投稿日:2025年10月18日

タオルの吸水力を保つ撚糸回数と精練漂白の温度プロファイル

はじめに:タオルの品質と製造業の現場目線

タオルという身近な製品ですが、その品質に直結する「吸水力」は原材料や製法、さらには微細な生産プロセス管理まで大きく影響を受ける重要な要素です。

特に撚糸(よりいと)の回数や精練漂白の温度プロファイルといった専門的な工程管理は、製造業としていかに繊細なオペレーションが求められるかの象徴でもあります。

本記事では、タオル業界に根付くアナログ文化や昭和型の古い慣習も交えつつ、実践的な現場目線から「タオルの吸水力を保つ撚糸回数と精練漂白の温度プロファイル」について掘り下げていきます。

この知見は、現場の製造スタッフだけではなく、バイヤーやサプライヤーの方々にも必ず役に立つはずです。

タオルの吸水性を左右する主な要素

撚糸回数の持つ意味

撚糸回数とは、簡単に言えば原綿から紡績された糸をどれくらい“ねじるか”を示す数値です。

撚り回数が少ないと糸がふんわりと仕上がり、繊維間に含む空気量も多くなって水分をよく吸収します。

ところが、撚り回数が多いと、糸が締まって硬くなり、毛羽立ちも抑えられますが、糸と糸の間の隙間が減るため吸水力は低下します。

一般的には40番手の単糸であれば250~350T(トータルの撚り数)が標準ですが、同じ番手でも日本市場はとにかくふんわり志向が強いので「低撚糸(180T~220T)」を使ったタオルも多く見られます。

ただし、低撚糸は毛羽が出やすい、強度が落ちるといったデメリットもあるので、品質バランスの見極めが重要となります。

精練漂白とその温度プロファイル

綿素材のタオルは、原糸の状態で「天然の油分」や「ワックス分」が付着し、それが吸水を阻害します。

これをキレイに除去するために行うのが精練漂白工程です。

典型的な綿糸の精練漂白プロセスでは、水温を90~110℃に数十分から1時間かけて上昇、苛性ソーダや過酸化水素などの薬剤で洗浄します。

この際に「温度プロファイル」を細かく制御することで、繊維へのダメージを最小限に抑えつつ十分な洗浄力を発揮させます。

昭和時代の工場では、アナログな温度計とタイマー、そして職人の五感で温度管理していた現場も多いですが、今やデジタルセンサや自動制御盤で“温度の上げ下げのカーブ”までしっかり管理するところが増えています。

この制御プロファイルの違いによって、同じタオルでも吸水力や肌触り、そして色落ちのしにくさが全く異なる結果を生み出します。

撚糸回数と吸水力の現場的ベストバランス

低撚糸ブームがもたらしたもの

近年、日本市場では「一度触れただけで吸い取るタオル」のCMなどで低撚糸人気が定着しています。

ただし、実際の製造現場では、低撚糸は毛羽落ち・強度低下・耐久性という課題と常に隣り合わせです。

吸水ばかりを重視して撚糸数を極端に下げると、まともに使っただけで毛羽がごっそりとれたり、繊維が抜けてしまい商品クレームが増加します。

反対に撚り数を高く設定すれば日常使いの「耐久性」「毛羽落ちにくさ」はグッと増しますが、吸水力や感触が判断基準ぎりぎりまで下がるリスクがあるのです。

ここで現場目線の大切なノウハウがあります。

糸メーカーとタオルメーカー、織機担当や後工程担当が「使う人=現場の声」と「買う人=バイヤーの声」をきちんとヒアリングし、「撚糸回数」「原綿の長さ」「撚るタイミング」まで数値と現物のすり合わせを重ねましょう。

従来の“言われた通りに作る”昭和型OEM体質から、顧客ニーズをベースに「ちょうどよい撚糸回数」を探し出せる現場体制が、これからの製造業で求められています。

吸水と耐久性の落とし所

低撚糸をもとにした“ふっくら系”タオルの場合、糸強度を確保するため補助糸や異素材の混用、表面だけ低撚、ベースは標準撚糸、というハイブリッド製法が増えています。

また、30~40回洗濯してもへたりにくい織組織や、パイル抜けを防ぐ特殊縫製なども重要なコツです。

これらのアイデアは、設備投資が難しい町工場や中小の製造現場でも、下流まで目を配った「現場改善マインド」があれば、十分に取り組めます。

要は、社内だけで完結せず、サプライチェーン全体で柔軟な発想力を持ち、実験と検証を重ねていくラテラルシンキングが本質に迫るカギと言えるでしょう。

精練・漂白プロセスの高度化と温度管理の最適解

アナログからデジタルへ ― 温度プロファイルの進化

昭和時代、日本の繊維工場では「ベテラン職人が温度計とにらめっこ」して精練・漂白をしていました。

ところが現在は、大型自動釜やロット管理システムの普及で、「どの段階で何度まで」「何分で昇温」「急冷か徐冷か」など、温度管理がミクロに可視化できるようになっています。

