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スペック通りでもトラブルが起きるのは“顧客使用条件”に起因するから

目次
はじめに:スペック通りでも現場で起こる“想定外”のトラブル
製造業に携わる皆さんであれば、「図面や仕様書のスペック通りに作ったのにクレームが発生した」「検査をクリアしたはずの製品が顧客先で不具合を起こした」といった経験が一度や二度はあるのではないでしょうか。
なぜ、スペック通りに製造したにも関わらず、トラブルが生じてしまうのでしょうか。
この根本的な原因の一つが、”顧客使用条件”の落とし穴にあります。
本記事では、20年以上の大手製造業での現場経験・管理職経験を活かし、現場目線で「顧客使用条件」を深堀り。
昭和から抜け出せないアナログ体質が残る業界の現状も踏まえながら、実践的な対策を提案します。
スペック通り=顧客満足 ではない現実
仕様書がすべてを語らない理由
一般的に、バイヤーがサプライヤーに製品や部品を発注する際には、図面や仕様書(スペック)がやり取りされます。
この仕様書に記載された品質要件、材質、寸法、許容差などを正しく守って作ることが「良いものづくり」である、というのが製造業の大原則です。
しかし、実際の現場では「スペック通りに作ったのに、お客様からクレームが入る」という現象がしばしば発生します。
これは一体なぜでしょうか。
その根本には、「顧客使用条件(実際の使われ方)」が仕様書では十分に表現できていない、あるいは伝わっていないという事情が横たわっています。
顧客使用条件とは何か
顧客使用条件とは、製品や部品が最終的に顧客現場でどのように扱われ、どのような環境下で使われるか、日々どんな力や熱・薬品などに晒されるのか、といった”実際の現場での使われ方”のことです。
極端な例ですが、屋内温度25℃の通常環境で設計された部品が、たまたま屋外で氷点下や高湿度環境にさらされる現場だった…ということもあり得ます。
また、顧客の作業員が部品を誤った方向から取り付けたり、分解メンテナンス時に過大な力をかけるといった「操作ミス」も含まれます。
こうした顧客使用条件の違いが、思わぬトラブルやクレームを引き起こす大きな要因となっています。
昭和的アナログ体質の製造業に根付く“暗黙知”
「阿吽の呼吸」はもう通じない
昭和以来、日本の製造現場では長年、「現場の勘」や「暗黙知」に頼ってものづくりが進められてきました。
仕様書には書いてなくても、「この客はこういう使い方をしているから、ここは少し頑丈にしよう」「いつも通り、あの検査も追加でしておけばいい」といった、経験則に基づく判断が当たり前のように行われていました。
しかし、グローバル化・業界の高齢化による技術伝承の難しさ、サプライヤーやバイヤーの個人依存からの脱却などにより、こうした「阿吽の呼吸」は徐々に通じなくなっています。
サプライヤー側が「言わなくても分かるだろう」と思い込んで作った結果が、顧客側の現場とミスマッチを起こし、トラブルに発展してしまうのです。
海外製造や多品種対応の課題も重なる
さらに昨今は、調達先の多様化(海外サプライヤー、マルチベンダー化、コスト重視調達)や市場のニーズ変化による多品種少量生産といった環境変化が加速しています。
サプライヤーの顔が見えにくくなり、経験値・知識の共有が難しくなる中で、「顧客使用条件」を正確に伝えきる/聞き出すことがますます重要となっています。
現場目線で考える!顧客使用条件の落とし穴とその解決策
現場でよくある“顧客使用条件”が原因のトラブル事例
1. 取り付け方向・順序の違い
ある部品を設計通りスペック内で納品したものの、顧客現場では別の向き・取り付け方で運用していたため不具合が発生。
2. 異なる洗浄・薬品処理
図面で想定されていなかった洗剤や強アルカリでの洗浄を顧客ラインで実施され、材質が変色・腐食。
3. 極端な温度・湿度変化
倉庫の空調管理が異なり、部品の膨張・収縮を繰り返し寸法不良・ヒビ割れ発生。
4. 過度な組立/分解作業
