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量産準備の工数見積りが甘く後工程が詰まる典型例

目次
はじめに
製造業の現場では、「量産準備の工数見積りが甘かったせいで、後工程が大混乱」ということが珍しくありません。
この問題は昭和の時代から繰り返されてきましたが、DXの掛け声が響く令和の今でも、根本的な解決には至っていません。
どんなにITツールが進化しても、現場の泥臭い実態や職人技、アナログな暗黙知に起因する「見積り誤差」が、工程全体のボトルネックを生み出します。
この記事では、製造業で20年以上勤務し、調達購買・生産管理・品質管理・自動化など多くの業務を経験してきた私の視点で、量産準備の工数見積りが甘くなる典型例や、その背景・業界構造、それを打開するヒントについて包括的に解説します。
工場の「汗と知恵」「葛藤と進化」をラテラルシンキングで深掘りし、読者の皆様の実務に役立つ現場知見をシェアしたいと思います。
量産準備の工数見積りが甘くなる典型例とは?
「見積りが甘かった…」という事態には、いくつものパターンが存在します。
代表的な例を挙げ、実際のプロセスを追いながら解説します。
1. 試作時と量産時のギャップを見誤る
新製品立ち上げ時、試作段階では熟練工が作業したり、良品のみの加工・組立てにフォーカスしがちです。
現場に溶け込む“暗黙のスキル”で、手間なくこなしてしまいます。
ところが量産では、通常の作業者が標準手順通りに作業し、様々なバラツキやイレギュラーが連発します。
例えば、
– 治具・工具の取り扱いが難解
– 作業台や搬送ラインの「動線」が詰まりやすい
– 図面や作業指示書が分かりにくい、情報が錯綜する
試作時に見えなかった「本当の工数」「見えない作業ロス」「躓きポイント」が、量産現場で一気に噴出します。
2. 工程間のバッファや段取り時間を軽視
複数の工程や部署が関わると「段取り替え」「工程間搬送」などの“見えない手間”が発生します。
たとえば、1工程の投入・排出タイミングが他工程とズレるだけで、材料が滞留したり、待ち時間が多発します。
また、前工程で微細な精度不良があると、後工程がやり直しや追加検査で大幅に遅れます。
見積りでは分単位で「生産稼働」だけを積み上げがちですが、実際は調整や手配、確認作業など“間接工数”が想定以上に膨らみます。
3. 品質向上・潜在不良への対応見積りが甘い
量産立ち上げ時は不良率が高く、歩留まりも安定しません。
現品毎のトレーサビリティや追加検査・修正作業など「緊急対応」が、予想以上の負荷になります。
特に「初品検査」に想定以上の時間がかかり、OKが出ないまま後工程がスタックするケースも多いです。
また、サプライヤからの部品遅延や、規格外部品の混入など、外部要因も加わり、「突発」の嵐が吹き荒れます。
4. 自動化設備・新規ラインの立ち上げ苦戦
現場の自動化や新規設備導入時は「設計値通りにいかない」典型例です。
設備の微調整、条件出し、ソフトウェアのバグなどで始動直後は「手動運転」や「安全確認」に人的工数が激増します。
新設備ゆえの“マニュアル整備遅れ”や、作業者教育不足も重なり、ライン全体が計画の2倍、3倍の時間を要することもいます。
なぜ工数見積りが甘くなるのか?――アナログな業界構造のジレンマ
どうして工数見積りが「甘く」なってしまうのでしょうか?製造現場のアナログな構造が根底に根付いています。
1. 現場知の属人化とアンラーニングの難しさ
40年近い熟練工たちの“コツと勘”は、データにも文章にも完璧には落とし込めません。
「なんとなく、ここは多めに見ておく」「実は裏ワザの段取りがある」など、暗黙知や口伝え文化に頼る場面が今なお多いです。
逆に言えば若手や派遣スタッフが増えると、想定工数が大きくブレます。
この“人材ミックス時代”には過去のパターン踏襲が通じず、工数見積りの精度悪化リスクが高まります。
2. サプライチェーンの多重構造と情報伝達ロス
部品メーカー→組立てメーカー→OEM元企業と、多層階構造のサプライチェーンが日本製造業の特徴です。
