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物流と品質保証の責任境界が曖昧で揉める背景

目次
物流と品質保証の責任境界が曖昧で揉める背景
製造業現場で日常的に発生する“責任の押し付け合い”
製造業の現場では、毎日のように物流担当と品質保証担当の間で責任の境界を巡る“水掛け論”が繰り返されています。
製品が品質基準を満たしているのか、はたまた物流過程に問題があったのか。
トラブルが発生した際に「それはうちの責任ではない」「いや、そちらで対応してほしい」といった押し付け合いが起きやすい背景には、組織構造や業務プロセスの曖昧さ、そして昭和時代から続く“根回し文化”があります。
ここでは、長年現場で見てきた実体験を基に、なぜこのような揉め事が絶えないのか、その本質と業界の課題を深堀りします。
また、バイヤー目線やサプライヤー目線も交え、時代の流れに乗り遅れがちなアナログ業界特有の問題点にも言及します。
物流と品質保証の責任境界が曖昧になる理由
責任範囲のドキュメント化の不徹底
多くの日本企業では、業務マニュアルや手順書の整備がされているようで、実際には細部まで詰め切れていません。
特に「物流」と「品質保証」の接点においては、どこまでが物流の責任で、どこからが品質保証の責任か、その境界が明文化されていない場合が非常に多いです。
たとえば、
– 製品完成後に倉庫へ移送するまでの間で生じる破損・汚損
– 外観検査後に出荷準備をするまでの微妙な時間帯でのトラブル
など、何気ない業務の継ぎ目で“誰が責任を持つのか”が曖昧なため、不具合が発生した際の責任の所在もはっきりさせられません。
“現場は個人技”という昭和的風土
日本の製造現場は長らく「現場の責任感」「職人気質」で成立してきました。
「みんなで助け合う」「問題があればその都度、現場で話し合う」といった柔軟な対応が、“組織的な責任分掌”を曖昧にしてきました。
これが時代が変わり、組織や工程が複雑化する中で“人任せ”の責任所在が通用せず、トラブル時の責任の押し付け合いへとつながっています。
購買・調達プロセスの多重構造とサプライチェーンの複雑化
昭和期には、メーカーとサプライヤーが“一本釣り”的な関係でつながっていました。
しかし、バイヤー主導のグローバル購買や、取引先系列化の進行で、物流と品質保証の責任境界が複数の企業、部門にまたがるようになりました。
昨今では物流会社もサプライチェーンに組み込まれ、“受け渡しポイント”ごとに新たな曖昧さや抜け穴が生じています。
たとえば「FCA(Free Carrier)」や「DDP(Delivered Duty Paid)」などインコタームズのとり決めも形骸化しがちで、担当者レベルで詳細を理解できていないケースも散見されます。
よくある責任境界での揉めポイント
輸送中の損傷はどちらの責任か
一番典型的なのが、製品出荷後に発生する“輸送中の破損”です。
工場の品質保証部門としては、出荷前に検査・合格している以上「発送以降は物流の責任」と主張します。
一方、物流担当は「積み込み時に既に問題があったのでは?」と逆に品質保証サイドへボールを投げがちです。
このグレーゾーンがはっきりしないまま、現場間で感情的なもめ事に発展しやすい構造になっています。
納品後クレーム対応の棚押し合戦
顧客からのクレームや返品対応でも同様です。
「梱包の仕方が悪かったから壊れた」
「運送中にラベルが剥がれたのは倉庫作業の影響だ」
「出荷基準を満たしていれば、その後は物流責任」
など、細かな現場事情を盾に、互いが自部門の責任回避に終始しやすく、小さな問題が再発・拡大する原因にもなります。
業界慣行の“暗黙の了解”が足を引っぱる
長年続いた企業間・部署間の“暗黙の了解”も問題です。
「うちは昔からこうしている」という口約束や電話一本で済ませてきた風土が、現代の多様化・グローバル化したサプライチェーンにそぐわなくなっています。
特に多拠点間・国際間取引では、こうした交渉が一切通用せず、小さな勘違いが大きなトラブルの種となります。
なぜ、責任境界をはっきりさせられないのか
根本的な原因は“積み重なったアナログ体質”
責任範囲の明確化が進まない最大の理由は、業界全体に根強く残るアナログ思考です。
– テキストではなく「口頭連絡」「FAX」の多用
– 不具合情報が“紙の帳票”で場当たり的に流れていく
– トレーサビリティの電子化やシステム連携が遅れている
– ドラフト作成のたびに“根回し”文化が顔を出し、決定が先送りになる
こうした事情から、責任範囲の可視化・ルール化が形だけになってしまっているのが実態です。
“責任を明確にする”こと自体に消極的
製造業では「責任をはっきりさせる=誰かが処分を受ける・立場が悪くなる」という意識がつきまといます。
