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調達品の標準時間が不明で適正価格が判断できない課題

目次
はじめに ― 永遠の課題「適正価格」の不安
製造業のバイヤーや調達担当者、あるいはサプライヤーの皆さんにとって、「調達品の標準時間が不明で適正価格が判断できない」という悩みは実によくある課題です。
図面と仕様書を前に、「この部品、今見積もってもらった金額は高いのか、安いのか……?」と迷いながら発注した経験は、誰しも一度や二度では済まないはずです。
昭和の時代から続く「前例踏襲」「慣例価格」「ナントカ勘定」など、曖昧な価格決定プロセスは今なお業界に根強く存在しています。
一方で、グローバル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進によって、調達品のコストベースや業務の見える化がますます求められています。
本記事では、バイヤーの視点はもちろん、サプライヤーや現場実務者の実態を深堀りしつつ、調達品の標準時間を定めて適正価格を判断するために何ができるのか、昭和的現場のリアルも交えながら実践的に考えていきます。
そもそも「標準時間」とはなにか
標準時間の定義と役割
標準時間とは、ある作業(例えば旋盤加工、溶接、組立てなど)を標準的な技能を持った作業者が、標準的な設備や環境で無理・無駄なく行った場合の所要時間のことを指します。
製造現場では「工程能力」「歩留まり」「設備稼働率」なども考慮されますが、調達や原価計算では、まさにこの「標準時間」が根拠となります。
つまり、標準時間が明確になれば、
・製造原価の積み上げ算出(人件費換算)
・見積時の妥当性判断
・工程管理・生産計画などの効率化
がスムーズになります。
標準時間の算出方法とは
標準時間を算出するには、「時間研究」「作業分析」などの技法が使われます。
例えばストップウォッチで繰り返し作業の実測値をとる、あるいはIE(Industrial Engineering)的手法で「動作経済の原則」を考慮し無駄を洗い出す、といった作業です。
また、熟練工によるヒアリングや、類似製品・過去実績値の活用、CAD/CAMデータをもとに機械加工の時間を逆算するという方法もあります。
しかし現実には、昭和から続く現場では「ベテラン社員の経験と勘」が支配する場面も少なくありません。
なぜ標準時間が不明なままなのか ― 業界特有の背景
アナログ慣習の根深さと、その歴史的事情
日本の製造現場は長きにわたり、職人技や現場感覚を重視してきました。
同じ図面でも現場によって加工方法や段取りが微妙に違う、標準時間の算出に時間も手間もかかる、そもそも標準作業が確立しにくい品目(多品種小ロット)が多い、といった理由で「とりあえず過去の実績値を参考に……」あるいは「サプライヤーの見積もりを信じるしかない」となりがちです。
見積積算ベースの属人化とブラックボックス化
特定の熟練見積もり担当者のノウハウに依存し、「この人がいないと価格が分からない」「過去の金額になんとなく○%上乗せするだけ」という場面もよく見かけます。
これでは新規参入業者との商談や、グローバル調達時の比較ができず、国際競争力の観点からもリスクとなります。
適正価格を見極めるために ― 現場経験からのプロセス提案
手順1:図面/仕様書から標準工数を抽出する
まず、調達品の図面や仕様書から、構成部品や加工・組立てステップを可能な限り詳細に分解します。
ここで重要なのは、「切断」「穴あけ」「曲げ」「溶接」などの加工内容を明確にし、それぞれに標準的な時間を割り振ることです。
自社に標準時間データベースがあれば活用します。
なければ同業他社が公開する値や、商工会議所・業界団体からリリースされている標準値、公的な作業標準(ISO、JISなど)を参考にしましょう。
また、現場責任者やサプライヤーの工程担当と直接コミュニケーションを取り、「この加工、実際どのくらいの工数かかっていますか?」と具体的数字で確認するのも有効です。
手順2:バイヤーとサプライヤーの意識ギャップを埋める
