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レインコートの防水性を左右するシームシーリング加工の理解

目次
レインコートの防水性能を支える「シームシーリング」とは
雨の日に活躍するレインコートですが、その防水性能を本当に支えているのは「生地」だけではありません。
むしろ、生地以上に重要な役割を担っているのが「縫い目=シーム部」の防水処理、いわゆる「シームシーリング加工」です。
皆さんが現場や調達、品質管理でレインコートやレインウェアを扱う際、つい生地スペックばかり注目しがちですが、現実にはシーム部の処理一つで最終製品の価値が大きく左右されます。
今回は製造業視点から、シームシーリングの基本や最新動向、現場での課題、そして今後求められるイノベーションまで掘り下げてみます。
レインコートの防水機能は「生地」と「シーム」で決まる
レインコートの主な防水スペックといえば、いわゆる「耐水圧」という数字の高低がよく話題になります。
耐水圧とは生地表面にどれだけの水圧をかけても水が浸透しないかを数値で表したもので、防水性の目安として用いられています。
しかし、いくら高スペックな生地を使っても、縫製した時点で「針穴」ができます。
この針穴から雨水が浸入することがあり、特に豪雨や長時間の着用で無視できない問題です。
そのためシーム部には「シームシーリング」と呼ばれる特殊な防水処理が欠かせません。
縫製=弱点、シームシーリング=本当の防水力
縫製箇所にテープや樹脂を圧着または溶着し、穴を塞ぐ技術がシームシーリングです。
この処理によってレインコートは「隙間なく水の侵入を防ぐ」本当の防水ウェアになるといえるでしょう。
バイヤーとして製品企画に携わる方や、サプライヤーとしてバイヤーのニーズを考える方は、この「シームの処理」の質とコスト・生産性のバランスを理解することが必須なのです。
シームシーリング加工の種類とその特徴
シームシーリング加工には、主に以下の方法が使われています。
1. シームテープ圧着方式
縫い目の裏側に熱で溶ける樹脂系のテープ(シームテープ)を圧着する方法です。
汎用性とコスト面で優れ、欧米でもアジアでも標準的な技術となっています。
最近では伸縮性や薄さ、防水性を向上させた多層テープも多く、用途や予算に応じて最適なテープ選定が求められます。
2. 液体シームシーリング(シームコート)
縫い目に専用の防水液(ポリウレタンやシリコン系)を塗布し、コーティング皮膜で水の浸入を防ぐ方法です。
小規模生産や特殊形状、狭い箇所への対応に有利ですが、安定した品質を保つには高度な技能が必要で、歩留まり率にも注意です。
3. 溶着・無縫製(ウェルダー加工)
近年増えつつあるのが、縫製そのものを避ける超音波や高周波ウェルダーを使った「無縫製」技術です。
耐久性・防水性がきわめて高くなりますが、生産設備や初期投資がかさみ小ロットには不向きです。
シーム加工の選択肢は現場・需給動向に左右される
どの方法を選ぶかは、最終製品のグレードや原価要求、最小ロット、流動計画により変わります。
ここはアナログな現場の経験値「この条件ならこの方式でないとうまくいかない」といった知恵が根強く生きている分野です。
国内外含め、提携工場やサプライヤーごとの得意技術も大きなポイントです。
実際の製造現場で見落とされがちなシームシーリングの課題
シームテープ一つ貼るだけ、とラクに考える現場もありそうですが、実際には多くの落とし穴があります。
1. シームテープの浮き・剥がれ
加圧温度の条件やプレス時間の管理が不十分だと、シームテープが十分な密着力を発揮できず、浮きや剥がれが発生します。
納品検査時が問題なくても、現実の使用で汗や雨によって剥離するケースがあり、クレームの温床となりかねません。
2. 生地とテープの相性問題
昨今は環境面やヒューマンエラー削減で新素材の生地も増えています。
が、その一方で「この素材にはこのシームテープしか密着しない」といった組み合わせの制約も多分にあります。
新素材採用の際は、事前に十分な相性試験をしておかないと後で火傷することになります。
3. 作業者の技能による仕上がりムラ
未だに多くの工程で“人”の技能や手加減に左右される点も特有です。
特にアジア生産拠点では作業者の熟練度や離職率に伴い、品質が大きく揺らぎかねません。
シームシーリング技術と現場運用で進むデジタル化と今後の展望
製造業の現場では自動化・デジタル化が加速していますが、シームシーリング分野はまだまだ“昭和的なアナログ現場力”が息づいています。
自動シームテープ貼付機の導入促進
近年はAI制御で温度・速度・位置決めを最適化し、技能者の習熟に頼らない機械化が進みつつあります。
歩留まり向上と均一な品質確保のためには自動機導入が欠かせません。
IoT・トレーサビリティへの期待
シームテープ作業ログをデジタル保存し、「どのロットで、誰が何秒で、どの温度で」というデータ管理の試みも一部で進みはじめています。
品質クレーム発生時のスピーディな原因分析や、不良率改善のために、IoTとの連携は今後“当たり前”になるでしょう。
環境対応と新素材へのシフト
シームテープ自体やコーティング剤にも、リサイクルや環境負荷低減の圧力が強まっています。
国内外バイヤーには、環境配慮型の新素材対応も今後求められてくるはずです。
バイヤー・サプライヤーが知っておくべき「シーム」の本質
調達購買や現場担当者、サプライヤー担当者が持つべき視点は何でしょうか。
1. 防水=総合力の戦い
生地、シームテープ、縫製技術、管理工程…どれか一つでも欠ければ「防水ウェア」としての商品価値は成立しません。
シーム部の処理方法から歩留まり管理、最終検査フローに至るまで「現場の知恵と仕組み」がトータルで問われるのです。
2. 調達時は「隠れたコスト」に目を向ける
最終製品では見えにくい「縫製・シーム加工の工数」や「技能者育成コスト」、「テープ・コーティング剤の歩留まり」、「新素材への適応実績」など、従来の単価争いでは見えなかった“隠れた失敗コスト”を意識しましょう。
バイヤーがこの視点を持てば、サプライヤーとのパートナーシップもより戦略的に進めることができます。
3. 課題を共有し、現場力を底上げする
現場本位の泥臭さや手作業も、DXや自動化の活用で次なるステージが見えてきました。
業界全体で「現場の課題」「技能の伝承」「自動化への工夫」などを惜しみなく共有し、競争力向上につなげていきましょう。
まとめ:シームシーリングの進化が、産業構造も変える
レインコートの防水性を本質的に高めるためには、「生地とシーム、現場と自動化、技能とイノベーション」という多面的な視点が不可欠です。
アナログな現場力に現代的デジタル化を融合させることで、昭和から続く製造現場も、次の新しい価値創造へと踏み出せるはずです。
これからの製造業は、シームシーリングの「見えない努力」をバリューチェーン全体でしっかり見つめ直すことが、持続的競争力の鍵だと強く感じます。
皆さん自身の現場やサプライチェーンの課題発見、改善活動に、少しでも本記事の内容が参考になれば幸いです。
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