伝言ゲームで「現場のホントの負担」が経営層に上がりにくく、現場側も「言っても仕方ない」と黙ってリカバリします。
このため見積り時点で各階層の“余裕ゼロ”での積算となり、想定外トラブル時の吸収力(バッファ)が極小化されます。
3. 仕事の「見える化」が進みにくい現場文化
作業進捗・負荷状況をITで「見える化」し始めてはいますが、現場は紙・ホワイトボード・口頭伝達も根強いです。
正確な作業データが時系列・工程単位で揃わず、「大体こうだったな」という経験則まかせの粗い見積りになりがちです。
IT導入コンサルティング会社が期待するほど、「リアルタイムな現場データ」は簡単には集まりません。
典型例から学ぶ!現場の“あるある”事例集
実際に私が遭遇した、工数見積りが甘くトラブルとなった現場事例を紹介します。
ケース1:海外サプライヤーとの新規取引で工程詰まり発生
当社では海外拠点から新部品を導入する際、図面で十分に仕様説明をしました。
工数見積り上は「設備変更なし・リードタイム最短」と伝えられましたが、実際は…
– 部品寸法ばらつきが大きく、現場合わせ調整が連発
– 工程ごとに使う治工具の微修正を都度実施
– 品質トラブル分析(現地への聞き取り・原因究明)に多大な工数
結果的に1人1日30分の想定が3時間と“6倍”に膨れ、後工程が部品待ちで生産ストップしました。
ケース2:新規自動化ライン立ち上げ直後の混乱
最新鋭の自動化設備を設計通りに組み上げ、テストも事前に実施。
しかし量産初日に、
-ソフトウェアとハードウェアのインターフェース不良により突発停止の連続
– エラーリカバリーや手直し作業が作業者に伝わらず、現場パニック
– 不良品救済手順が未定義、要員待機ロス
見積りでは「設備1名・1サイクル3分」としていましたが、立ち上げ初期は実際に1サイクル10分、後工程がダンゴ状態となりました。
アナログ業界でもできる“詰まり”回避術
「どうせ現場は属人化とアナログの世界…」と諦める必要はありません。
実践から培った“詰まり回避”のコツをいくつか紹介します。
1. 試作・パイロット生産は現場“標準作業”で実施
ベテランやモノマエ(作業スーパースター)ではなく、現場作業者による本来の流れで「仮量産」を行い、タイムスタディを細かく測定するのが有効です。
こうすることで実工数に近い数値を見極められます。
また、その過程の中で“現場の勘違いポイント”も洗い出せます。
2. バッファ(余裕工数)を意識した計画立て
必ず「想定外」と「やり直し」「調整時間」にバッファを盛り込む。
1工程あたり最低15%の余裕時間を標準工数計算に追加します。
サプライチェーンみんなで“守っていい無駄”=バッファを認識し、「工数詰めすぎ」のプレッシャーに抗う知恵が大事です。
3. 工程の“可視化”はまず手描きフローから
最新ITツールをいきなり導入するのではなく、まずは手描きの工程マップ、紙のタイムチャート、ロスの目視チェックから始めましょう。
現場に“自分たちの課題”として課題化できるため、IT化の第二ステップにも確実に繋がります。
バイヤー・サプライヤー双方が知っておくべき視点
バイヤー目線では短納期・低コストを求めがちですが、工場現場の“詰まりやすさリスク”も織り込んだ上でサプライヤーと相対しなければなりません。
サプライヤー側は、「見積りの中身」=裏にある現場ロスやバッファの存在を、率直かつ丁寧にバイヤーに説明する努力が重要です。
両者が協業できる関係こそ、真の生産性向上の鍵となります。
まとめ
量産準備の工数見積りが甘いと、現場は必ず“詰まり”ます。
この原因は、昭和の現場文化とも直結する「属人知」「見える化の難しさ」や、サプライチェーン多重構造などにあります。
しかし、現場目線でプロセスを可視化し、余裕を持った工数設定や、オープンなコミュニケーションを重視することで、お金やITだけに頼らずとも“詰まり”を最小限にできます。
多くの製造業現場とバイヤー・サプライヤーの皆さんが、過去をアップデートしつつ新たな現場知を蓄積し、より良いモノづくり社会を実現されることを願っています。
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