投稿日:2025年6月9日

二軸スクリュー押出機による成形技術とトラブル対策・スケールアップ

はじめに:二軸スクリュー押出機が生み出す価値と今後

二軸スクリュー押出機は、プラスチックや樹脂の成形加工において不可欠な存在です。

特にフィラーや添加剤、熱可塑性樹脂など多種多様な素材の混練、分散、成形において、その柔軟性と生産効率の高さが評価されています。

昭和から平成、令和へと、成形技術の中枢を担ってきた二軸スクリュー押出機ですが、現場では未だにアナログ的な工程管理や属人的ノウハウの蓄積が根付いているのも事実です。

今回は、現場に根差した視点から、二軸スクリュー押出機の基礎、トラブル事例とその対策、さらには量産スケールアップまでを実践的に解説します。

二軸スクリュー押出機の基礎:一軸との違いと優位性

なぜ二軸なのか? 混練・分散の深化

二軸スクリュー押出機の最大の特長は、2本のスクリューが噛み合って回転することで、原材料を強力かつ均一に混練できる点にあります。

一軸スクリュー押出機と比較して混練性能が格段に高く、異なる材料の分散や反応性樹脂の合成、充填材・ガラス繊維の均一分散などニーズが高まるテーマに強いです。

また、スクリュー形状やピッチの多様化、バレル側面からの材料注入など、成形条件に合わせたカスタマイズ性も二軸押出機ならではの魅力です。

工程例:樹脂改質コンパウンドの実際

例えば、ABS樹脂にガラス繊維や難燃材を均一分散させるケースでは、原材料投入点や温度管理、スクリュー速度設定が重要になります。

現場では、原料投入のタイミングが5分違うだけで、物性値(引張強度・衝撃強度)が平均10%変動することも珍しくありません。

また、添加剤(難燃剤、安定剤など)のサージ現象、局所的な材料過熱による黄色変色は日常的な課題です。

このように、製品スペックを安定させるには、現場目線の細かなノウハウと二軸押出機の技術理解が不可欠です。

よくあるトラブルとその原因:現場のリアルな事例

トラブル1: 材料の偏析・分離現象

材料の粒度バラツキや吸湿性、スクリュー設計ミスによって、材料がバレル内で分離してしまうことがあります。

これにより、コンパウンド内の分散ムラ・ロット間物性差が発生し、最終製品にバラツキが生じます。

原因は原材料由来の水分(吸湿)や粉体の凝集、及びクリアランス過大による混練不良などが挙げられます。

対策としては、事前の原材料乾燥時間徹底、スクリューデザイン見直し、供給機側でのアジテータ(かきまぜ機)追加が有効です。

トラブル2: 溶融温度の過昇による変色・ガス発生

押出機のバレル温度設定が高すぎたりスクリュー速度が合っていない場合、材料の局所過熱によりガス発生や黄変、析出物(スケーリング)が深刻になります。

とりわけ、樹脂中の添加剤や着色剤が適切に分散されていない時に発生しやすく、材料メーカーや工程担当者の綿密な連携が必要です。

ガスやスケールがダイ口から押し出された場合は、ダイクリーニングの頻度を高めるとともに、カーボン成分蓄積の有無を目視も交えて管理しましょう。

トラブル3: スクリュー・バレルの異常摩耗と異物混入

近年では、リサイクル原料や難燃剤入り原料など、摩耗性・化学反応性が高い添加剤の使用比率が増えています。

長期間の生産や立ち上げ頻度増加によって、スクリュー摩耗・バレル摩耗の進行が早まり、不良品増加・生産トラブル回数増加につながります。

これに対しては、スクリュー・バレルの定期点検(走査型電子顕微鏡による摩耗度診断)、摩耗しにくい高硬度材への仕様変更、異物検出センサーの導入などが推奨されます。

トラブル未然防止の現場ノウハウ:アナログとデジタルの両立

標準作業手順書(SOP)と現場フィードバック連携

押出成形現場では、ベテラン作業員の勘・経験値(良い意味での”昭和スピリット”)と最新のIoT管理を融合させることが現実的かつ強力な対策となります。

たとえば、標準化された条件シートだけでなく、毎バッチごとに「前回トラブル点・今回改善点」を現場手帳などアナログ媒体に記録して共有する運用です。

これにより、担当者交代時や多品種・多工程対応時にも、現場ノウハウと時系列データが統合的に継承され、ヒューマンエラー低減が期待できます。

IoTを活用した工程監視とトレンド解析

近年は、バレル温度、スクリュー回転数、材料供給量といった主要パラメータをセンサーで常時監視し、突発的な変化や異常検出を即座に警告する仕組みが増えています。

具体的には、過去データとの乖離をAIが自動検出し、初期トラブル発生のタイミングを通知します。

しかし、現場目線では「警告がどこまで実作業に反映できるか」「AI判定をどのようにSOPに組み込むか」が依然として課題です。

AIやDX導入は”現場の現実・肌感覚”と組み合わせて初めて真価を発揮します。

スケールアップ(量産化)のポイントとリスク管理

量産化で失敗しないための「現行~量産機」移行戦略

ラボで開発した条件と、実生産(100kg/h~1t/h規模)でのスケールアップは、多くの現場で”鬼門”となります。

スクリュー径や長さの違い、材料供給方式、冷却・搬送の設計差異がネックになり、ラボではOKだった配合・設定が量産になると安定せずNGになる現象が頻発します。

ここで重要なのは、スケールアップ時には「過去のトラブル履歴」を詳細に分析し、スクリュー設計者(メーカー側)・材料メーカー・現場との三者協議を十分実施することです。

また、トライ生産時は原材料手配から設備負荷、品質指標の管理(粒度・色調・粘度など)まで、すべてイレギュラー対応含めて記録・検証する体制構築が不可欠です。

バイヤー(調達側)が知るべきポイント

バイヤーとしては、単価や納期だけでなく「どのようなトラブルリスクが想定され、それに対するサプライヤーの技術力・対応力はどうか」をシビアに見極める必要があります。

特に現場での工程安定性・トラブル時の初動対応力・量産化時のスケールアップノウハウがサプライヤー実力の真髄です。

「構成メンバーに現場経験者がいるか」「トライアル時の現場立ち合い・レポート体制は十分か」までしっかり確認しましょう。

サプライヤーから見たバイヤーの着眼点

サプライヤーは、バイヤーが設備安定性や品質データの一貫性、トラブル発生率に強く着目していることを意識するべきです。

また、量産試作時の報告資料には、NG発生時の原因分析・対策案・今後の再発防止策まで具体的なデータを添えて提示することで、信頼度が一段と増します。

これからの二軸スクリュー成形:持続的発展と付加価値創出

今後も環境規制や材料多様化、カーボンニュートラルへの対応要請はますます高まります。

従来のアナログ技術と最新DX、材料科学の融合により、二軸スクリュー押出機の役割は「モノを作る」から「価値をつくる」へとシフトしています。

現場起点の知見とトラブル対策ノウハウを、業界全体で横展開することが製造業の未来を拓くカギです。

バイヤー、サプライヤー、現場技術者それぞれが“現場目線”で本質を見極め、「失敗から学ぶ文化」の醸成にチャレンジし続けましょう。

まとめ

二軸スクリュー押出機による成形技術は、製造業の根幹を支える最前線の現場力です。

トラブル未然防止からスケールアップまで、現場で蓄積された“生きたノウハウ”の共有が、競争激化する製造業における生存戦略の決め手となります。

アナログとデジタルが混在する今だからこそ、誰もが学び直せる「現場知」の体系化が今後ますます求められるでしょう。

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