バイヤー(調達担当)は、「なぜこの価格になるのか根拠を示せ」とプレッシャーをかけがち。
一方サプライヤーの現場では、「こんな細かく標準時間を求められても、うちは設備も工程も違うし……」という反発や苦労が絶えません。
ここで大事なのは、「標準時間は目安」であり、実態に合わせて補正(例:熟練工と新人のギャップ、多品種小ロット特有の段取り替え工数の増加など)すればよい、という柔軟な姿勢です。
「なぜこの工程がこれだけ時間がかかるのか?」と、現場の声を聴き、合意形成するコミュニケーションが極めて大切です。
手順3:デジタル技術やツールを活用する
最近では、工程設計ソフトや標準工数シミュレーターといったツールがかなり充実してきています。
例えば、3D CADデータと連携して自動的に工程工数を算出したり、過去見積もり実績との比較ができるプラットフォームなどが、中小企業向けにも展開されています。
また、IoTセンサーで工作機械の稼働ログを自動収集し、リアルな「標準時間」をビッグデータ解析する先進工場も増えてきました。
デジタル化が難しい現場では、せめてエクセル等で工程ごとの実績時間を積み上げ、見える化を進めましょう。
手順4:標準時間を見積根拠に取り込む
バイヤーサイドは調達先の見積内容に説明責任を求める際、「標準時間×工程単価」といった積み上げ根拠を数字で示すよう依頼しましょう。
サプライヤーにとっても、「これだけの工程が、これだけの時間かかります」という主張材料になります。
両者が納得できる「標準工数」に基づく価格体系が確立すれば、「適正価格が分からない」という属人的な悩みは減り、安易なコストダウン要請や買いたたきも抑制されます。
昭和的価値観をリスペクトしつつ、変革を進めるコツ
現場の声・ノウハウを“見える化”する勇気を持つ
昭和の技術は決して悪いものではありません。
いまだ現役の職人技は、生産効率や歩留まりで機械を凌駕することもあります。
しかし、その知見が個人の頭の中に留まり、全体最適やBPR(業務改革)が進まないのは事実です。
ノウハウの棚卸・共有化は「個人技だった技能を会社資産に転換」する最大のチャンスです。
あえて「標準時間」「作業単位」で書き起こしてみることで、“ベテラン頼み”から脱するきっかけになります。
“数字の見える化・合意形成”こそが未来への分水嶺
「うちの現場ではこうやっている」「こうしないとうまくいかない」という声も、数字や工数で開示し合うことで、お互いに理解が進みます。
たとえば日本の自動車業界が「サプライヤーとの現場での詰め合せ・現物現場主義」で競争力を高めたのは周知の事実です。
アナログな現場力を大切にしつつ、「データを使った透明な商談」と「合意形成」を積み重ねることが、変革の第一歩となるのです。
サプライヤーの立場からバイヤーの本音を読み解く
サプライヤーにとって、「標準時間」を明確に開示することは、単なるバイヤーの要求対応にとどまりません。
むしろ、「自社の付加価値」「特殊技術」「他社との違い」を論理的・数値的に説明する材料となり、適正な価格交渉が可能になります。
また、「安さ」で勝負しすぎて赤字受注するリスクも減り、持続可能な関係が築けます。
サプライヤー側こそが積極的に自社工程の標準化・工数管理に取り組むことで、「値引き一辺倒」の交渉から転換できるチャンスとなります。
まとめ ― 課題の克服は未来の業界力アップにつながる
調達品の標準時間が不明という課題は、製造業の現場に深く根付いた永遠のテーマです。
ですが、業界として「標準時間を積極的に見える化しよう」「データと現場の知恵を融合しよう」という意識を持ち続けることが、長い目で見れば“脱アナログ業界”や“グローバル競争力”を生む大きな原動力となります。
バイヤーもサプライヤーも、意識ギャップや歴史的経緯をしっかり認め合い、デジタルもアナログも融合した新しい調達スタイルをともに創っていきましょう。
その積み重ねが、これからの製造業に新しい地平線をもたらすと確信しています。
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