そのため、多くの現場では“とりあえず組織を守る”のが優先されがちで、問題の本質解決よりも“騒動を大きくしない”ことが優先されてきました。
こうした姿勢が、現場での再発や隠れたリスクの温床となり、責任範囲の曖昧化を助長しています。
デジタル化・自動化が進んでも“人的運用依存”が残る
近年ではERPやSCMシステムの導入が進みつつあるものの、実際には運用現場が個人技や“現場ベテランのノウハウ”に頼った運用がそのまま残っています。
システム導入以前に組織や業務プロセスに大きな変化がなく、システムの方がアナログ現場に引きずられてしまっているのが実情です。
このため、いくらシステム化しても根本的な責任の明確化には至らず、現場ごと、担当者ごとに責任範囲がブレてしまうのです。
バイヤー・サプライヤー目線で見る“もめごとの本質”
バイヤーは“リスク回避”と“コスト低減”の板挟み
バイヤーとしては調達コストを下げながらも納期・品質リスクは極力サプライヤーもしくは物流会社に転嫁したいと考えます。
しかし、その思惑が働きすぎると「責任境界をできるだけサプライヤー・物流側に寄せる」交渉になりがちです。
サプライヤーからすれば「うちは品質を保証するが、物流までは見きれない」というスタンスになり、“責任の壁”が高くなります。
この相互不信が明確な責任分担やオープンな協働体制の構築を妨げ、トラブル発生時の“水掛け論”につながっています。
サプライヤーは“防衛本能”と“取引維持”に縛られる
サプライヤー側の立場でも「なるべく責任を自分たちに引き寄せたくない」「バイヤーの厳しい要求に対応できないと取引が継続できない…」というプレッシャーがあります。
結果として、不具合が発覚しても“自社に不利にならないような説明文書”を用意するなど、防衛的なコミュニケーションが多くなります。
そして、お互いに真因追及・改善提案よりも“保身と責任の押し付け合い”に流れてしまい、根本改善が進まないどころか、信頼関係も傷ついていくのです。
“責任境界の曖昧さ”を超えていくために
プロセスの明文化と“現場目線”の合意形成
まず必要なのは、自社だけではなく関係サプライチェーン全体で「どこからどこまでが誰の責任なのか」を可能な限り細かくドキュメント化することです。
– 作業手順書やリスク管理表を“現場担当者の運用レベル”で作り直す
– 一方的な棚押し合いにならないよう、多部署合同でワークショップを設け、認識のすり合わせを定期的に実施する
– ERPやWMSシステムの運用においても、実際の現場フローとのギャップを都度見直し、システム側の責任分担を明確にロール設計する
このように、机上のルール作りにとどまらない「運用レベルの明確化」と「全員参加型の合意形成」が不可欠です。
“責任追及”より“共通目標”へのシフト
責任境界の明確化の本質は、“誰が悪いかをはっきりさせる”ためだけではありません。
真の目的は“サプライチェーン全体で不良・遅延を減らし、信頼できるモノづくり体制を築くこと”です。
各社各部門が“自分たちの責任範囲内で最善を尽くす”とともに、“グレーゾーンは皆で助け合う”という共創の思想が不可欠です。
これは、日本の製造現場に古くから根付く“職人気質”や“現場力”を、形式を改めて“現代版”として生かすことでもあります。
デジタルツールとアナログ現場の真の融合
最後に、誰かに押し付ける・逃げるのではなく、デジタルとアナログの双方を活用して「現実をきちんと記録・見える化する」ことが今後の解決策となります。
– トレーサビリティシステムによるリアルタイムな履歴管理
– 不具合発生時のインシデントレポートをクラウドで共有
– 昭和的な“顔の見える現場付き合い”も並行しながら、業務の可視化・再現性を高める
デジタル化・自動化は目的ではなく、現場が摩擦を起こさず連携していく“橋渡し役”です。
まとめ:業界全体で“曖昧”に立ち向かう知恵と実行を
物流と品質保証の責任境界の曖昧さゆえの揉め事は、単なる“担当者同士の不仲”や“組織間の壁”だけが原因ではありません。
長年にわたり積み上げてきたアナログ体質、そして責任明確化を避けてきた業界慣行が、現代にそぐわなくなっているからです。
真に求められるのは、「誰が悪い」を決めることではなく、「どうすれば全体がよく回るか」を皆で考え続ける知恵と、合意形成に向けた実行力です。
製造業に求められるのは、テクノロジーだけでなく“人”の意識と行動変革です。
曖昧だった責任境界線を“明るい協働の線”へと引き直し、これからの日本の製造現場が世界のベンチマークとなる日を目指していきましょう。
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