投稿日:2025年8月14日

電池製品の必須試験UN38.3と輸送規制を量産前に潰すチェック

電池製品の必須試験UN38.3と輸送規制を量産前に潰すチェック

はじめに:電池製品の増加と試験・規制の重要性

近年、リチウムイオン電池をはじめとする高性能な電池製品は、スマートフォン、EV(電気自動車)、産業機器、医療機器など幅広い分野で不可欠な存在となっています。

便利さの裏側には、火災リスクや発火事故など安全性の懸念が常に伴い、各国が厳しい輸送規制を設けている現状があります。
特に国際物流を伴う場合、致命的なトラブルの源となるのが「UN38.3試験」と呼ばれる国連の規制です。

これを知らずに量産・出荷を進め、直前で想定外の出荷停止に陥るケースも珍しくありません。
本記事では、電池製品開発・提供に携わる製造業の現場目線で、UN38.3試験の具体的内容と輸送規制、それを“量産前に潰す”ための実践的なチェックポイントを深掘りし、産業界の現実と今後を見据えた対策を提案します。

UN38.3試験とは?―規制の全体像を理解する

UN38.3試験は国連勧告の第38.3項に基づいて定められており、正式には「国連勧告 輸送に関する危険物規則(UN Manual of Tests and Criteria)」を意味します。

この試験の目的は、リチウムイオン電池やリチウム金属電池が輸送中の落下、衝撃、温度変化等のストレスで発火・漏液・爆発などを引き起こさないことを保証することです。

各国の航空会社、海運会社、宅配業者がUN38.3認証無しのバッテリー製品を受け付けず、グローバルビジネスに不可欠な“輸送のパスポート”だと理解してください。

UN38.3の具体的試験内容

UN38.3試験は以下の8つの試験で構成されています。

1. 高度シミュレーション(T1)
2. 熱衝撃(T2)
3. 振動(T3)
4. 衝撃(T4)
5. 外部短絡(T5)
6. 衝撃/クラッシュ(T6)
7. 過充電(T7)
8. 強制放電(T8)

この中で最もリスクが高いのは5~8の電気的・機械的ストレス試験であり、“万一の発火・膨張”が目視できるレベルで現れます。
量産立上げ直前でこれらに不適合となると、全台再設計→認証→納期遅延という悪夢のループに陥ります。

輸送に特化した各国の規制動向

実はUN38.3だけでは輸送できないこともあります。
国際航空運送協会(IATA)、国際海上危険物規則(IMDG)、米国DOT、日本の航空法など、各国・各業界で細かな追加規制があります。

たとえば、
・容量(Wh値)、電池数、機器への組込状態で「危険物認定」される閾値が異なる
・航空便では個別梱包・完全絶縁・漏れ対策の証明書が必要
・海運の場合、パレット積載方式やラベル、申告が厳格に要求される
これらはバイヤーや物流担当が事前に確認を怠ると、出荷直前で追加検査費用・通関トラブルに泣きます。

現場が直面する“昭和”の落とし穴

日本の多くの製造現場、特に中小企業では、「外注の電池なら大丈夫」「仕様書で充足していると思い込む」など、技術と規制のキャッチアップが遅れがちな傾向があります。

電子部品メーカーや最終製品組立側が、“UN38.3は電池メーカーの問題”と誤解しやすいのですが、最終的に証明書やMSDS(安全データシート)の申請責任は自社に及びます。
また、量産直前に「試作サンプルは通っていたが、仕様変更した最新品で改めてUN38.3に申請し直す必要がある」など、変更管理の不徹底も多発しています。

これらのアナログな油断や属人的な勘所が、「規制未対応→出荷差止め→信用喪失」という最悪の結果を招いてしまいます。

量産前に“潰す”べきプロセスチェック(実践編)

UN38.3および関連規制で足元を掬われないための現場発・事前潰し込みチェックを紹介します。

1.設計段階で規制値・追加要件を把握
・バッテリー容量(Wh)、セル数、構造、強制安全部材(PTCヒューズ等)が規格条件内か確認
・コネクター/ハーネス設計などで、ショート・過充電防止機構を明文化

2.仕入・購買時点で証明書確認
・電池サプライヤーからUN38.3適合証明書(Test Summary)、MSDS、UL等の第三者認証書類を取得・管理
・証明書の日付やサンプルロットが現行品と一致しているか詳細チェック

3.製造変更・量産化タイミングで再申請確認
・セルメーカー/組立工場が変更になるたび、UN38.3証明書の再取得が必要か判定
・海外輸出(特に航空便・速達)予定がある場合は、最新IATA規則に基づいた梱包仕様の再点検

4.物流会社・通関業者との打合せ
・事前に物流会社、通関業者と梱包、ラベル、ドキュメント含め輸送条件をすり合わせ
・現地(欧州・米国等)の特有規制を把握し、FOB地点・最終納入先までの連絡体制を構築

5.現物サンプルによる事前検証
・試作段階で自社でもUN38.3同等試験をリハーサル実施し、物性・異常時挙動を体感
・NG発生時は、購買・設計・品質が横断的に解析・設計対策を行う文化付け

バイヤー目線、サプライヤー目線からのポイント

バイヤー(調達・購買)としては、UN38.3を「納入要件の必須」と位置づけ、認証書類未提出のサプライヤーは一次受付不可にする厳格姿勢が必要です。
加えて、現物照合やランダムでの抜き打ち検証など、“書類だけ整えた隠れNG”を実地で潰します。

一方サプライヤー側としては、
・セルメーカー、組立業者と定期的に規格の変化をアップデートし
・新規案件ごとに「ラベル・梱包・輸送先」も定常的に仕様レビュー
・技術営業やカスタマーサポートが認証書類のトレーサビリティ、再申請要否を即答できる
このような体制が“選ばれるサプライヤー”の条件となってきます。

今後の動向:サステナビリティと規制強化の関係

誤解されがちですが、UN38.3や輸送規制は「面倒だから緩和されることはない」どころか、環境対応・リサイクル強化への流れの中で今後ますます厳格さを増します。

EV用の大型電池やポータブル電源などは、その回収・リサイクル・廃棄への新ルール(EUバッテリー規則)が制定され始め、輸送のみならず製品設計・材料管理までトータルで準拠を求められます。

まとめ:規制をチャンスに変える“現場力”へ

UN38.3試験と輸送規制への対応は、「つい後回しにされやすい」「黒子扱いされがち」な購買・品質・物流の部門ですが、実はグローバル競争力の根幹に直結します。

現場では“昭和的な思い込み”を排し、規格と現実をリンクさせた実地・実装・実証の運用文化を育てることが最善の防波堤となります。

手間やコストとして敬遠せず、「認証・規制クリア」を新規ビジネス獲得や海外展開のブースターと捉え直す――これが製造業における現代の正攻法なのです。

製造現場、バイヤー志望者、サプライヤーの皆さまが本記事の知見を活かし、今後の業界標準を牽引する一助とされることを願っています。

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