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振動監視部材だけでは防げないトラブルの実態

目次
はじめに:振動監視部材の過信が招く落とし穴
近年、製造業の現場では設備のダウンタイム低減や効率化のために、振動監視部材による予防保全が大きく注目されています。
センサーとIoT技術の進歩のおかげで、モーターやポンプ、ベアリングなどの稼働状況を可視化し、予知保全によるトラブルの未然防止が進んでいる現場も多いでしょう。
しかし実際の現場では、これらの振動監視部材だけではカバーしきれないトラブルが頻発しているのも事実です。
本記事では、20年以上にわたる現場管理職・工場長としての実体験と、業界全体の動向を踏まえながら「なぜ振動監視だけでは本質的なトラブルを防げないのか?」を掘り下げていきます。
これから設備保全やバイヤー職を目指す方や、サプライヤーとして顧客の課題解決に挑む方々の“現場目線”の理解に繋がる内容を目指します。
振動監視が一定の効果を持つ理由
振動監視による故障予兆の検知は、以下のような理由から、ある程度の信頼性とメリットがあります。
異常検知とデータ解析の即時性
機械設備が通常と異なる振動パターンを示した時点で、それを即座に検知できます。
これによりベアリングの摩耗・潤滑不足・アンバランスなど、初動段階の異常を“数値化”し、作業者や管理者が設備停止前に対応可能になります。
人的感覚に頼らずトラブルを可視化
昭和のアナログ管理が根強い製造現場でも、「なんとなく調子が悪い」「異音がする気がする」という曖昧な兆候を、振動値として客観的に蓄積できます。
これにより、熟練者の勘や経験に依存する体制から抜け出し、標準化・省人化が進みます。
予知保全によるコスト低減
計画外停止のコストや部品交換の早期対応によるライフサイクルコスト削減、加えて重大事故の予防という観点でも一定の効能があります。
現場で本当に起きているトラブルの実態
一方、現場では「振動監視して安心していたのに、なぜか突発的な故障が発生した」という経験も少なくありません。
ここからは、振動監視だけでは捕捉しきれないトラブルの実態を、主な事例とともに考えます。
1. 振動値に現れにくい「静かなトラブル」
たとえばグリース切れや潤滑異常、シール破損、緩慢な腐食進行といった現象は、短期的には“振動値の変化”に強く反映しません。
結果、見かけ上はStable(安定)判定されていても、内部では確実にダメージが蓄積し、ある日急激に破損・発煙・漏洩といったトラブルにつながります。
これは、特に低速回転装置や負荷変動の少ない設備に多く見られます。
2. 感知エリアの「死角」が生む抜け漏れ
振動センサー(加速度センサーやピエゾ素子)は、取り付け位置のごく狭い範囲の情報しか取得できません。
設計思想として「決められた部位のみを監視」している以上、荷重のかかり方、支点部のゆるみ、伝達経路上の遊間(クリアランス)異常、ネジの緩み、小型ギアの磨耗などは検知できないことが多いです。
例として、ギアボックス内部のサブシャフトや遠位側の軸受が劣化しても、主センサー箇所では通常範囲内と判断され、交換対応が遅れる事例がたびたび起こっています。
3. アナログ回路・複雑系の「誤検知」「ノイズ」
古い設備ほど、伝送信号や電源ノイズの影響、生産環境の振動(クレーンの移動、床面のたわみなど)が疑似的な“異常値”を発生させます。
このため「頻繁な誤報」が発生し、現場作業者が不必要な対応に追われたり、本当に必要な要因が見過ごされる二次的リスクもあります。
導入前後の「現場教育」と「モニタリング体制の見直し」が伴わないと、システム自体が形骸化しがちです。
なぜ振動監視“だけ”に依存してはならないのか?
