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歯ブラシの持ち手が割れない二色成形と射出圧制御の最適化

目次
はじめに:歯ブラシの持ち手が割れない理由を考察する
歯ブラシは私たちの日常に欠かせない衛生用品ですが、その持ち手部分には高度な製造技術が隠されています。
特に、近年主流となっている二色成形(2色成形、ツーショット成形とも呼ばれる)は、デザイン性と機能性を両立させる重要な手法です。
しかし、この二色成形を用いた歯ブラシの持ち手において、表面の美しさだけでなく「割れない」「剥がれない」「変形しない」といった信頼性を生み出すには、射出成形の圧力制御に関する深い知見と現場の実践ノウハウが不可欠です。
この記事では、昭和から令和に至るまで製造現場とともに歩んできた筆者が、二色成形技術と射出圧制御の最適化に着目しながら、歯ブラシの持ち手における“割れない”を実現するための本質的ポイントを共有します。
ぜひ、バイヤーやサプライヤー、現場エンジニアの皆さまとともに、新たなものづくりの視座を探求しましょう。
二色成形の基礎知識と業界における進化
二色成形とは何か?
二色成形とは、異なる2種類の樹脂材料を一つの成形サイクル(または2段階の成形プロセス)で一体化させる技術です。
歯ブラシの持ち手でよく見られる、硬い芯部(通常はポリプロピレンやポリスチレンなど)に、滑り止めやグリップ性を持つ柔らかいエラストマーやTPR(熱可塑性ゴム)を被せる構造が代表例です。
この技術によって、デザイナーの自由な発想を取り入れながら、安全性や使い心地も両立できるため、多くの生活品に活用が進んでいます。
昭和のアナログからデジタルへの転換
かつては、単色成形や後付け加飾が主流でしたが、1990年代後半以降、二色成形の量産性・複雑形状製作能力が評価され、旧態依然とした“設計-試作-生産”のサイクルに地殻変動が起こりました。
しかし、いまなお多くの中小工場では、機械や材料選定、射出条件の“勘と経験”に頼りがちで、標準化やデジタル制御が十分とは言えません。
このギャップこそ、現場でしか語れない改善余地=チャンスに他なりません。
持ち手が割れる・剥がれる二色成形品の典型的な課題
密着不良による剥離
歯ブラシの持ち手の二色成形では、軟質層と硬質層の“密着”が最重要品質項目です。
樹脂素材ごとの相溶性(接着しやすさ)も影響しますが、多くの場合は成形時の温度、圧力、型締めバランス、樹脂流動パターンが密着率に直結します。
射出圧が低すぎる場合、軟質樹脂が硬質母材に十分食い込まず、使用中に剥がれる原因となります。
クラック・割れの発生メカニズム
次に多いのが、経時変化やストレス集中によるクラック(割れ)の発生です。
特に、射出圧が高すぎる場合や、型温管理が不十分な場合に、残留応力が製品内に蓄積しやすくなります。
この隠れた内部応力が、荷重や温度変化をきっかけに数週間〜数カ月後に表面割れや層間はがれとして顕在化します。
寸法安定性の低下と見た目のバラつき
また、二色成形品は射出圧・樹脂冷却条件により寸法変動・歪み・バリ発生も大きく変わります。
これらは外観不良だけでなく、箱詰め・搬送時の“初期割れ”発生率にも直結するため、現場では特に注視されるポイントです。
“割れない持ち手”を叶える射出圧制御の最適化手法
理想的な射出圧とは何か?
