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原材料価格の高騰を価格に転嫁できず収益が圧迫される現実

目次
はじめに:現場で直面する「価格転嫁できない現実」
製造業に携わる方なら、一度は「原材料価格の高騰」に頭を悩ませた経験があるはずです。
特に調達・購買や生産管理、そして経営層に至るまで、この問題は「自分ごと」として深く現場に根を張っています。
市場で高騰する鋼材や樹脂、電子部品など、仕入れ値は上がる一方なのに、最終製品の販売価格へ反映する「価格転嫁」が思うようにできない。
この構造的なジレンマが、製造現場の収益力を大きく圧迫しています。
本記事では、製造業の現場目線で「なぜ価格転嫁が進まないのか」「どのような業界構造が背景にあるのか」、そして「アナログな業界だからこそ考えたい打開策」について深堀りします。
また、バイヤーを目指す方やサプライヤーにとっても有益な、現場で役立つ知見を多角的にお届けします。
なぜ原材料価格の上昇が止まらないのか
グローバルな需給バランスの変化
原材料価格の高騰は、直近ではコロナ禍以降の物流混乱や、海外の需要増大、ウクライナ情勢、新興国の経済成長による需要拡大などが背景にあります。
特に、鉄鋼やアルミ、電子部品などは、グローバル市場での供給バランスによって価格が大きく変動します。
過去には円高が交流を緩和するクッションの役割を果たしていましたが、近年は円安が追い打ちをかけ、国内企業の調達コストは右肩上がりです。
このように、外部環境の変化が調達コストに直結している状況です。
サプライチェーンの複雑化
グローバル分散生産や多層のサプライチェーン化により、「部品のどれか一つが値上がりするだけで、全体のコストに波及する」構造になっています。
下流の下請け企業ほど、市場の変化に自社だけで対応しきれず、コスト負担が集中する傾向があります。
業界慣行としての「価格据え置き文化」
元請け・下請け構造と価格交渉の現実
日本の製造業では、かつての高度成長期から根付く「元請け・下請け構造」がいまだに強く残っています。
多くの業界で、元請けカスタマーはサプライヤーに対して一方的なコストダウン要請をしますが、コストアップ要因はなかなか認められない傾向です。
実際、「今季は原材料が値上がりしていますので、製品価格も○%上乗せさせてください」と正直に申し出ても、「他社は据え置きだよ」「選定見直すよ」と、交渉テーブルにすら乗れない案件も多々あります。
長年続くアナログな商習慣と”我慢”のコスト吸収
古くからの直接取引、手形取引、口頭での約束、親会社・子会社など、昭和のスタイルを引きずったアナログな商習慣が障壁となっています。
サプライヤーが値上げを申し出ても「今回は社内で吸収して」「競合も苦労してる」といった”我慢”が求められます。
この「一度決めた価格を動かせない」文化が、迅速な価格転嫁を阻んでいます。
そのしわ寄せは、サプライヤーの利益率悪化・従業員の賃金抑制といった形で現場に覆いかぶさってきます。
現場を圧迫する「価格転嫁できない」収益構造
利益率の低下と事業継続リスク
原材料コストが10%上昇する一方で、製品単価はほぼ据え置き…。
結果として粗利率が下がり、利益確保が困難になります。
特に中小の部品メーカーや下請け企業は、もともと薄利体質なため、わずかな仕入れコストアップが命取りとなります。
最悪の場合、赤字に転落し、経営存続や雇用維持にさえ影響します。
このリスクは、現場の従業員にも重くのしかかっており、「毎年コストアップなのに昇給どころか賞与も減りがち」といった実情が多くの工場で見受けられるのです。
コストダウン「だけ」が正義ではない
コスト削減努力は、製造業の競争力の源泉であり、業界全体で長年続けてきた文化です。
しかし、原材料価格が世界的に高騰し続ける現代、単に原価低減だけに頼る経営は早晩限界を迎えます。
「価格転嫁できない」ことが、長期的にはサプライチェーン全体の競争力を損なう事態にも繋がるのです。
昭和体質からの脱却へ:価格転嫁を巡る「新たな動き」
国や業界団体の価格転嫁是正への取り組み
近年、原材料の高騰に対応するため、政府や業界団体も価格転嫁を促進する動きを活発化しています。
例えば公正取引委員会が「適正な価格転嫁ガイドライン」を策定し、親事業者による不当な取引慣行を是正しようとしています。
