投稿日:2025年10月29日

歯ブラシの持ち手が割れない二色成形と金型温度のバランス管理

はじめに:なぜ歯ブラシの持ち手は割れてはいけないのか

毎日使う歯ブラシ。
その持ち手が簡単に割れてしまうようでは、製品としての信頼は大きく損なわれてしまいます。
多くのユーザーにとって、歯ブラシの持ち手など“ただの樹脂部品”にしか見えないかもしれませんが、実は高い技術力と繊細な品質管理の上に成り立っています。
とくに、グリップ部分と本体で異なる色や素材を使う「二色成形」技術と、それを支える「金型温度のバランス管理」は、安定した品質を維持する上で欠かせない要素です。

この記事では、二色成形の奥深さと金型温度管理の重要性、さらに現場で培われたノウハウを交え、昭和からのアナログ文化が残る製造現場での現実、最新動向にまで踏み込んで解説します。

二色成形:歯ブラシの価値を変える技術

二色成形とは何か

二色成形とは、基本的に異なる2種類の樹脂(例えば硬いポリプロピレンと柔らかいTPEなど)を一体成形する技術です。
歯ブラシでいえば、芯になるしっかりした持ち手部分は硬質樹脂で、握りやすさや滑り止め部分には軟質樹脂が使われるケースが多いでしょう。
単純な樹脂成形に比べて、グリップ性やデザイン性を大きく高められ、消費者価値を向上させます。

二色成形の工法パターン

1. インサート成形
2. 回転二色成形(ロータリーモールド)
3. コアバック(二段抜き)成形

歯ブラシの場合は、インサートや回転二色成形が主流です。
この工程によって2種類の樹脂がしっかりと結合するため、異なる色や素材の境目が美しく、なおかつ強度も確保することが可能になります。

なぜ二色成形で割れやすくなるのか

問題は、樹脂同士の接合面や境界で物理的なストレスが集中しやすいということです。
成形不良や工程管理の甘さによっては、ここがクラック(割れ)の起点になりやすいのです。
特に使用中にねじりや引っ張りの力が加わる持ち手やグリップ部分では、設計どおりの強度が保てない場合、ユーザーの手元で部品破損という最悪の事象が起きかねません。

金型温度のバランス管理が命運を分ける

なぜ金型温度が大事なのか

金型温度はプラスチック成形において、樹脂の流動・硬化・接合、ひいては見た目や強度のすべてに直結します。
特に二色成形は、2回成形を繰り返すため、1st Shot(1回目)と2nd Shot(2回目)の間に金型の局所的な温度変化がとても大きいのです。

低すぎる温度では樹脂の流動が悪くなり、溶着や界面の接合が甘くなる。
高すぎれば樹脂が過度に流れてバリやウエルドライン(筋状の痕)が発生したり、寸法精度が崩れてしまいます。

バランス管理の難しさ〜現場で起きていること

特に、一期一会の“現場ならでは”の課題として、次のような現象がよく発生します。

・型温調節器の精度や再現性が安定しない
・現場員の感覚や経験値によって調整幅が異なる(昭和からの名人芸が残る)
・工程ごとに樹脂の温度、型表面の温度、射出圧力、冷却水量がバラつく
・工場の外気温やラインの稼働率によって日々条件設定が必要

一流メーカーであっても“ゴールドラットの言うボトルネック”が温度に現れることもしばしばです。

ベストな温度バランスの探し方

まずは型温調節水路の設計や温度コントローラーの選定まで遡って見直す必要があります。
オフライン段階でもシミュレーションソフト(Moldflow等)で流動解析や温度推移解析を事前に行い、現場では決して「手感」だけに頼らないデータ主導のPDCAサイクルを回すこと。

加えて、1st Shot直後の局所熱分布や2nd Shot成形時の拘束応力、冷却条件も最適化し、全体のサイクルバランスを維持することが大切です。
この一つ一つの工程に細やかな温度管理を徹底することで、二色成形歯ブラシの持ち手の割れリスクを最小限にできます。

現場改善と昭和パラダイムから脱却するために

なぜ日本の製造業はアナログにこだわるのか

多くの中小工場、大手であってもライン最前線では“ベテラン職人の勘と経験”が圧倒的な支配力を持っています。
ときに、データも取らず手帳に書き付けて作業が進む場面も依然多く見られます。
昭和時代からの文化や現場への信頼、IT/IoT投資が浸透しきらない現場の事情、属人的な管理習慣――
これらを乗り越えることが歩留まり向上、不良品率低減、コスト削減、顧客満足度アップにつながります。

金型温度管理のデジタル化事例

たとえば、AI制御温度管理システムや、IoT温度モニタリングを導入した現場では、次のような効果が得られています。

・型温毎時自動記録&アラートによる維持管理の省力化
・工程ごとのばらつきを解析しやすくなり、ばらつき要因の特定と迅速改善
・温調機トラブルの予兆を自動検知し、ダウンタイム削減
・新人・非熟練者でも均一な管理レベルを担保しやすい

このようなデジタル化・標準化が進むことで、個人の経験値や能力差を補完し、全体の生産性と品質が大幅にアップします。

購買・バイヤー視点で重視すべきこと

なぜ「割れない持ち手」は重要な評価基準か

バイヤーや調達担当者にとって、「割れにくい=エンドユーザーからのクレームが減る=ブランド価値損失の回避」という意味で、耐久性・信頼性は最も大切な評価基準です。

また、二色成形や金型温度管理がしっかりしているサプライヤーは、他の部品や案件でも手堅い品質保証を期待できます。

現場の製造工程管理まできちんと理解しているバイヤーは、単なる価格交渉だけでなく
・品質異常処置の能力
・管理体制やトレーサビリティの確立度
・品質波動への備えやリカバリープラン
まで視野に入れてサプライヤーを選定しています。

サプライヤー目線:どうすれば信頼バイヤーになれるか

徹底した金型温度管理ができ、かつそのデータを常時提出・提示可能な管理体制を構築することが大切です。
また、設計変更や量産初期トラブル発生時に、現場対応力(人・モノ・データ)が即応できる体制構築が前提です。

バイヤーとのコミュニケーションでは「技術的根拠に基づく説明」「管理シートや成形履歴の提示」ができることが信頼につながります。
互いに現場の課題を開示し、歩留まり・納期管理などの改善策にも積極的に参画する意識がサプライヤーにも求められる時代です。

まとめ:新しい常識へ踏み出すためのポイント

二色成形歯ブラシの持ち手が割れないためには、
・設計段階からの工法/樹脂選定
・金型の温度バランスを徹底追究した管理体制
・データ駆動の現場オペレーション
・サプライヤーとバイヤー双方の現場理解とチャレンジの姿勢
が決定的な差になります。

これらをコストや納期と同等か、あるいはそれ以上に重視し、本質的な“現場本位”の改善を続けることで、昭和から続くものづくり日本の底力を再興できます。

本記事が、製造業に関わる方々が現場の奥深さ・新たな改善のヒント・バイヤー&サプライヤー双方の本音を考えるための一助となれば嬉しいです。

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