射出成形における「射出圧」とは、射出機から金型に溶融樹脂を注入する際の圧力を指します。
二色成形では、1stショット(芯部)と2ndショット(カバー部)で最適な圧力・速度を制御しなければ、層間密着不良や収縮ムラが生じやすくなります。
過剰な圧力は残留応力を生み、脆化や割れにつながる一方、不足すると流動不足・未充填・密着不良が生じやすいです。
“ちょうどいい”圧力設定―これこそが長年の現場ノウハウの粋です。
現場エンジニア視点の圧力最適化ステップ
まず、マニュアルや参考値だけでは得られない精度が求められます。
筆者自身の経験から、以下のアプローチがカギを握ります。
- 材料物性・ランク選定:成形温度幅、流動特性、相溶性データを事前に入手
- 金型温度・型締力のマトリクス実験:狙い品質による微調整を繰り返す
- 成形機の圧力プロファイル制御:段階的な圧力設定(多段階射出制御)の積極活用
- 成形品の密着率・残留応力の“目利き”評価:割れ試験・剥離テストのロット管理
これらの実践的PDCA(事実→仮説→検証)サイクルを回すことこそ、“勘と経験”を“再現可能な標準”に昇華できる現場の知見となります。
IoT・センシング活用による次世代圧力管理
労働人口の減少・ベテラン技術者の引退が進む現代、センサーやIoT機器によるリアルタイム圧力監視・自動補正技術が普及し始めています。
先進工場では「金型内圧センサー」を導入し、射出圧・保持圧・冷却パターンの可視化→全数記録→異常自動検知という仕組みで、割れ・剥離率を1/10〜1/100まで低減できた事例も増えています。
今や、“昭和の勘”と“デジタル制御”の融合こそ、現代ものづくりの勝ち筋です。
バイヤー・サプライヤーが知るべき価値提案と品質管理の本質
“割れない二色成形品”は提案価値が高い
歯ブラシの持ち手の割れや剥がれは、消費者満足度・ブランドイメージ毀損につながるクリティカルな不良です。
単なる仕様通りの製品供給ではなく、「なぜ割れないのか」「どのような管理をしているのか」を技術的根拠とともに伝えられるサプライヤーは、今後ますますバイヤーからの信頼を勝ち取れます。
品質監査・来場立ち会い時の要チェックポイント
昨今、バイヤー側の品質監査は厳しさを増しており、現場対応力もサプライヤー選定基準の一つとなっています。
成形現場では、次のようなポイントを説明できると評価で差がつきます。
- 射出圧・温度・時間の管理基準が明文化されているか
- 密着不良・クラック発生時のフィードバック体制
- 製品追跡性(トレーサビリティ)、材料ロット一元管理システムの有無
- 金型メンテナンス・清掃履歴のデータ提出
“現場をさらけ出す”勇気と、“伝わる技術説明力”は、昭和から令和へと求められる新たな競争力となっています。
今後の二色成形と射出成形技術の進化トレンド
材料進化による成形ウィンドウ拡大
最近は、バイオプラスチックやリサイクル樹脂の流用が加速する一方、成形安定性への懸念も高まっています。
射出圧制御の最適化は、持続可能性を意識した材料イノベーションとも密接に関係します。
今後は、AIを活用した自律最適化成形や、マルチマテリアル(3色成形、異種材混合成形)の実用化が主流となるでしょう。
“現場力”と“デジタル”の共存で新たな地平線を切り拓く
最後に、筆者が強調したいのは「現場の肌感覚」と「最先端デジタル技術」は決して対立するものではなく、互いに補完し合う発展途上の関係にあるということです。
実際にラインを歩き、不良に触れて、顕微鏡で観察し、トライ&エラーで得た知見をICTやIoTの力で標準化・効率化し、現場の“暗黙知”を組織の“形式知”に転換する挑戦こそ、日本の製造業が今後世界で戦う最大の武器となります。
まとめ:割れない二色成形の真価は現場最適化と標準化にあり
歯ブラシの持ち手が割れない二色成形を実現するためには、単なるマシンパラメータの調整だけでなく、現場で蓄積されるノウハウと、射出圧制御を中心とした科学的管理の合わせ技が不可欠です。
バイヤーやサプライヤーの皆さまが注目すべきなのは、継続的なPDCAサイクル、トレーサビリティ強化、そして“見えない品質”をいかに価値として提案・説明できるかという点です。
これからの日本のものづくりは、昭和の伝統と令和のイノベーション、その両輪で前進していくべきだと、現場で闘い続けてきた筆者は強く信じています。
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