投稿日:2025年8月21日

デマレージとディテンションの計算ロジックを理解し不当請求に反論するエビデンス作成

はじめに:なぜ「デマレージ」と「ディテンション」を理解する必要があるのか

製造業のグローバル化、そしてサプライチェーンの複雑化が進む現代において、調達・購買担当者や工場の物流管理担当者に強く求められる知識のひとつが、「デマレージ(Demurrage)」と「ディテンション(Detention)」の正確な理解です。

これらの費用は、国際輸送を伴う調達・物流の現場において頻繁に発生し、その請求額も時として数十万円~数百万円単位になるため、企業の利益に直結するクリティカルな要素です。
しかし実際には、サプライヤーやフォワーダー等の外部業者からの請求内容が曖昧だったり、「昔ながらの慣習」で数値計算の根拠が不透明のまま支払ってしまったりというケースも多く見受けられます。

この記事では、製造業の現場で20年以上培った実務経験を基に、業界特有の事情も交えつつ、「なぜ、どこで、どのように」これらの費用が発生し、どのように正しく計算し、そして不当請求にどう反論するのか、現場実践的に分かりやすく解説します。

デマレージ・ディテンションとは何か

デマレージ(Demurrage)の定義と発生メカニズム

デマレージとは、国際海上コンテナ輸送で使われる用語であり、主に「コンテナヤードで保管する期間が無料枠(フリータイム)を超過した場合」に課される保管超過料金です。

簡単にいうと、「輸入したコンテナ貨物を港湾のヤードから出すまでに許されている期間(例えば5日、7日など)を超えて置いていた場合、その超過日数に対して請求される料金」となります。

【分かりやすいイメージ】
・本来:A港にコンテナが到着 → ヤードで5日間無料 → その間にドレー輸送で引取
・超過:想定外の事情で引取が5日を超えた → 以降1日ごとにデマレージ料金が発生

ディテンション(Detention)の定義と発生メカニズム

一方、ディテンションは「コンテナをヤードから引き取った後、該当する船会社(キャリア)にコンテナを返却するまでの期間」に発生する費用です。

【具体例】
ヤードから自社倉庫にコンテナを移動(ドレージ)し、数日後に空コンテナを返却する場合、引取から返却までの期間がフリータイム(例:7日間)を超えた場合に課金されます。

【例】
・倉庫の在庫スペースが無く、コンテナから荷下ろしできず保管が必要
・工場出荷のスケジュールが遅延して荷降ろしが遅れた

このように、デマレージは「港のヤード滞留」、ディテンションは「ヤード外の顧客持ち期間」に対して課金されるものです。

デマレージ・ディテンションが発生する背景

物流全体を司る「仕組み」としての料金体系

両者はコンテナ物流における「公平性」を担保するための制度です。
船会社や港湾会社は、少しでも多くの貨物をスムーズに循環させる必要があり、「無料期間内で速やかに引き取ってもらう」のが大前提です。
もし誰かが長期間占有してしまえば、全体最適が崩れ、他の荷主・業者にも影響を及ぼします。
このため、フリータイムを設けつつ、一定期間を超えた場合は「ペナルティ的な意味も込めて」従量課金されます。

日本の製造業に根強い「アナログ運用」とのギャップ

昭和的な現場では「誰も明細の中身に疑問を持たない」「昔からの習慣でチェックせずに支払う」といった風土も強く見られます。
実際、サプライヤーやフォワーダーから「〇〇円かかりましたので」と簡単な請求書が送付され、そのまま経理処理されてしまうことも少なくありません。

今や、グローバル競争の中で「無駄なコストは絶対に見逃さない」という姿勢が求められています。
バイヤー(調達購買担当)としては、請求の内訳・ロジックを正しく理解し、時にはシビアに「不当請求は主張して反証する」「値下げ交渉材料として活用する」ことも非常に重要です。