ベストな温度プロファイルは、地域や原綿の質、目的とする仕上がりで変わりますが、おおむね下記のような考え方が現場で共有されています。

精練段階

<水洗い:40~60℃>
表面の粗いゴミや余分な化学薬品の除去。

<中温精練:90℃まで10分で昇温>
苛性ソーダ等を使い脂質の分解・除去。

<高温保持:100~110℃に30分保持>
過酸化水素で漂白、徹底した油脂分解と漂白作用。

<段階的冷却:60℃までゆっくり冷却>
繊維の保護のため、急冷は避ける。

この一連の温度カーブ(プロファイル)は、機械任せにせず「サンプリングと目視確認」を徹底するのが現場のリアルであり、デジタル+人間の感覚が最も相乗効果を生む瞬間でもあります。

漂白剤・助剤ごとの調整ポイント

繊維の組成や色味、用途によって薬剤や温度プロファイルは微調整されます。

昨今は“環境対応型”へのニーズも増え、塩素漂白から過酸化水素漂白へ/天然由来助剤への移行などが求められています。

この際も「温度の上げ下げを速くしすぎると繊維が傷む」「助剤の濃度が適切でも温度が1度違えば仕上がりに差が出る」など、現場感覚に根差した知見が必要不可欠です。

バイヤーとサプライヤーが知るべき現場目線の実践ポイント

バイヤーに求められる品質確認の着眼点

商品選定のとき、仕様書には「吸水力○秒」と数値が並びますが、これはあくまで基準でしかありません。

大切なのは、

1. 30回・50回と洗濯した後の吸水力
2. 毛羽落ちや糸の耐久性
3. 実際の肌触りや感触

これらの変化を自分の目や手で体感することです。

また、撚糸回数や精練プロファイルなど「工程ごとの数値データ」をきちんと開示できるサプライヤーを選ぶことも信頼構築の一歩です。

過度なコストダウンで低品質になるリスクも、こうした工程管理の数値を精査すれば見抜きやすくなります。

サプライヤーに求められるプロアクティブな提案力

数値データの開示だけでなく、「なぜこの撚糸回数を選んだのか」「どんな温度プロファイルで仕上げたのか」といった“ストーリー”を持った提案をすると、バイヤーの信頼は大きく高まります。

昭和時代の「とりあえず言われた通りに作って納める」から一歩先へ。

「現場の知見でよりよい方法はないか?」
「同じコストで吸水性と耐久性のバランスをさらに高められないか?」

こうした工夫こそが、全体の差別化、ひいては持続的な関係構築につながります。

製造業の現場に立脚したラテラルシンキングのすすめ

今こそ、同業他社との差別化も「ラテラルシンキング」、すなわち横断的・斬新な発想がカギとなっています。

1. 原材料選定から工程まで、サプライチェーン一気通貫で現場改善を重ねる
2. デジタル制御+人間の感覚の相乗効果で工程バラツキを最小化する
3. 顧客(ユーザーやバイヤー)の生の声を現場にフィードバックし続ける

こうした“昭和モデルからの脱却”を図りつつ、業界に深く根付く現場文化を活かし、新しい製造現場の在り方を共に作り上げていきましょう。

まとめ

撚糸回数や精練漂白の温度プロファイルは、単に数値の管理だけでなく、現場で培われる経験値や感覚、全体プロセスのバランスが試される「ものづくりの本質」を象徴しています。

古き良きアナログ文化の知恵に、最新のデジタル管理やラテラル発想を融合することで、より高品質なタオル、そして持続可能な製造業の進化が実現するでしょう。

製造業に携わる皆様、バイヤーを目指す方、またはサプライヤーの方、それぞれの立場でプロセス全体と現場の声に耳を澄まし、次の一歩のヒントとしていただければ幸いです。

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