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非常用通信を誰が運用するのか決まっていない問題

目次
はじめに:非常用通信の運用が決まっていない現場のリアル
非常用通信――。
多くの工場や製造現場で その緊急時の重要性は十分に認識されているものの、実際に「誰が・どのように使うのか」明確に運用体制が組まれていない現状が存在します。
これは、情報システム部門や総務部、防災担当、あるいは工場長や現場責任者など、組織内での役割や責任の所在が曖昧になりやすい領域であるためです。
製造業界は特に、昭和の時代から引き継がれてきたアナログな業務体制や「前任者がやっていたから自分も」という習慣が根強く残っているのが現実です。
本記事では、非常用通信の運用体制が確立されていないことで発生するリスクや、製造業界特有の課題、そして現場目線でどのように改善していくべきかを、現場経験者の視点から掘り下げて解説していきます。
バイヤー志望者やサプライヤーの方にも、非常時のリスク回避における重要な観点を提供します。
非常用通信の意義と現場の現状
非常用通信が必要になるシーン
近年、地震や風水害、火災、サイバー攻撃など、製造工場における突発的なリスクが多様化しています。
こうした突発事態において最も致命的となるのが「情報伝達の途絶」です。
停電や通信インフラが断たれた際、安否確認や復旧指示、安全確保のためには、衛星通信や無線機、簡易型携帯端末といった非常用通信機器が唯一の情報伝達手段となるケースも珍しくありません。
現場レベルでの「コミュニケーションロス」が、大規模な二次災害や納期遅延、品質事故につながることもあり得ます。
なぜ「運用責任者」が曖昧なのか
工場の非常用通信機器は、法人単位で導入されたり、複数拠点で共有されていたり、担当者が明確に規定されていない場合が多々あります。
その理由として
・有事が滅多に起こらないため、社内優先度が低い
・機器の保守点検やマニュアル整備が後回しになりがち
・「情報システム担当」「防災関連担当」「工場長」など複数部門にまたがり、責任の押し付け合いが発生しやすい
などが挙げられます。
また、ISOやBCP(事業継続計画)で一応規定していても、形骸化しているケースも少なくありません。
現場で直面する運用上の課題
準備・点検・訓練の「あるある」
非常用通信機器を「導入しただけ」で、いざという時に電池切れや故障、使い方が分からないままになっている――これは多くの製造現場で見られる問題です。
・そもそも通信機がどこに保管されているか知られていない
・関係者が定期的に動作確認しない
・マニュアルが紙資料で埋もれ、誰も最新版を見つけられない
・操作研修が一度きりで刷新されていない
これらは、災害発生時の混乱や初動ミスを招きかねません。
アナログ業務が根強く残る要因
昭和的なトップダウン体制の現場では、「非常時は管理職が集まって何とかする」「ベテランがいれば何とかなる」という、“なんとなくの安心感”が蔓延しているケースもあります。
実際には現代の多拠点・多国籍工場では、現場リーダーや若手作業員、協力会社スタッフまで、緊急時の適切な情報共有が求められます。
一部の熟練者のみが操作を知っている属人化や、IT部門に頼り切って「現場感覚」が希薄になると、現実的な対応力は大きく損なわれてしまいます。
このまま放置した場合のリスク
生命・安全リスクの顕在化
有事の際の通信断が、社員の避難や消火・救助活動を遅らせ、最悪の場合は命にかかわる災害・事故につながる可能性があります。
労働安全衛生法や各種コンプライアンス規程にも抵触する事態となり、企業価値を大きく毀損します。
サプライチェーン全体への影響
工場の機能停止が長引けば、納期遅延や品質問題、サプライヤーからの調達遅延など、バイヤー・サプライヤー側にも多大な悪影響を及ぼします。
特にグローバル展開するメーカーの場合、一拠点の初動ミスが瞬時に全体オペレーションに波及し、多額の損失を招くリスクも無視できません。
求められているのは、「運用責任の明確化」と「現場ベースでの仕組み化」に他なりません。
解決のヒント:現場感覚と業界動向を融合した運用体制構築
ラテラルシンキングで考える新・非常用通信運用フロー
従来は「=防災担当任せ」「=設備担当任せ」など、部署に一任しがちだった非常用通信の運用。
ですが、これからの製造業に必要なのは、部門横断的な「現場オーナーシップ」と「多重化された責任分担」です。
例えば
・現場リーダー(班長)の「自部門通信担当」を制度化
・ITや防災部門が通信機器を定期点検し、現場で月1テストを実施
・定期訓練にバイヤー・サプライヤー関係者もオンライン参加
・災害時に誰が最初に通信端末を稼働させ発信するかのプロセス明文化
といった横断的な運用体制作りが効果的です。
サプライヤー・バイヤー視点での「健全な緊急共有」
特に調達部門やバイヤーとサプライヤーとの関係が緊密な現場では、「BCPの中で双方の非常用通信体制を見える化」し、「万一の際にどこへ誰がどうコンタクトするか」までを、商談・契約の場で議論しておくことが肝要です。
災害時、部材調達や生産再開の可否を瞬時に伝達・報告し合える体制は、新しいパートナーシップの土台となり得ます。
具体的な導入・運用の進め方
フェーズごとの運用ポイント
【導入前】
・どの通信手段が自社のリスクシナリオに合うのかを現場ヒアリング
・複数通信手段(衛星電話、業務無線、IP無線など)の冗長化を検討
・サプライヤー・バイヤー間でも非常用通信契約の整備を推進
【導入後】
・担当者(現場責任者/IT/総務)を明文化し、担当交代時も引き継ぎ必須項目とする
・定期的な動作確認、トラブル時の切り分け手順を現場の言葉でマニュアル化
・責任者だけでなく、「現場の第一発見者」「夜勤者」でも即時稼働できるマニュアル整備
【非常時】
・誰が何分以内にどこへ報告するか、一次・二次報告のバックアップ体制を明確に
・現状把握・安否確認・生産再開判断までの簡易フロー図を常時掲示
・サプライチェーン全体へ迅速な情報展開をルール化
訓練・教育の工夫
・年1回の壮大な全社訓練だけでなく、持ち出し訓練・夜間訓練・新入社員研修と組み合わせ、小規模でも継続的に操作スキルを底上げ
・実際にバッテリー充電や端末初期化など、現場でよくあるミスも疑似体験してもらう
・マニュアルのデジタル化(QRコード化)、操作動画で直感的に学べる仕組み
まとめ:変化する製造業で“使える”非常通信運用を
非常用通信は、「あったら安心」ではなく「使いこなしてこそ価値がある」ツールです。
変化が激しい現代の製造業界――アナログな業務が色濃く残る現場でも、一度立ち止まって、自社の非常用通信運用が“誰の担当で・どこまでできているのか”再点検することが大切です。
そして、部署を超え、バイヤー・サプライヤーとも横断的に仕組み化を図ることで、現場力・企業力の底上げにつながります。
製造業に携わる私たち一人ひとりが「万一の時、本当に情報を伝えられるか」と繰り返し自問し、現場からのラテラルシンキングで“昭和の常識”をアップデートしていきましょう。
今一度、自社の非常用通信運用体制を点検し、新たな地平線を共に切り拓いていくことが、これからの製造業を支える最も重要な一歩となります。