「想定より力強い作業者」が取り付け・分解工程で部品を破損。
これらいずれも、「設計・仕様書の範囲では問題ない」と思っていても、実際の現場使用の実態とは乖離があった結果です。
顧客使用条件の現場ヒアリングと“見える化”のススメ
こうしたトラブルを回避するための第一歩は、「顧客使用条件の丁寧なヒアリング」と「情報の見える化」です。
製造側(設計者・生産管理・バイヤー担当者)は、定期的に顧客の現場担当者(作業者・保全担当・生産管理など)と直接コミュニケーションをとる機会を設けましょう。
図面や文書だけでは伝わらない、実際の作業現場や取り扱い状況を動画・写真などで共有するのも効果的です。
また、使用環境(温度・湿度・化学品の有無)、取り付け・分解の流れ、運搬・保管の実態なども細かくリスト化、ヒアリングシートやチェックリストとして“標準化”すると社内共有が容易になります。
“バイヤー目線”で考える!調達仕様の伝え方・受け止め方
バイヤーを目指す方やサプライヤーの立ち位置にいる方に特に伝えたいのは、ただ図面・仕様書をそのままサプライヤーに渡すのではなく、「なぜこの仕様・工程が必要か」「どんな現場リスクが考えられるか」という、背後の意図・使用条件を“補足情報”として伝える重要性です。
一方、サプライヤー側も「この仕様で問題ないですか?」という形式的なYes/Noだけにとどまらず、「この工程でこういう扱いを想定していますが、違う使い方はありませんか?」という“逆ヒアリング”を積極的に実施しましょう。
この双方向のコミュニケーションが、真の意味での「スペックギャップの解消」=顧客満足の実現へ大きく寄与します。
AI・IoT活用!アナログ脱却で広がる顧客使用条件の可視化
工場の自動化×実践的データ活用
近年は工場の自動化(FA)やIoT技術の進展により、実際の生産ラインや顧客現場での「使われ方」をセンサーやカメラでリアルタイムに記録・分析できるようになっています。
例えば、温度・湿度センサーを出荷品や現場に同梱し、どのような環境で部品が保管されたかをデータ記録。
振動・圧力センサーで取り付け時の力加減を記録し、“想定外の作業負荷”が発生していないかをチェック。
こうしたデータをもとに、仕様書に顧客使用条件の「現場数値」を具体的に追加できるのです。
アナログ管理の脱却がクレームを減らす
これまで「勘」や「経験」に頼っていた“曖昧な情報”をデータ化・可視化することで、人が異動・退職した後も知見が引き継がれるようになります。
さらに「想定外の作業ミス」も事前に検知できるため、結果としてクレームや重大トラブルのリスク低減につながります。
先進事例では、客先の作業現場に“スマートグラス”を導入し、「この部品はこのように取り付けてください」と現場動画でリアルタイムにアドバイス。
スペックのみではカバーしきれない「使われ方」のナレッジを、サプライヤー・バイヤー間で共有できます。
まとめ:新時代の“現場力”=顧客使用条件の徹底理解から
製造業が持続的に競争力を保つためには、「どれだけ高品質なモノを安定して作れるか」だけでなく、「実際にお客様が満足して使える製品を提供できるか」が問われています。
そのためには、スペック(仕様書)だけに頼るのではなく、現場のリアルな声・データをもとに顧客使用条件を徹底的に掘り下げ、“見える化”することがますます重要となります。
今後の製造業に求められるのは、DXやAIといった新技術を使いこなすことに加え、昭和的な職人技・暗黙知もバランスよく融合させる「新しい現場力」です。
バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場から顧客志向の提案力を磨きたい方は、是非“顧客使用条件”にもっとフォーカスしてみてください。
この地道な情報共有と現場コミュニケーションこそが、スペック通り=顧客満足 では終わらせない、新時代のものづくりを切り拓くカギとなります。
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