いていても糸飛び出しは避けられません。
巻取り現場での「昭和的属人化」の落とし穴
製造業の多くの現場では、巻取り調整が「熟練オペレーターの経験と勘」といった属人的ノウハウに依存する傾向が強く残っています。
確かに、アナログ時代は現場の名人が絶妙な感覚で機械を調整し、不具合が起きれば臨機応変に対応してきました。
しかし多品種少量生産・自動化・DX化が急速に進む現在、そのやり方は人手不足や世代交代、海外拠点展開などにより限界を迎えつつあります。
この状況を打破するには、具体的な数値管理・再現性のある手法への移行が急務です。
トラバース角度の制御が糸飛び出し抑制のカギ
理想的なトラバース角度とは?
トラバース角度とは、糸を巻取りドラム上で左右に動かす際の最大傾き角度を指します。
トラバース角度が適切でない場合、糸同士の「食い込み」や「浮き上がり」が起こり、飛び出しの主要因となります。
理想的な角度は、糸の太さ・種類・ドラムの表面摩擦・巻径の増大速度などにより変化しますが、一般的には「糸の径の2~3倍程度のピッチ」かつ「30度前後の角度傾斜」が指標とされています。
これより角度がきついと隙間が減りすぎて食い込みが多発し、浅いと糸が重なってダマになってしまいます。
トラバース機構の種類と調整ポイント
主なトラバース機構としては、カム式・ボールねじ式・リニアアクチュエーター式が挙げられます。
巻取り開始から終了まで、巻径に合わせて「ストローク幅」と「速度比率(巻取り回転数との比)」の逐次調整が必要です。
特に高度な自動化現場では、巻径増加に合わせて「トラバース幅自動補正(スランティングトラバース)」や「電子制御フィードバック」を用いた多軸補正が導入されています。
一方、アナログ現場では物理的なストッパー調整やカム交換でしか対応できず、量産・切替が煩雑です。
独自事例紹介:テーパコーンの端部リンキング対策
例えばポリエステル糸のテーパー巻きコーンの場合、端部で糸の戻り跳ね(はじき戻り)が頻発していました。
シンプルな「トラバース終端での搬送速度変化(スローダウン)」と「端部格子細調整」を実施することで、飛び出しを9割削減した事例があります。
熟練者の勘頼みから「工程条件記録+自動調整ユニット」に変革したことで、誰でも安定運転でき、現場技能の属人化も軽減しました。
テンション制御:最適張力が品質と安定稼働を生む
なぜ糸テンション管理が難しいのか
糸の巻取りテンションは、巻取り速度、巻き取り物径、糸そのものの伸度特性、張力変動に直結します。
巻径が大きくなるにつれ、同じ回転数でも内部張力が変動しやすいため、つい調整が遅れがちです。
また、テンションの設定が高すぎると糸切れや質低下、低すぎると緩んで絡み・飛び出し・形状不良の温床になります。
手元に糸張力計がなく、現場の「軽く指で触ってチェック」というケースも見受けられますが、これでは安定品質は望めません。
現実的なテンション制御の方法
テンション制御の代表的な方法は以下の通りです。
– ブレーキ式張力調整(パウダーブレーキ、空圧ブレーキ)
– ロードセル(張力計)フィードバックによるサーボ制御
– ダンサーローラーによるバッファリング
– 巻径制御と連動したテンションプリセット
最近は、ロードセルの価格低下とPLCとの親和性向上で、「ラインごとに張力を定量管理」し、「張力異常時アラート」を飛ばすIoT運用も一般化しています。
現場では「スタート時・フル巻時・終端切替時」にテンション暴れが起きやすいので、一時的なワンタッチ補正機能もあると便利です。
アナログ業界現場での導入・転換のコツ
属人技術→標準化・見える化のポイント
アナログ主体の現場であっても、糸飛び出しの工程異常を「再現性ある数値」と「調整ポイント」に分解して見える化することが、昭和から令和への進化の第一歩です。
– 全てのトラバース・テンション調整値を記録
– 巻きズレ・飛び出し位置・現象画像をストック
– 調整→結果→再調整のサイクルをPDCAで繰り返す
これにより、異常発生要因が特定・予防しやすくなり、技能継承も容易になります。
「何となく」「昔はうまくいった」から一歩踏み出し、未経験者でも同じ品質が出せる現場作りが求められます。
サプライヤー・バイヤーが重視すべき品質管理ポイント
サプライヤー(巻取り品納入側)は、巻取り品質=最終製品品質と位置づけて「外観・端面巻きズレ・飛び出し履歴」などの細かい記録提示・サンプリングを徹底しましょう。
一方、バイヤー側も「サンプルロットの巻取り外観」「張力ばらつきデータ」「異常時対応体制」を確認し、現場調査では宛名だけでなく担当者ヒアリングも重視すると良いでしょう。
今後の巻取り工程:AI・デジタル化の可能性
AI画像解析による糸飛び出し予兆管理
最新の先進工場では、カメラによる連続画像解析で「糸飛び出し形状」を定量値化し、トラバース軌道やテンション値の自動リアルタイムフィードバックを実現しています。
AIが過去の巻取り不良パターンを学習し、異常兆候(膨らみ・はじき戻り・シワ)の自動補正へと進化しており、今後は国内中小工場でも導入が進むでしょう。
この動きに取り残されないためにも、まずは「現場ノウハウの数値化」を習慣づけ、データ活用PVCA(Plan-Visualize-Collect-Act)サイクルへと進むことが求められます。
まとめ:巻取り品質は“現場発イノベーション”から生まれる
巻取り中の糸の飛び出し対策は、単なる作業手順の工夫だけでは根本解決に至りません。
トラバース角度とテンション制御という“科学的管理”に加え、属人技能に頼らない標準化・自動化・見える化が決定的に重要です。
サプライヤーもバイヤーも、糸飛び出しという“小さな現場課題”から、持続的な品質革新と生産性向上の突破口を開いてほしいと思います。
本記事が、昭和の経験値と令和のデジタル技術を融合し、巻取り工程発のイノベーションを力強く推進するヒントとなれば幸いです。
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