投稿日:2025年12月19日

コストダウン目的で失敗する典型ケース

コストダウン目的で失敗する典型ケース

はじめに:製造現場に根付く“コストダウンの呪縛”とは

製造業において、「コストダウン」は永遠のテーマとも言えます。上層部から、あるいは資材部や調達部門から、「今年のコストを●%下げろ」という指示を受けることは、どの工場でも日常茶飯事です。

しかし、やみくもなコストダウンは、結果として品質トラブルや納期遅延を招き、最終的には損失につながることが珍しくありません。

本記事では、現場目線でプロのバイヤーや工場長が陥りがちな“コストダウンの落とし穴”を実践事例とともに深掘りし、本当に現場が幸福になる「コストの正しい考え方」について考えていきます。

失敗するコストダウンの典型パターン

1. 価格交渉だけに頼る単純なコストダウン

調達担当者やバイヤーが最も手を出しやすい方法は、「仕入先へ値下げ交渉」です。確かに短期的には、相見積を取って「一番安いところから買う」ことでコストを下げられます。

ですが、これを続けると、サプライヤー側は「利益が出ない」「仕事にならない」と不満がたまり、品質低下や納期遅れなどさまざまな問題が表面化します。

特に日本の製造業は依然として人間関係や信頼関係が重視されるアナログな業界です。一方的な値下げ交渉は、目先のコストは下がっても、中長期的にはリスクを抱え込む代表的な失敗パターンです。

2. 安易な海外調達の落とし穴

「サプライヤーを海外に切り替えれば安くなる」は、多くの現場で耳にするセリフです。確かに単価は下がるかもしれません。しかし、そこには「為替変動リスク」「納期遅延」「コミュニケーション不全による品質問題」など、数多くの隠れたリスクがあります。

また、海外メーカーとのやり取りは、現場の誰かが犠牲的にフォローしなければ成立しません。結果として、国内のエンジニアや品質管理部門の工数が膨れ上がり、「見えないコスト」が増加します。

実際に、海外輸送の遅れによるライン停止、文化や商習慣の違いによる意思疎通ミスなど、安い仕入れが高くつく事例は枚挙に暇がありません。

3. 非現実的な原価低減目標の押し付け

「利益率が上がらないから原価を10%下げてくれ」「ベンチマークのA社より部品調達コストを5%下げろ」

こうした上位部門からの無理難題も、製造現場では“あるある”です。

現場の実態や歩留まり、工数の内訳などを無視した数値目標は、現場にプレッシャーと疲弊感を与えるだけです。実際、改善効果が得られないどころか、“帳尻合わせ”に走り、後々品質クレームや客先からの信頼損失につながる場合もあります。

コストダウンが失敗する根本原因

1. “見積もり価格”と“本当のコスト”の区別ができない

比較的簡単に取得できる見積もり価格ですが、「なぜこの構成なのか」「なぜこの工法なのか」といった中身には誰も目を向けません。現場に根付く“前例踏襲”の悪癖も一因です。

製品や部品の本当のコスト構造を分解し、「どの工程で何にお金がかかっているか」を可視化することが、実は最初のステップです。

この段階を飛ばして“安いもの探し”だけに終始すると、最終的に損をするのは発注者側です。

2. サプライヤーの事情を理解していない

値引き交渉やコストダウン要請に対し、サプライヤーはどんな思いで対応しているでしょうか。

必要以上の値引きは、サプライヤーが「人材確保ができない」「設備投資がままならない」「品質保証に充分な体制がとれない」という状況を引き起こします。

目先のコストを削ることで、パートナーであるサプライヤーが“弱体化”すれば、やがて自社の事業継続に跳ね返ってきます。

3. 業務プロセス改革より「現場の犠牲」に頼る文化

コストダウンを叫びつつ、実際に現場で実施されているのは「残業時間の削減」「人数のカット」「検査回数の軽減」だけ――。いわば“人件費頼み”の削減です。

これは根本的な業務改善には繋がらず、従業員のモチベーション低下や、工場内のヒューマンエラー増発にも直結します。

最近の業界動向とアナログ現場の苦悩

日本の多くの製造現場は、いまだに紙伝票やFAX、現場管理者の「勘と経験」を重視する昭和の姿が色濃く残っています。

DX化や自動化への取り組みも、一部の大手メーカーや新興企業に留まり、中小規模では現場の“アナログ仕事”が温存されたままです。

調達購買システムの電子化や、工程管理のIoT導入といった改革にも、「投資対効果が見えない」「現場がついていけない」という理由で、一歩踏み出せない会社が多いのが実態です。

このような環境では、どうしても「手っ取り早いコストダウン=値引き依頼」に走りがちですが、本質的な改善にならないどころか、“業界全体の体力”が削がれてしまう恐れがあります。

サプライヤー目線から読み解く「バイヤーのホンネ」

一方でサプライヤーから見れば、バイヤーの動向やコストダウン要請の“背景”を理解しておくことは、自社の防衛策を講じる上でも不可欠です。

価格交渉緩和の提案、防衛ラインの明確化、共同開発によるWin-Winの提案など、「単に値下げを飲むだけでない」対抗策を持つことも、サプライヤー生き残りの知恵と言えるでしょう。

失敗しないコストダウンのために実践すべきアプローチ

1. 原価分解とVE・VA活動の共同推進

「なぜ今のコストがかかっているのか」を、現場と調達、設計・開発がワンチームで洗い出しましょう。

ムリ・ムダ・ムラの発見や、工程省略・部品標準化が見えれば、“元から断つ”コストダウンが可能になります。

例えば、サプライヤーに部品原価のロジックをヒアリングしたり、設計者と現場作業者が一緒に製品検証を行うことで、両方の視点を活かしたVE(Value Engineering:価値工学)やVA(Value Analysis:価値分析)を進めることができます。

2. 新しい調達手法の導入と”共存共栄”の考え方

調達購買の世界でも、近年はIT技術を使ったサプライチェーンマネジメントや電子取引の活用が進みつつあります。アナログのままでは、サプライヤー間の正確な情報共有や迅速な意思決定が妨げられます。

「開発段階からのパートナーシップ構築」「性能保証型の発注契約」「複数社共同開発」などの新手法を検討することで、極端な値下げ要求による関係悪化から脱却できます。

3. “チーム現場力”の再評価と組織横断の連携

コストダウン活動は、調達だけがやるものではありません。

保全・生産技術・品質・物流など、工場全体が関係するものです。よくある事例ですが、設計部門は高機能な部品を求め、生産現場は加工コストの上昇に困惑し、調達は値下げターゲットだけを見て動く…。これでは一貫したコスト最適化は実現しません。

部門の壁を超えて、“現場でコストを語り合う文化づくり”が必要です。

まとめ:正しいコストダウンは「現場の幸せ」につながる

コストダウンは本来、効率化・無駄削減・価値最大化によって「会社も現場もサプライヤーもみんなが幸せになる」ことを目指すべき営みです。

安易な値下げ交渉や“帳尻合わせ”の圧力だけでは、業界全体が沈んでいくリスクもはらんでいます。

昭和的なアナログ現場がまだ根強く残る今だからこそ、クロスファンクショナルなアプローチ、業務プロセス改革、新しいパートナーシップの形に目を向け、未来に向けた持続可能なコストダウン活動を構築することが必要です。

少しでも現場の視点からコストの本質を掘り下げ、明日からの業務改善に役立てていただければ幸いです。

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