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投稿日:2026年2月18日

セキュリティソリューションを巡る責任所在が不明確になる構造

セキュリティソリューションを巡る責任所在が不明確になる構造

はじめに〜製造業で高まるセキュリティへの関心

製造業の現場では、デジタル化や自動化の波が急速に押し寄せています。

工場の制御システムやサプライチェーンの管理、生産設備のIoT化など、ITとOT(Operational Technology)の融合が進み、その恩恵は非常に大きいものとなっています。

一方で、サイバーセキュリティの脅威が増大し、これまで「物理的な安全対策さえしておけば安心」という昭和的な発想からの転換が求められるようになりました。

サイバー攻撃によるライン停止や情報流出は、一度起きれば事業継続に大きな打撃となります。

ですが、現場を知れば知るほど、セキュリティにおける「誰がどこまで責任を負うのか」が不明確なまま議論や導入が進んでいるケースが目立っています。

この曖昧さは、アナログな体質が根強く残る製造業の業界構造とも深く絡んでいます。

そこで今回は、製造業におけるセキュリティソリューションの現実、なぜ責任の所在が曖昧になるのか、その構造的課題について、現場目線から深堀りしていきます。

セキュリティ責任の所在が曖昧になる3つの主要原因

1. サービス・ソリューションの多層構造

現在のセキュリティ対策は、自社でソフトやハードをゼロから開発している企業はごく少数です。

多くはITベンダー、セキュリティサービス会社やSIer(システムインテグレーター)が提案・導入支援します。

実際の製品やサービスは、海外メーカーのサブスクリプション型ソフト、クラウドや独立したハード機器が混在し、いくつものサプライヤーや外部パートナーが絡み合っています。

例えば、外部のセキュリティ監視サービス(SOC)、ファイアウォールはA社、エンドポイント保護はB社、メールフィルタはC社、運用主体はD社など、ベンダーが分かれているケースが一般的です。

この多層化により、どこで何が起きた場合に、誰が責任を持つのかが非常に分かりにくくなっているのです。

2. 運用責任の丸投げ・属人化の問題

現場工場のスタッフ、情報システム部門、アウトソーシング先のベンダー。

日常のセキュリティ運用や監視は、複数部門や社外委託先に分担されることが普通です。

「異常な通信を検知」「ウイルスが発見された」とき、その一次対応はIT部門や外部SOCが行う。

しかし次の判断(稼働中止の是非や被害拡大防止)は現場の生産管理部門や工場長の決裁となる。

この“たらい回し”の構造が、いざという時の責任の所在をさらにあいまいにします。

また、属人的な対応が積み重なり、組織としての対応基準や責任体制が標準化・明文化されていないというアナログ体質も、製造業では根強いのです。

3. 業界横断の共通認識・法規制の遅れ

製造業には自動車・電機・機械などさまざまな業態があり、サプライチェーンや部材の共通性はあっても、情報セキュリティ管理に関する統一基準や強制力のある規制はまだ発展途上です。

特に中小サプライヤーを多く抱える大手企業や、グローバルに展開する現場では「本社ITのセキュリティ方針」「各工場のローカルルール」「サプライヤー契約」がバラバラになりがちです。

これが、「どこまで誰がやれば十分なのか」が見えにくくなる要因になっています。

現場で発生するセキュリティ事故の“グレーゾーン”

例えば、こんなケースを考えてみましょう。

ある部品メーカーの工場で、OT機器(生産用ネットワークに接続された制御装置)がマルウェア感染しました。

感染経路は、海外から派遣されたメンテナンス作業員のノートPCが持ち込んだUSBメモリ。

感染は社内IT部門が設置したネットワーク監視装置で初めて検知されました。

このとき、

– メンテナンス作業員が持ち込んだ端末(外部業者の機器)
– USBメモリによる感染経路(物理的な制御)
– ネットワークセグメントの設定(IT管理)
– 初動対応の手順整備(現場の管理責任)
– その後のサービス停止の損害(生産管理)

