投稿日:2025年8月14日

防火規格UL94/V-0対応:樹脂選定と肉厚設計の勘所

はじめに:製造業現場での防火規格UL94/V-0の重要性

製造業の現場では、製品の安全性は企業価値を守るうえで最優先のテーマです。
中でも電気・電子部品を取り扱うメーカーやバイヤーにとって、防火性能が求められる場面は非常に多く、UL94/V-0規格はもはや基本要件となっています。

「UL94/V-0対応」と聞くと、単純に適合する樹脂を選定するだけの作業に思う方も多いかもしれません。
しかし、現場の実務では“樹脂選定”だけでなく、“肉厚設計”や“部品設計との関係”にまで配慮しなければ、思わぬ品質問題やコスト増を招くことも珍しくありません。

この記事では、長年の現場経験と最新の動向を踏まえ、UL94/V-0対応に向けた本質的なポイント、典型的な失敗事例、アナログな現場とのすり合わせノウハウまでを徹底解説します。

UL94/V-0とは?現場目線で読み解く規格の基本

UL(Underwriters Laboratories)は、北米を中心に世界中で通用する代表的な安全規格を制定しています。
特にUL94は、プラスチック材料の燃焼性に関する規格であり、V-0、V-1、V-2などの難燃性等級が定められています。

V-0は燃焼試験で最も厳しい評価のひとつです。

具体的には、下記のような基準をクリアした材料のみがV-0認定を受けます。

・試験体に10秒間炎をあて、取り除いても10秒以内に消える
・2度の炎照射を行い、その都度個々に10秒以内に消炎
・溶融滴下による可燃性綿への着火がない

現場では、「製品のどこにUL94/V-0等級が必要なのか?」「実際に部品のどの部分で評価されるのか?」を正しく理解しておくことが最重要です。
設計段階でポイントを外すと、量産直前で“不適合が発覚”し、手戻りが発生するケースも実に多いです。

樹脂選定:UL94/V-0適合は「型番確認」では不十分

UL94/V-0と明記された樹脂グレードは世の中に多数あります。
しかし、現場でよく起こる誤解は「パンフレットや仕様書に“V-0”を見つけて安心してしまう」ことです。

スペック表記の“カラクリ”とは?

多くの樹脂材料は、特定の試験条件下(例えば1.5mm厚み)でV-0認定を申請・取得しています。
しかし、実際に設計が想定する部品の肉厚が1.0mmである場合、その材料のV-0性能は担保されません。

パンフレットのスペック欄では「UL94/V-0」と書かれていても、必ず
・認定されている厚み
・色や成形条件
に着目する必要があります。

原則として、「使用想定の肉厚、色(添加剤含む)、成形条件でV-0等級がUl認証されているか・Yellow Cardで確認する」ことを習慣化しましょう。

入れ替え・代替品選定の落とし穴

材料コスト削減やサプライヤーの切り替え時、「似たようなスペックだから」と安易に他グレードを使うケースも見かけます。
特にアジアの新興メーカー材など、ロットや輸入条件によって性能が大きくブレる場合もあります。

現場では“コスパ重視×リスク低減”の両立が大きなテーマですが、最低でも以下の点を押さえましょう。

1. 樹脂メーカー提供のULカードとサンプル実成形品での再燃焼試験を実施
2. ロット間バラツキを考慮し、2~3ロットでの再現テスト
3. 色替え・添加剤変更時は即ち再認証が必要

この3点は、“規格適合”と“実製品の安全”をズレなく調達・設計・品質保証部門で共有することが鉄則です。

肉厚設計:V-0を確保する「最適な壁の厚さ」とコストの攻防

難燃グレードの樹脂を使えば、「どんな厚さでもV-0が取れる」と思われがちですが、これは現場で非常に多い誤算です。

UL94/V-0は「最小厚み規定」が肝

UL94試験は、1.5mm、1.0mm、0.75mmなど、特定の厚みサンプルでしか評価されず、
「使用する肉厚>認定厚み」ならV-0ですが、「使用する肉厚<認定厚み」なら、V-0保証はされません。

