投稿日:2025年12月13日

契約内容の理解不足でサプライヤーとの責任範囲が曖昧になる本音

はじめに:いま求められる「契約内容への深い理解」とは

製造業の現場、特に購買調達部門とサプライヤーとの関係では、日々あらゆる種類の「契約」が取り交わされています。
ところが、実際の現場では契約書の内容を十分に理解しないまま運用されていることが多々あります。
「契約内容への理解不足によって、責任範囲が曖昧になる」という課題は、30年前も令和の今も繰り返し起きている現象です。

では、なぜ昭和時代から変わらずこのギャップが埋まらないのでしょうか。
本記事では、サプライヤーとバイヤー(調達担当)が陥りがちな「本音と現実」を、長年の製造現場の経験に基づいて掘り下げていきます。

契約内容を「読む」ことと「理解する」ことの違い

「契約書をちゃんと読んでないの?」とよく言われますが、そもそも「読んだつもり」と「本当に理解している」の間には大きなギャップがあります。

テンプレート流用文化と「わかったつもり」

多くの工場や調達部門では、過去の契約書のテンプレートが流用されています。
確かに基本部分の多くは変わりません。
しかし、現場の実態や全体の商流、責任分界点が変わった際に、それが契約書にどう反映されているかまで意識する人は少ないです。
内容を「ついでに読む」「前もこうだったから大丈夫だろう」と、理解を置き去りにして進んでしまう。
こうしたテンプレ依存は、結局は誰の責任で何をカバーできるのか不明確なままプロジェクトが進む原因です。

製造業特有の「ノリ」と「口約束」

昭和のアナログ体質が今も色濃く残る製造業では、「現場感」「阿吽の呼吸」「俺が責任とるから」といった精神論が根強く残っています。
調達担当とサプライヤーとのあいだで交わされる“小さな口約束”が積み重なり、「契約書になくても、まあ通じるだろう」という危うい空気が生まれます。

しかし、トラブルが起きた時にこの“ノリ”は通用しません。
バイヤーとサプライヤーの信頼関係が厚くても、会社同士の問題となれば「証拠の書面」が全てです。

責任範囲が曖昧になる「ありがちシナリオ」

次に、実際の現場で頻発する「責任分界点が曖昧なまま進行したプロジェクト」をいくつか紹介します。

ケース1:品質不良の対応責任

ある精密部品をサプライヤーから購入したバイヤーA。
実装現場で不良品が発見されたものの、契約書の「検査・受入」条項が曖昧で、誰が責任を持って手直しや再発防止を行うべきか不明確でした。
結局、サプライヤーも「貴社で検査した時点で検収完了と認識しています」と主張し、バイヤー側は「注文時の仕様通りではないのでサプライヤー負担で対応してほしい」と譲りません。
こうした場合、契約に明確な「責任分界点」や「対応フロー」が記述されていれば、問題は即座に解消できます。
しかし、曖昧なままでは、現場同士の交渉だけが泥沼化し、時間も信頼も大きく失われます。

ケース2:納期遅延時の損害賠償

納期遅延が発生した場合も、その原因が天候やストライキ、資材不足など多岐にわたることがあります。
契約書に「不可抗力時の扱い」や「遅延損害賠償金」について明記がない場合、サプライヤーとバイヤーがお互い責任を転嫁し、ビジネス関係がギクシャクすることも少なくありません。

なぜ「責任範囲」は簡単に曖昧になるのか?

組織間での言葉の捉え方の違い

バイヤーにとって「納品」は発注数量が納入された時点を指し、サプライヤーの現場では「検品・検収が終わるまでが納品」と捉えられている事例もあります。
言葉が共通化されていないだけで、お互いに守ろうとしている範囲が異なる。
この“解釈のズレ”が契約責任の曖昧さに直結しています。

「業界慣習でなんとかなる」思考の功罪

機械部品や素材など古くからの商慣行が残る分野では、「○○社との取引は毎回こうだ」「たいていのトラブルは話し合いで解決できる」という文化があります。
一方、近年グローバルサプライチェーンの複雑化や、パワハラ・下請法などの法規制強化も受け、口約束や現場判断で許される余地は大幅に減ってきました。
しかし、そのギャップ認識が各社・各担当者で異なり、“新旧の文化”が現場で衝突してしまう危険も増えています。

リスク共有の意識が薄い

契約書は単なる安全のための書類ではなく、「お互いのリスクを理解し、問題が起きた場合にどのように対処するか」を決めるものです。
ですが、業務のスピードアップや短納期対応が優先されるあまり、リスクへの想像力が疎かになり、結果的に責任分界が曖昧なまま契約が動いてしまうことになります。

どうすれば「契約」×「責任範囲」を明確にできるか

現場感覚を尊重しつつ、法務の専門家と連携

経験豊富な現場担当者の知見と、法務の力を連携させることが重要です。
「こういうトラブルが今までもあった」など実体験を契約書のレビュー段階で法務担当者へ具体的にフィードバックし、理想と現実のギャップを埋める条項を追加してもらう必要があります。

「想定トラブル」チェックリストを活用する

契約締結時に「こんな時、どちらがどこまで責任を持つのか?」という観点で、予めトラブルシナリオを棚卸しすることを勧めます。
たとえば「品質不良が納品後1週間後に発覚した場合」「原材料の高騰でコストが急上昇した場合」など、想定できる限り具体的なケースで責任分担を明案化します。

サプライヤー側も積極的に「説明責任」を果たす

サプライヤーは安易に「バイヤーの要望に従う」ではなく、「当社はここまでの品質保証しかできない」「これはバイヤー側作業によるリスクです」というリスク説明・責任整理を初期段階で提案しましょう。
結果的にwin-winな関係や、長期的な信頼構築につながります。

現場で「契約管理」を強化するためのチェックポイント

  • 契約書の主要条項は現場担当にも平易な言葉で要約して周知する
  • 変更や追加注文、仕様変更時は必ず書面やメールで記録を残す
  • 責任範囲や分界点が曖昧な部分は、追加条項として付記する
  • 定期的に契約内容の棚卸し/アップデートを法務と連携して実施する
  • 現場トラブルの事例を社内に共有してナレッジ化する

まとめ:製造業における「責任明確化」の未来を考える

契約内容の理解不足がもたらす責任範囲の曖昧さは、今もこれからも製造業全体の共通課題です。
そしてその背景には、昭和から続く組織文化、言葉の解釈のズレ、慣習依存、リスク感度の鈍さといった複合的な背景があります。
だからこそ、現場と法務、バイヤーとサプライヤー、両者の目線と本音が交わる「新しい地平」を自ら切り拓いていくことが求められます。

契約内容の“現場レベル徹底理解”は、バイヤーを目指す人、サプライヤーで働く方、現場の管理職にとっても必須スキルです。
この記事が、製造現場の「これがリアル」「これが本音」の声となって、より建設的な契約マネジメントに少しでも役立てば幸いです。

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