それぞれに実務担当者や契約が異なり、誰がどこまでのリスクを認識し、カバーしておくべきだったのか。

これが非常にグレーになってしまう。

実際、事故発生後、「現場の作業員の不注意」「IT部門の監視体制が不十分だった」「外部業者の管理が甘かった」と、後になってから責任の押し付け合いが起こりがちです。

セキュリティ契約・SLAの設計に潜むわな

多くの製造業は、ITセキュリティのアウトソーシングやSaaS型サービスを導入する際、導入コストやシステム機能面ばかりを重視しがちです。

しかしサイバー攻撃や事故発生時のSLA(サービスレベルアグリーメント:「どこまでベンダーが責任を持つか」の契約範囲)は非常に曖昧です。

典型的な落とし穴は以下の点です。

– 「システム障害時の復旧」はサービス事業者だが、「被害拡大の損害」「事業停止の損失補償」は対象外、とされる
– 「特定のウイルス検出」はソフトウェアベンダーの定義から外れている(未知のマルウェアは対象外)
– 「人的ミスや物理的な端末持ち込み」は管理不能とされ、現場や発注元の管理責任にされる

こうして、現実に事故が発生した際、「どこまでがサプライヤーの責任で、どこからが自社のリスクか」が、正しくすり合わせられていないことが多いのです。

サプライヤーとしてバイヤーの“本音”を読み解く

サプライヤー(サービスプロバイダーや部材提供会社)の立場からすると、“一歩引いて”バイヤー(発注元)の期待や要請を正確に読み解くことが重要です。

バイヤー側は、「自社に重大な事故が発生した際に、責任をすべてサプライヤーに転嫁したい」と考えているわけでは決してありません。

むしろ、「どこからどこまで自社でカバーすべきで、どこからベンダーの知見・リソースを借りられるか」を本質的に知りたいと思っているのです。

そして、その境界線を明確にし、互いに“言い訳”や“責任転嫁”にならない関係構築を望んでいます。

また、バイヤー側も「リスクはゼロにはできない」という現実を理解しています。

サプライヤーとしては、

– 最初の提案・契約時点で、どこまでサービス/ソリューションでカバーできるかを明文化する
– 例外ケースや不可抗力(人為ミスや不正使用)についても根拠を添えて説明する
– 事故発生時の対応フローと、バイヤー・サプライヤー双方の役割分担を事前に合意する

こうしたプロセスを愚直に積み重ねることが、「信頼されるパートナー」となるためには不可欠です。

ラテラルシンキングで考える:今必要な“責任分解点”の明確化

日本的な製造業の現場では、「事故が起きたら現場が悪い」「システムが止まったらITが悪い」という属人的な責任分担、つまり“居酒屋会議でまとまる”ような文化がまだ根強くあります。

ここにこそ、本質的な問題があります。

ラテラルシンキング的に考えれば、「ヒト・モノ・カネ・情報」が交わる“接点”で責任があいまいになりやすいのです。

従来は「各自が自分の分の仕事だけやればOK」だった境界が、ITとOT、現場と管理、サプライヤーとバイヤーの境界が曖昧になる事で、“誰も全体像を見ていない状態”になりやすい。

これからは、

– どこからどこまでが自社管理領域か(バウンダリの明確化)
– 万が一の事故時に、誰がファーストレスポンダー(初動責任者)か
– 全体設計・対策レベルを「現実的な水準(完璧を求めない)」で合意できているか

これらの“責任の分解点”を明文化し、関係者で共有することが求められます。

まとめ:セキュリティの本質は「連携」と「透明性」

セキュリティソリューションの進化により、最新の技術や外部サービスの導入が容易になった一方で、責任の所在という“人間的”な問題が置き去りにされがちです。

業界の体質、契約慣行、現場運用、それぞれに根深く絡む課題を直視し、事故発生時の後出し“責任押し付け合い”を防いでいくには、

– 多層的な関係者・サービスが“ひとつのチーム”で機能する文化的・契約的枠組み
– 現場実態を把握したうえでの現実的なセキュリティレベル設計
– トラブルシューティング時の“透明性”とオープンなコミュニケーション

が不可欠です。

サプライヤーもバイヤーも、「責任を押し付け合う関係」から、「共に守り抜くパートナーシップ」を築く方向に、発想を転換すべき時代に来ています。

これを実現するため、まずは自分たちの足元から“責任分界点”を見つめ直してみましょう。

現場経験を生かした実践的なセキュリティ体制づくりが、成熟しないアナログ業界の中でこそ「新しい価値」となると、私は信じています。

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