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歯ブラシグリップの滑り止めパターンを作る二色射出成形技術

目次
はじめに:歯ブラシグリップの課題と革新
日常生活に欠かせない歯ブラシですが、その「持ちやすさ」を左右するのがグリップ部分です。
昔の歯ブラシはプラスチック一色で作られているものが一般的でした。
しかし、手が濡れていると滑りやすく、力が入りすぎてしまい歯茎を傷つけるリスクもありました。
この課題を解決するために登場したのが「滑り止めパターン」を組み込んだグリップ設計です。
そして、その実現を支えるのが二色射出成形技術です。
本記事では、アナログ文化の色濃い製造現場においても今や不可欠となった二色射出成形技術に焦点を当て、その仕組みやメリット、現場目線での苦労や工夫、さらには今後の展望まで、実践的な知見と業界動向を盛り込んで解説します。
二色射出成形技術とは何か
基本原理と流れ
二色射出成形とは、ひとつの製品を2種類の異なる樹脂で一体成形する加工技術です。
例えば、歯ブラシのグリップであれば、ベースとなる硬い樹脂(主成分)に、柔らかく滑りにくい素材(副成分)を一体的に射出成形します。
従来はパーツごとに別々に成形し、あとから接着や溶着を行っていましたが、二色成形なら一工程で一体化が可能です。
製造は「1型2射式(二段射出)」が一般的です。
まず主成分で形を成形し、その後金型の一部が移動。
そこへ副成分の樹脂を射出し、滑り止めパターンなどの意匠を形作ります。
メカニズムと成形機
二色成形機は、二台の射出ユニットを備え、切り替えや並行動作を実現します。
また、成形の工程としては
1. 主成分樹脂でベース形成
2. 金型が回転またはスライド
3. 副成分樹脂を所定パターンに射出
という流れになります。
このしくみにより、素材同士が分子レベルで結合し、従来の接着式より格段に高い剛性・耐久性・デザイン性を実現しています。
二色射出成形のメリットと現場実践の知見
滑り止めパターンの自由度と機能性
歯ブラシのグリップ部分に、ラバーやエラストマー素材の点線・波線・格子柄状の滑り止めパターンを配置することで、濡れた手でもしっかり握れるように設計できます。
二色成形は金型設計さえ工夫すれば、無限のデザインパターンが可能です。
ユーザーのニーズに即したグリップ設計が、スピーディーにかつ一貫して量産できます。
生産合理化とコスト最適化
一体成形は、後加工や接着工程を省くため、圧倒的な人件費・設備費の削減に繋がります。
また副資材(接着剤や溶着シート)のコストも不要となり、「安定した品質」を全体として保つことができます。
現場目線で見ると、従来のバラ組立方式だと歩留まりも悪く、異物混入や未接着など不良リスクが高かったのですが、二色成形化によりそれらが大幅に低減しています。
また一貫生産によるトレサビリティの向上も、グローバルメーカーがサプライヤーを選定する重要なポイントとなっています。
ブランド価値と商品差別化
消費者は、手触りや使い心地といった「体験価値」も製品選びの動機としています。
独自のプレミアム感やユニークな意匠を盛り込んだ滑り止めパターンは、歯ブラシメーカーにとって大きなブランド武器となります。
また偽造や模倣防止にも、複雑な二色成形パターンは有効な技術です。
二色射出成形の現場での課題と工夫
金型設計の難易度とイノベーション
二色成形では、金型の精度が仕上がりを大きく左右します。
「樹脂の流れ」を熟知した金型設計ノウハウが不可欠です。
材料の選定も同様で、主成分・副成分の物性差(硬度・流動性・収縮率)を理解し、界面で強固に結合させる調整が求められます。
昭和から続くアナログ現場では、金型部門と成形部門の分断が常態化しているケースも少なくありません。
これを打破する「設計/製造一体化」のプロジェクト推進が重要です。
筆者の現場経験では、試作段階で頻繁に課題が出るため、金型設計者と成形担当者がタッグを組み、現場テストを重ねることで「作りやすく、イメージ通りのパターン」を実現しました。
材料選定と異素材接合技術
二色成形の醍醐味は、異なる樹脂間の結合強度です。
PA(ポリアミド)+TPE(熱可塑性エラストマー)、PP(ポリプロピレン)+SEBS(スチレン系エラストマー)など、相性により「剥離・割れ」が頻発することも多いです。
現場では、メーカーや材料商社と連携し、何度もサンプルテストを繰り返します。
その際、射出温度・圧力・ゲート位置など、繊細な条件管理を地道に積み重ねる作業が効果を左右します。
ここに「現場職人の経験とカン」が生きる領域でもあります。
生産ライン・検査工程の改善
複雑な二色成形となれば、製品ごとにランナー(成形時に流す樹脂の通路)が異なり、回収や自動搬送ラインの設計も一苦労です。
工程内検査をAI化したり、カメラ検査機をいち早く導入した工場では、外観不良や混色不良を検知し、歩留まりの向上に成功しています。
また、昭和的な「最終人手検査」文化を残しつつ、自動化との並立を模索している現場も多いです。
「完全自動化」か「人間の感性重視」か、バランスの最適解を現場ごとに模索していくことがカギとなります。
バイヤーやサプライヤーが知るべき最新動向
グローバル競争と二色射出成形の位置付け
中国やアジア新興国でも、二色成形技術の普及が急速に進んでいます。
量産コスト競争が激しくなる中で、品質・デザイン・生産安定性で差別化できるサプライヤーがバイヤーから選ばれています。
また、SDGsやサステナビリティ意識の高まりで「単一素材製品」よりも分解・再循環性の良い複合樹脂設計が歓迎されています。
二色成形にも、将来的には再生原料利用や「大豆由来エラストマー」といったバイオ素材の活用が見込まれます。
バイヤー視点で評価されるポイント
バイヤーとして重視すべきは
・設計支援力(金型~量産化までの提案力)
・安定した品質・納期
・持続可能性(環境負荷低減、生分解性の提案)
・コスト競争力
です。
単なる「成形外注」から、「一貫ソリューション提供型サプライヤー」への進化が、今後の受注拡大のカギを握ります。
サプライヤーの立場では、「自社の二色成形でどのような付加価値を出せるか」を深く掘り下げ、それをバイヤーに明確に伝えていく姿勢が不可欠です。
今後の展望とまとめ
二色射出成形は、歯ブラシグリップ分野を越えて、化粧品容器、文具、家電パーツ、医療器具など、あらゆる産業分野でその裾野を広げています。
昭和のアナログ文化が色濃く残る業界でも、この合理性とデザイン性の高さから、ここ10年で導入が急増しました。
新しい発想や異分野連携を積極的に取り入れ、多能工の育成や自動化設備と現場職人の融合を図ることで、さらに国際競争力を高めていくことができるでしょう。
読者の皆様が現場目線での課題と解決策を学び、時代を切り拓くヒントとしていただければ幸いです。
製造業の発展と日本ブランドの再輝に向けて、新たな地平線に挑戦し続けましょう。
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