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健康管理システムのデータを誰が見るのか決まらない問題

目次
はじめに:健康管理システム導入の現場が抱えるリアルな課題
工場の安全・安心を守るために、従業員の健康管理は避けて通れないテーマです。
多くの製造業では、従来の紙管理やエクセルに代わる健康管理システムの導入が進んでいます。
しかし、いざシステムを導入してみると「集めたデータを誰が、どのように見るのか」という基本的かつ根深い問題に直面している現場が少なくありません。
本記事では、健康管理システムのデータ利活用における「責任と役割のあいまいさ」の背景を掘り下げ、なぜこの問題が起こるのか、どのようにすれば現場で実効性の高い運用につなげられるのかを、長年の製造業経験にもとづいて紐解きます。
昭和から令和へ:依然として残るアナログな健康管理意識
紙の健康診断表からの脱却と「現場感覚」の乖離
かつては健康診断結果や問診票を紙で保管し、担当者が一つひとつ目を通すのが当たり前でした。
紙をシステムに変えたことで、合理化やデータ一元管理が期待されましたが、現場からは「誰がどう見るのか分からない」「データは増えたが活かされない」という声が多く挙がっています。
この問題の背景には、「紙の時代は担当者が自分の肌感・現場感覚で判断していたが、システム導入後はその主体が曖昧になった」というギャップが存在しています。
アナログ文化が強く根付く製造業では、デジタル化しても「見る主体」が明確でなければ、結局“やらされ仕事”で終わるのです。
現場vs.本社の温度差、バイヤーやサプライヤーの役割分担にも影響
現場では従業員のコンディションやリスク情報に敏感な一方、本社や管理部門では「数値データ」を重視しがちです。
また、サプライヤーとして工場に出入りする企業も、自社社員の健康をどう確認・報告するかはブラックボックスになりがちです。
バイヤー(購入側)の立場からは「サプライヤーの健康管理状況も取引評価に入れたい」というニーズが出てきますが、そこでも「誰がどこまでデータを見るか」のコンセンサスが取れていないことが、オープンな信頼関係の構築を妨げています。
健康管理システムのデータ閲覧と活用、現場でなぜ定着しないのか
「健康データは機密情報」ゆえの消極的運用
健康管理データには、機微な個人情報が多く含まれているため、プライバシー保護の観点から「最小限の人しか見てはならない」という発想に縛られがちです。
実際、システム運用マニュアルでも「人事総務担当者のみ閲覧可能」「管理職には要約結果だけ共有」とする運用ルールが主流です。
しかし、その反面、「実際に現場で困りごとが起きた時に、誰も詳しい健康データにアクセスできず手遅れになる」というジレンマも発生しています。
リスク回避を重視しすぎるあまり、肝心の“現場感ある一次対応”が失われているのです。
責任の所在があいまい:「誰が見るか」討議が先送りに
健康管理は人事・総務部門、産業医、職場の管理監督者など、関わる主体が多岐にわたります。
特に昭和流の製造業では「現場で起きたことは現場で」「データの管理は本社で」という保守的な分業が根付いており、組織横断的なデータ共有設計が難航しています。
結果として、「とりあえず担当者に丸投げ」「問題が起こった時だけ慌てて情報共有」という場当たり的な対策しか取れず、システム本来の価値が十分に発揮されません。
ラテラルシンキングで考える、健康管理データ活用の新たな地平線
“誰が見るべきか”から“どうやって健全な文化を育むか”へ
「データを見る役割は誰か?」という発想そのものが、日本の製造現場の行き詰まりを物語っている、と私は考えます。
大切なのは、「健康データの活用の目的」と「透明性・信頼性の高い仕組みづくり」の双方です。
セキュリティ面に配慮しつつも、現場リーダーが適切なタイミングで問題を未然に察知でき、一方で本社や産業医も“全体の傾向”を俯瞰する、といった「二階層・三階層の役割分担」が理想的です。
また、サプライヤー・バイヤーの関係でも「健康管理は取引の信用である」という共通認識を持つことが、製造業の信頼循環を底上げします。
IT活用の進化:“データにアクセス”ではなく“必要な時に情報が届く”自動化フローの構築
テクノロジーが進化した今、全ての従業員データを網羅的に誰かが都度確認する時代ではありません。
たとえば「健康診断で再検査判定が出た場合だけ自動的にアラートを出す」「職場の欠勤やパフォーマンス低下をAIで予兆検知し、現場リーダーと管理部門双方に通知する」など、情報”プッシュ型”活用が現代的です。
つまり、「誰かが常にデータを監視する」ではなく、「必要な人に、必要な時だけ、最小限の情報が届く」運用設計が時代に即しています。
このような“仕組みとしてのガバナンス”の構築ができて初めて、「データは活きた経営資源」へと昇華できるのです。
現場担当者・バイヤー・サプライヤー、それぞれの立場で考える健康管理データの価値
現場マネージャー:リスク予防と生産性向上の言語で伝えよう
健康管理システムの真のメリットは、「事故や労災の未然予防」だけでなく、「従業員が最大のパフォーマンスを発揮できる、持続可能な職場づくり」にあります。
現場マネージャーが“現場で何が起きているか”をリアルタイムで把握し、一人ひとりに合ったケアや調整ができる土壌づくりこそ、本来のDXです。
そして自分が見るのは「個人の健康機密」ではなく、「現場全体の健全性」という軸で運用すれば、データ活用のハードルも下がるはずです。
バイヤー:サプライチェーン全体のレジリエンス強化を視野に
バイヤーとしては、自社従業員だけでなく、サプライヤー側の健康・安全管理体制も「安心して任せられるか」という目線で重要なチェックポイントとなります。
ここで求められるのは、単なる「管理体制の確認」ではなく、「健康リスクがサプライチェーン全体の安定供給に直結する」というリスクベース思考です。
サプライヤーに対して「健康管理のデータを開示しろ」と迫るのではなく、相互の現場課題を共有し、「健康経営の強化が両社にとっての最適解である」ことをともに追求する姿勢が、これからの時代は求められます。
サプライヤー:バイヤーの“想い”を理解し、信頼構築に生かす
サプライヤーの立場でバイヤーの考えを推し量ると、「健康管理体制への信頼が取引継続の決め手になる」ことは、ますます重要性が高まっています。
健康管理システムを自社でどう使い、どのような部分をバイヤーと共有すべきか、その線引きをきちんと整理することで、取引先との関係強化にもつながります。
バイヤーに対し「現場でこういうデータを見て、こんな対策をしています」と自主開示できれば、単なる“下請け”から“パートナー”への昇格が十分可能です。
まとめ:「誰が見るのか」議論から、「どう見せて、どう活用するか」の新常識へ
健康管理システムのデータを“誰が見るのか”という問いは、単なる運用ルールの問題ではなく、製造業のカルチャー・信頼・生産性全てに関わるテーマです。
昭和的アナログ文化から、令和時代のデジタル・オープンな体制へと進化する上で、「ガバナンス設計」「目的を明確にした運用設計」「階層別・必要最小限の情報共有」という三つの柱が不可欠です。
現場の肌感を忘れず、バイヤーもサプライヤーも“同じ健康リスクと向き合うパートナー”として、新たなヘルスケア共創社会を作り上げましょう。
システムを“導入すること”がDXのゴールではなく、“活用し、現場に根付かせる”ことにこそ、本当の価値が宿っています。