投稿日:2025年12月11日

新製品コンセプトが曖昧で方向性が定まらないまま時間だけが経過

はじめに ― 製造業現場でこそ起こる「新製品開発の迷宮」

新製品の企画と開発は、ものづくり現場においてもっとも重要な業務のひとつです。

しかし経験上、「新製品コンセプトが曖昧なまま、方向性も定まらず時間だけが過ぎていく」という状況は、多くの現場で繰り返し見られます。

現代の日本製造業は依然として昭和の名残を残したアナログな体質が根強く、トップダウンの号令で開発が始まる一方、現場レベルでは戸惑いと混乱ばかりというケースが後を絶ちません。

本記事では、コンセプト不明瞭がもたらす課題や、その原因、昭和アナログ業界ならではの背景、そこから抜け出すための実践的アプローチまで、20年超の現場経験をもとに解説します。

製造業のバイヤーや現場責任者、サプライヤーとしてバイヤーの思考を知りたい方にもお役立ていただけます。

新製品コンセプトが曖昧になる理由 ― 業界の根深いあるある

1. トップダウン型組織におけるビジョン不在

多くの日本の古い製造業は、かつての高度成長期のクセを色濃く残しています。

トップが「何か新しいものを作れ」と号令をかけ、現場が右往左往する光景が今も珍しくありません。

この場合、「新しい」という表現自体が曖昧であり、それぞれの受け止め方で方向性がバラバラに動きがちです。

現場では、「とりあえず企画書を作ってみろ」との指示が下るものの、本質的なターゲットや市場ニーズ、コスト感まで明確にされたことはほぼありません。

2. 昭和型“忖度文化”と本音が言いづらい環境

会議では「コンセプトが弱いのでは?」と思っても、決裁者の顔色を伺い、本音が言えないことも、よくあります。

「そんなこと言っても無駄だ」との諦めムードが強い組織では、誰かが率直に疑問を呈し改善につなげるという機運すら醸成されません。

まさに、昭和的空気感が曖昧なままの状態を温存します。

3. 調達・購買目線での入口問題

現場の調達や購買担当者も、新製品の方向性が不明瞭な場合、どんな原材料や部材を探していいか迷うことが多いです。

結果として、「早く仕様固めろ」「選定が遅い」と責められてしまい、プロジェクト全体の進行に悪影響を及ぼします。

バイヤーも「どのサプライヤーに声をかければ良いか判断できない」と困惑するのが現実です。

曖昧コンセプトが生み出す悪循環

1. 時間ばかり浪費し、プロジェクト停滞

典型的な問題は、あちこちで何度も会議を繰り返し、調整に追われ、具体的なアウトプットが何も出てこないことです。

「まずは調査」「ベンチマーク」「行政の補助金に応募」など、手順だけが増え、方向性は依然ぼやけたまま。

結果、気がつけばプロジェクト開始から半年、1年と時間だけが過ぎていることも珍しくありません。

2. コスト・品質・納期すべてが崩れる

コンセプト不明瞭なままサプライヤーに見積依頼をしても、まともに回答が返ってくるはずがありません。

思い当たるバイヤーやサプライヤーも多いでしょう。

仕様変更が頻発し、コスト、品質、納期三位一体でブレが生じ、最悪の場合、「そもそも何を作りたかったのか分からない」状態で終わることもあります。

3. 非効率文化の温存と人材モチベーション低下

こうした曖昧なプロジェクトが増えれば増えるほど、「製造業=非効率」のイメージが現場に定着してしまいます。

熱心な若手や積極的なバイヤーも、「どうせまた無駄足…」と新しい挑戦に消極的になってしまいます。

昭和アナログからの脱却 ― 実践的アプローチ

1. 「なぜ?」を5回繰り返す―現場流ラテラルシンキング

新製品の方向性に迷いが生じたら、ラテラルシンキング(横断思考)でまずは“なぜその製品が必要か”を掘り下げて議論することが大切です。

表面的なターゲットや流行を追うのではなく、
1. なぜ今、この製品を出したいのか?
2. なぜ既存製品で足りないのか?
3. なぜ想定するエンドユーザーがそれを選ぶのか?
4. なぜ今の価格や仕様にこだわるのか?
5. なぜ今やるべきなのか?

と、「なぜ?」を最低5回問い直して、事業部・現場・購買とサプライヤーが率直に対話をすることです。

これが、曖昧さの壁を突破する原動力になります。

2. 小さく試して走りながら調整

従来のように「100点出すまで動かない」のではなく、まずは50点でもいいので仮説ベースでアウトプットを出し、小さな商談やテストマーケティングを実施するのが現代的なアプローチです。

バイヤーがサプライヤーを巻き込み、部材やプロセスのアイデアを募りながら、スピード感重視で開発を進めることが重要です。

こうした“走りながら考える”姿勢こそ、アナログ産業から抜け出す要です。

3. サプライヤーとの相互理解の深化

曖昧コンセプトの裏には、サプライヤーとの関係性の希薄さもあります。

現場バイヤーは「自分たちだけで抱え込まず」、“こんなモヤモヤしている案件ですが、一緒に整理し意見を聞かせてほしい”とサプライヤーに相談しましょう。

サプライヤー側も「具体的な用途」「最重視ポイント」を丁寧にヒアリングし、仕様固めに貢献する姿勢が評価される局面が増えてきています。

業界動向と時代の変化 ― デジタル化と多様性の波

1. デジタルツールの積極活用

かつては紙とFAXが主流だった見積・仕様管理も、現在はDXが進展し、プロジェクト進行管理ツールや要件定義書のテンプレートなどが充実しました。

コンセプトワーク自体も、オンラインでの共同編集やマインドマップ・カンバンボードなどを活用できるチャンスです。

昭和的曖昧さから抜け出すには、デジタルへの積極投資が不可欠といえます。

2. 多様性ある人材の参加促進

技術者や営業、設計者だけでなく、マーケティングや現場の若手、女性、シニア、場合によっては外部パートナーなど、いろんな視点を組み込めるチームづくりが必要です。

これまでの“男社会”や“長年の慣習”に縛られない多様性が、新しい発想や顧客志向コンセプトのヒントになります。

まとめ ― 本質を見抜き価値をつくる開発へ

新製品コンセプトが曖昧なまま、“何となく開発プロジェクト”が始まり、なかなか出口に辿り着かない現場は、いまだ多いのが現実です。

ですが、なぜそれをやるのか、どこに一番価値があるのか、その本質を徹底的に考え抜くと同時に、走りながら巻き込む実践力が求められます。

バイヤーもサプライヤーも、ただ依頼される・応じるのではなく、共創するアプローチへ。

昭和型の非効率に埋没せず、デジタルツールや多様性を積極的に取り入れながら、「何を」「なぜ」作るかを現場レベルで再定義できれば、必ずや新しいものづくりの地平が開かれるはずです。

「なんとなく」で終わらせない、新時代の開発現場をぜひ一緒に築き上げていきましょう。

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