デマレージ・ディテンションの具体的な計算方法

計算の基本公式

両者の計算式は、いたってシンプルです。

【デマレージ】
(実際のヤード留置日数 - フリータイム日数) × 単価(1日あたり)= デマレージ料金

【ディテンション】
(コンテナ引取から返却までの実日数 - フリータイム日数) × 単価(1日あたり)= ディテンション料金

※実際には、単価はコンテナサイズ(20f、40f等)やキャリア、航路によって異なります。

必要なチェックポイント

1.日数カウントの起算点・終了点の正確な把握
輸入の場合は「貨物到着日」や「デリバリーオーダー発行日」など、起算日設定にグレーな部分がある場合があります。
必ず契約書・B/L(船荷証券)の但し書きや運送約款を確認しましょう。

2.単価テーブル(料金表)の取得
船会社の公式HPや、フォワーダーの見積資料から必ず単価一覧表を入手し、証拠として残しておくことが厳守です。

3.「土日祝」や「通関遅延」の扱い
土日祝を除外する場合や、カウント方法が独自ルールになっているケースもあるため要注意です。

4.「フリータイム延長オプション」有無
バイヤー側からの交渉で、追加料金を払うことでフリータイムを予め延長することも可能です。これが未反映のまま請求されていないか確認しましょう。

不当請求が頻発するシチュエーションと反論エビデンスの作成ポイント

よくある「不当請求」のパターン

・起算日、終了日のカウントミス(例:実は到着日ではなく翌日からカウントが正しいのに初日から加算)
・単価の誤適用(例:対象貨物より高い単価が適用)
・二重請求(例:デマレージ・ディテンションの両方請求だが、日数が重複している)
・通関・天候・港湾事情等「不可抗力」要因にも関わらず全額請求
・「契約」に無い追加料金の請求

いずれも現場ではよく発生しており、即時対処できる体制整備が必要です。

有効な「反論エビデンス」の作成手順

1.B/L(船荷証券)、デリバリーオーダー、ヤードアウト証明書、運送引取記録等の取得と保存
2.船会社またはフォワーダー公式の「フリータイム規定」「単価テーブル」の提示
3.Excel等による「日数の計算根拠」「起算点と終了点の明示」
4.不可抗力発生時の港湾管理者等からの証明書、公式ニュース(例えば台風等で港が閉鎖していた証明)を添付

これら客観的証拠を用意したうえで、不当請求についてはロジカルかつシンプルに反論することで、無駄な支払いを回避できます。

製造業ならではの現場での「裏ワザ」的対策・交渉テクニック

物流会社・フォワーダーとの協力体制構築

コスト削減という観点だけでなく、
・現状の物流動線上でどこに遅延リスクがあるのか
・どのタイミングで誰が意思決定するか
など、現場の視点に立ったルールづくりが重要です。

また、現場調整担当者(作業員リーダー、担当ドライバー等)への「ちゃぶ台返し」的な突発指示の回避策も、事前の情報共有徹底がカギとなります。

契約段階から「フリータイム」設定を明確化する

上流のバイヤーや調達担当者が、契約時点で「必要十分なフリータイムがあるか」「延長権利の明記があるか」を必ずチェックしましょう。
デフォルトが短すぎる場合は、当初から延長交渉や「万一のオプション」を組み込むことでリスク低減が図れます。

工場スケジュールとのシンクロ

製造業では繁忙期・閑散期で荷受け・荷降ろし能力が大きく変動します。
入荷予定と工場の生産計画を綿密に連動させることで、
「いつ、どこの港で、どれだけのフリータイムが必要か」
を逆算して交渉材料としましょう。

特に老朽化した工場や、IT化の遅れた現場においては目視・紙ベースの入出庫管理なども多いですが、根気強くデータ化・可視化することが無駄コスト削減への近道です。

まとめ:これからのバイヤー・サプライヤーに求められる「実務力」とは

デマレージ・ディテンションの正しい知識は、単なるコスト削減だけでなく、自社の利益最大化とサプライヤー・物流業者とのフェアな関係構築のための武器となります。

「昔からこうやっているから」「慣習的に…」で流されるのではなく、事実ベースの交渉・対話力、根拠資料の保存・提示、ちょっとしたラテラルシンキングでのリスク低減が一歩先の現場実務者を生み出します。

この記事を通じて、一人でも多くのメーカー従事者・バイヤー・サプライヤーが「数字」と「契約」を味方にして、不当なコストに毅然と対処できる実力を身に付けていただければ幸いです。

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