同時に、各地の商工会議所などもセミナー開催や事例集の作成など、現場への情報発信を強化しています。
大手OEMや大量発注先側の意識変化
消費者に対して値上げ告知をしたり、サプライヤーへの妥当なコスト転嫁を認める動きも徐々に出始めました。
実際、トヨタ自動車や日清食品など一部大手メーカーでは、下請けが申し出た値上げ要請に一定の理解を示し、応じる傾向が強まりつつあります。
「サプライチェーン全体の持続可能性・安定供給のためにも、誠実な価格協議を」という認識が、少しずつ広がっています。
現場目線から見る「有効な価格転嫁交渉術」
1. 根拠を明確にしたコスト・収益の見える化
「原材料が高いから値上げしてほしい」だけでは、交渉は机上の空論で終わります。
重要なのは、「どの材料がどれだけ上昇し、製品コストにどれだけ影響があり、自社収益がどう圧迫されているか」をロジカルに提示することです。
例えば「過去6ヶ月で鋼材が30%高騰し、弊社製品ではこの部品に○円のコスト増として直結します」と、外部データも活用しながら説明しましょう。
さらに、「現状維持では従業員の雇用や品質維持も困難」「事業継続や安定供給のために、ぜひ御社もご理解を」と説得力を持たせることが大切です。
2. 改善/効率化の努力もアピールする
「これまでもコストダウンや工程改善で吸収に努力してきたが、もはや社内努力だけでは乗り切れない現状」を明確に伝えること。
バイヤー側も納得する「やることはやった上での値上げ要請」であれば、価格転嫁のための交渉材料となります。
3. 他社動向・標準価格も積極活用
同業界での標準的な取引価格や、他社も同様の値上げを実施している事例なども、資料で示しましょう。
「うちだけが値上げをお願いしているのではなく、業界全体の流れです」と補強材料を提供することで、説得力が高まります。
4. 緻密なデータで小刻みに交渉する
一気に大幅な値上げ要請ではなく、定期的かつ小刻みにコスト変動を反映する姿勢も重要です。
「半年ごとの材料価格変動に応じて協議する」「一次報告書・見積書の透明化」など、現場レベルでの継続的な対話が信頼構築に繋がります。
サプライヤーとバイヤー、双方の理解・共存が不可欠
バイヤー(買い手)目線の本音:ただの「高いからNG」ではない
バイヤー側は「なぜ簡単に価格転嫁を認められないのか?」。
それは「自社の競争力や最終需要家への説明責任」が大きな要因です。
一方で、「信頼できるサプライヤーには、継続的な取引を通じて持続可能な関係を築きたい」という思いも持っています。
サプライヤーの苦しさ・正当性をしっかり数字と根拠で説明できれば、バイヤーは「一緒に解決策を探すパートナー」として歩み寄る余地が生まれます。
ラテラルシンキング的・これからの最善策を考える
1. 取引先との共創によるWin-Winモデル
「コスト上昇分は分かち合い、納入条件やサプライチェーン全体の効率化など、協働で改善」を前提にしたパートナーシップモデルの再構築が不可欠です。
昭和の「上下」ではなく、「横の連携」による共創へ——これが生き残りのカギとなっています。
2. 協業による値上げ説明の“標準化”
業界団体・組合などが中心になり、「標準値上げフォーマット」や「説明会」を定期開催することで、“雪崩的なパニック値上げ”ではなく、お互い納得できる水準調整が可能になります。
3. 現場の知恵でコストを超える付加価値創出
「省エネ技術の共同開発」「納期短縮・ロス低減」「脱炭素素材調達」など、単純な製造原価アップを競争力に転換できるアイディアが、現場から生まれる余地があります。
“価格ありき”でなく、「現場力×付加価値の創出」がこれからの製造業を強くします。
まとめ:製造業の未来を切り開くには
原材料価格高騰と「価格転嫁できない現実」は、今まさに現場・経営の双方を苦しめています。
ですが、昭和的な「我慢・据え置き文化」だけでは、持続的な成長はむずかしい時代です。
自社努力と共に、取引先との建設的な対話・業界横断的な連携を通し、“現場から新たな標準を創る”ことが、VUCA時代を生き抜く唯一の道です。
次代を切り開くのは、現場の知恵と協働の精神です。
読者の皆さんのアクションが、未来の製造業界の活路をひらくと心から信じています。
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