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投稿日:2026年2月2日

産業医サービスの活用範囲が曖昧な製造業

産業医サービスの活用範囲が曖昧な製造業

近年、働き方改革や労働環境の改善が叫ばれる中で、産業医という存在への注目が高まっています。

一方で、特に製造業界では産業医サービスの活用範囲が曖昧で、おざなりになっている現場も少なくありません。

この記事では、現場経験20年を超える筆者が、製造業現場での産業医サービスの課題と活用のヒント、そして今後期待される役割を実践的に解説します。

産業医とは?製造現場におけるその使命

産業医は、事業場における労働者の健康管理と安全衛生の向上を目的に、医学的な知見から指導・助言を行う医師です。

50人以上の労働者がいる事業場では選任義務があるため、多くの製造業では産業医が在籍しています。

しかし従来の製造業では「毎月一回来て書類に印鑑を押すだけ」のような、いわゆる“名義貸し”的な関わりに留まることも多々ありました。

現場の第一線で働く従業員は高齢化・多様化が進み、精神疾患や長時間労働のリスクも増えています。

生産効率、安全品質、そして従業員満足度の三つの軸を両立するため、産業医サービスの活用意義は今後ますます高まるといえるでしょう。

昭和から続く「形だけ」産業医制度の実態

昭和の高度成長期以来、「安全第一」の標語は数多くの工場で掲げられてきました。

しかし実態は「安全管理部門が産業医と形式的に会合し、帳票を整える」ことに終始しているケースも少なくありません。

その理由は、健康管理や安全対策よりも生産効率、「納期厳守」の現場最優先思考に根強く起因しています。

また、産業医を「健康診断のチェックと面接指導をする人」としか認識していない工場長や管理職も多数います。

このような昭和型の運用では、本来産業医が果たせるはずの「現場進化のパートナー」という役割が生かされていません。

曖昧なままになりやすい産業医サービスの活用範囲

製造業において産業医サービスの活用範囲が曖昧になりやすい主な要因には、以下の3点が挙げられます。

1.境界線のあいまいな健康課題

現場からの相談内容は「けが」「熱中症」といった分かりやすい案件だけではありません。

最近増えているのはメンタルヘルスや職場の人間関係、シフト勤務による慢性的な睡眠不足など、観察や定量的な評価が難しい課題です。

これらは担当ラインのリーダーや総務部、そして産業医のいずれが主担当か曖昧なまま、結局「誰も本腰を入れない」まま時間だけが過ぎていくケースも目立ちます。

2.現場目線と専門家目線のギャップ

産業医が専門知識から「残業を減らすべき」「定期的な休憩が必要」といった助言をしても、現場は「今日も台数不足で納期がやばい」と全く違う緊急課題を抱えています。

この「健康<生産優先」というプレッシャーが、産業医サービスを形骸化させてしまう大きな要因となっています。

産業医の言葉が現場リーダーや従業員の心に響かず、「建前」になりやすいのです。

3.産業医の物理的関与時間の少なさ

契約産業医は月1回1時間の来訪、もしくは月1回のオンライン会議程度の契約が多く、日常の細やかな指導や突発的な相談対応には物理的に対応が困難です。

しかも多くの産業医は複数の事業場を兼務しているため「その場でリアルタイムな助言」が受けられません。

緊急時の対応も曖昧になりがちです。

なぜ活用しきれないのか?現場目線で考察

私自身が製造業の管理職を経験してきた立場から、産業医サービスの定着・活用を妨げる要因を現場視点で深堀りします。

問題1:現場の「どうせ意見しても…」という諦め

現場リーダーや作業者の中には「健康相談してもどうせ”生活習慣を直せ”と言われるだけ」という不信感があります。

いわば医者と患者の典型的な“壁”の再現です。

また、面談や相談の内容が管理職や人事部に筒抜けになることへの抵抗感も、プライバシーの観点から根強く存在します。

問題2:「生産あるのみ」重視の風土

今日やりきるべき台数や品質目標への重圧が強い工場では、「ちょっと休む」「安全確認」よりも「生産維持」が重視されます。

この風土が“ムダ”と“安全コスト”の区別を曖昧にし、結果的に産業医サービスの活用が後回しとなっています。

問題3:経営・上層部のコミットメント不足

コンプライアンスの観点で「産業医がいる」という体裁だけ整い、現場の創意工夫や健康経営の一環として産業医サービスを位置付ける意識が不足しています。

そのため、産業医が指摘や助言をしても「またお決まりパターンか…」で済まされやすく、確かなアクションにつながらないのが実情です。

製造業が「産業医サービス」を真に活かすための現場実践例

では、どのように産業医サービスの活用範囲を明確化し、現場で根付かせていくべきなのでしょうか。

過去の現場経験から、成功した実践例を交えて紹介します。

事例1:産業医を「現場改善」のパートナーとする

ある自動車部品工場では、産業医を定例の安全衛生委員会だけでなく、現場Gemba(現場)巡回や「ヒヤリハット事例」の共有ミーティングにも積極的に招きました。

産業医は医学的な知見から作業姿勢の指導や、設備配置検討にも参画します。

これにより、従来は現場と無関係だった産業医が「現場の改善パートナー」として信頼を勝ち取り、相談件数や具体的な改善提案が目に見えて増加しました。

事例2:メンタルヘルス巡回の定期化

ある電子部品メーカーでは、メンタルヘルス不調者が相次ぎ、ライン全体の生産性が落ち込んだ経験があります。

そこで、日勤リーダー・総務担当者・産業医による定期的な「職場のストレスチェックラウンド」を開始。

産業医が職場ごとに健康・心理的リスクを可視化し、個人面談と併せて現場改善アドバイスも設計しました。

数か月後には欠勤率が大幅に減少し、結果的に生産歩留まりや人材定着率の向上にもつながりました。

今求められる「バイヤー」としての視点

調達バイヤーや購買部門の皆さんには、ぜひ「自社工場の産業医制度が真に機能しているか?」の視点を持ってほしいと思います。

産業医を「健康診断と法令対応だけ」のコストとみなすのではなく、自社のサプライヤー現場でも同様の課題が起きていないか、委託先の産業医制度にも関心を向けることが大切です。

サプライヤーの皆さんは「バイヤーは現場の健康リスクまで見ている」と認識し、協働改善に取り組むことで、長期的なパートナーシップにつながります。

調達購買の世界でも「SDGs」や「ESG経営」の要請が高まる中、健康経営における産業医サービス活用はバリューチェーン全体の競争力強化につながります。

産業医サービスの未来:「人的資本経営」の核となる存在へ

人口減少・人材難・高齢化が進む中、従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大化することは製造業にとって最重要テーマです。

これからは単に「事故防止」「健康診断」以上に、産業医が「現場体質改革」「従業員ウェルビーイング実現」の中核を担うべきです。

現場第一線のリアルな課題や、昭和型のアナログな習慣を理解した上で、産業医サービスの活用範囲を明確化し、「現場・経営・バイヤー・サプライヤー」が連動して健康管理体制を構築する。

これが、次代の製造業の競争力と持続的成長のカギとなることでしょう。

まとめ

産業医サービスが曖昧なままで運用されている製造業は依然として多いのが実情です。

しかし現場の視点、管理職や経営層の意識、そして調達バイヤーの目線が丁寧に結びつけば、産業医サービスは単なるリスク対策から競争力強化の“資産”になります。

アナログ業界からの脱却を目指し、産業医サービスの活用範囲を現場に即して再設計しませんか。

今日の一歩が明日の現場の元気と成長を生み出すはずです。

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