人間の五感・現場の注意力との融合が不可欠
設備の異常検知において、現場でよく言われるのは「機械も見るけど、人も現場を見るべき」という言葉です。
振動監視はあくまで「気づきの一つのトリガー」に過ぎず、現場を歩き、触れ、臭いや音の変化を感じ取る“フィジカルな五感”の重要性は依然として高いままです。
昭和の熟練者が残した知恵、その一つに「少しでも違和感があれば即座にラインを止めて確認する」「違う、と思ったら上長・工務スタッフを呼ぶ」など、“超アナログ”な安全文化があります。
この文化が“非効率・時代遅れ”と受け止められがちですが、実は高度な自動化ラインでも“最後の砦”として機能しています。
総合的な保全戦略の必要性
設備管理のプロセスは、デジタル監視(振動、温度、圧力などの多点モニタリング)と、定期的な目視点検、ルーチンメンテナンス、各部品の使用履歴・交換ログのすり合わせから成り立っています。
これらが三位一体となって初めて予知保全の本来の価値を発揮します。
いかにAI・IoTが進化しても、現場情報・作業者の声を施策に組み込み続けることが、アナログ文化の根強い日本の現実解ではないでしょうか。
バイヤー・サプライヤーの立場で考えるべき本質
バイヤーが振動監視部材や予知保全システムを選定する際、「あれもこれも自動化・AIに乗せれば万全だ」と考えがちですが、必ず現場への理解が追いつきません。
サプライヤーも、単なるセンサー供給やサービスで終わらず、ユーザー現場の「運用実態」や「人が関わる運用フロー」を知ることが信頼獲得には不可欠です。
「人も見て機械も見る」「データと対話する現場文化」を一緒につくる意識を持つことが、両者の本質的なパートナーシップにつながります。
昭和アナログ現場がいまだに強い理由
“泥臭い現場目線”の意味
日本の製造業が強かった時代、現場のリーダーたちは「目で見て手で触り、耳で聞いて違和感を感じ取る」ことを徹底していました。
逆にデータや指標だけを信じすぎて正常判定してしまった現場は、どこかで必ず大きなトラブルに見舞われていました。
昨今のデジタル化ブームの中でも「人がやるべき作業」「機械でも検知できないリスク」を見極める体質が、日本の現場力の真髄と言えるでしょう。
人材育成・伝承の壁と新しい可能性
一方、若手社員の減少や技術伝承断絶も深刻な課題です。
デジタル技術の導入は、このギャップを埋める一助ではありますが、「現場を歩いて五感で確かめる力」と「監視データに基づいて計画立案する力」の両輪がなければ、いずれ新たな課題に直面します。
両者を融合できる人材、あるいは現場の声を吸い上げて業務設計へ反映できるバイヤーやサプライヤーこそ、これからの製造業をリードする存在になりえます。
これからの現場・バイヤー・サプライヤーが得るべき視点
現場作業者へのフィードバックループ
振動監視の導入意義や判定結果は、現場作業者との「双方向フィードバック」によって真価を発揮します。
「センサー値が異常を示した時、それを現場がどう受け止め、どう対処したか」をふり返り、原因と結果を組織で共有することで、現場全体のリスク感度は飛躍的に上がります。
バイヤーに求められる現場起点の発想
設備導入・保全方針の設計には、机上では見えない現場独特の事情や暗黙知をいかにキャッチアップできるかが大切です。
形式上のROIや最新事例だけでなく、現場に足を運び、将来の稼働シナリオ、作業者のヒヤリ・ハット体験など「生の情報」を製品選定に反映する意識が欠かせません。
サプライヤーこそ“課題発見型”への脱皮を
部材やサービスの納入側も「納品して終わり」から、「ユーザー現場でどんな悩みや落とし穴がありそうか?」を能動的にヒアリングし、自ら改善提案する姿勢が不可欠です。
「こんな場合はセンサー監視だけじゃ足りませんよ」、「こんな現場ヒヤリを経験しているお客様が増えています」といった情報発信が、サプライヤーの新たな信頼資産となる時代です。
まとめ:振動監視を超えた“現場力”がトラブルを防ぐ
振動監視部材やIoT技術は、設備保全における力強いツールであり、将来の主流になっていくのは間違いありません。
しかし、その万能感に頼り切っては、現場で本当に起きている“静かなるトラブル”や、“五感でしか感じ取れない異常”は防ぎきれないままです。
今この瞬間も、現場では泥臭く手を動かし続ける作業者と、それを支えるアナログ文化が息づいています。
未来志向のバイヤー・サプライヤーは、「データ×現場×人間力」の総合的なリスク管理へ、新たな地平を切り開いていくべきです。
この複雑な現場の実態を共有し、“トラブル未然防止”の本質的な在り方を、これからも共に考えていきたいと思います。