設計時には、「意図した肉厚がUL94の裏付けを得ているか」を必ず確認しましょう。

例えば:
・1.0mm厚で100×100mmサイズのカバーを設計→仕様書では1.5mmでV-0
→0.5mm薄い分、燃焼伝播スピードは大きく増す

この場合、1.0mmでも認定のある樹脂への変更や、設計肉厚自体を見直す必要があります。

ただ厚くすれば良いわけではなく「現場のノウハウ」も重要

単純に肉厚を上げると
・部品重量増=コスト増
・サイクルタイム増、成形ムラ、ヒケ問題
・他の部品・組立との干渉
といった課題が複合的に出てきます。

古い図面や途中設計変更で意図せず肉薄になったり、一部リブや部分肉厚が不足して規格外れになるケースもよくあります。

ポイントは
・重要部位に“部分補強”や“局所肉厚増加”で最小追加コストにする
・設計段階で“成形時のヒケ”や“残留応力”を意識した肉厚バランスを取る
ことです。

現場としては、「設計、材料、成形、品質」部門が連携し、現実的かつ安全サイドに倒した仕様決めが不可欠です。

UL94/V-0規格の取得プロセスと現場の課題

V-0取得には、「材質認定」と「成形品認定」の2つの側面があります。

材質認定(Yellow Card)と成形品認定の違い

一般的にULカードに記載された厚み・色・添加剤であれば“材料として”V-0を取得しています。

しかし製品として出荷するには、「設計図面どおりの肉厚・色・形状」で成形した現物を用い、
追加で“成形品認定”を取得するケースも多いです(特に海外輸出や法規制対応時)。

現場では、
・新しい材料、または肉厚設計変更時は再認定が必須
・バイヤーの仕様変更や色調バリエーション拡大でも再認定の必要性
が生じることを意識してください。

このプロセスを軽視すると、納期遅延や輸出時のトラブルの元となります。

「UL再認定コスト」とコストマネジメント

成形品認定やカラーV-0認証は、1アイテム数十万円~数百万円かかる場合もあります。

量産前のイニシャルコスト管理が現場バイヤーにとっても一大テーマです。
特に設計変更のリードタイムや試験期間が2~3ヶ月必要になる場合が多く、安易な変更要求やコストダウン案の“手戻りリスク”も非常に大きいです。

「安く、早く、安全に」を実現するには、サプライヤーとバイヤーが初期から手を組んだ共創的アプローチこそが不可欠となります。

現場でよくあるNG例と改善ノウハウ

長年の現場経験で見てきた典型NG例と、それを防ぐための具体策を解説します。

NG例1:設計と材料エンジニアの“情報断絶”

「設計段階でV-0が必要なことを失念」「新素材・新色採用時の確認漏れ」から思わぬ事故や追加コストが発生します。
解決法としては、
・開発初期段階でのマテリアルレビュー会議
・樹脂サプライヤーのエンジニアによる早期参画
が非常に有効です。

NG例2:図面通りに作れない現場=肉薄・ヒケ

いざ成形現場になると、流動性やヒケ対策で部分的に設計と異なる肉薄部が出来上がってしまい、V-0未満厚となるトラブルが頻出します。

対応策として
・最小肉厚を現場意見も加味して設計段階で明確化
・CAE流動解析などで事前にリスク洗い出し
・量産品サンプルで抜き取り燃焼試験
までセットで行うフローを標準化しましょう。

NG例3:デジタル化の波に取り残される現場オペレーション

昭和から続くアナログな製造現場では、人依存の“暗黙知”と“やり方の属人化”が根強く残ります。

これを脱却するには
・UL94対応のマニュアル・チェックリストの徹底
・デジタル管理(設計―生産―品質の情報連携)
・社内勉強会やサプライヤー教育
など“仕組み”として根付かせることが近道です。

サプライヤー視点:バイヤーの本音と要望を理解する

サプライヤー側としても、バイヤーが求めている「安全」「コスト」「納期」「柔軟な設計対応」の全てをバランス良く応えることがパートナーシップ強化につながります。

・設計者からの突発的な肉厚変更や新色要望にどう対応するのか
・リードタイムの短縮や試験コスト低減の提案ができるか
・UL再認定や試験手順を事前に明確に説明して、リスクマネジメントを行う

この“見える化”がサプライヤー価値向上の最大ポイントです。

まとめ:防火規格UL94/V-0対応の本質は「現場主導×全体最適」

UL94/V-0対応は、単なる材料スペック選定や設計数値合わせだけではありません。
現場で求められる安全と品質、バイヤーのコスト意識、サプライヤーの技術・工程力、これら全てを糸で結び、最適値を探り続けることが本質です。

これまでの昭和的な「なんとかなる」「現場の勘に頼る」やり方を脱し、
・初期設計での全体最適化
・組織横断・仕組み化された工程管理
・エビデンス重視の材料・工程選定
・関係者一体となった現実的な課題解決
へと進化させる必要があります。

本記事が、製造業やバイヤー、サプライヤーの皆様が、より実践的なUL94/V-0対応と安全なモノづくりへ踏み出す一助となれば幸いです。

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