投稿日:2025年11月3日

下着のフィット感を決めるストレッチ素材と縫い糸テンションの理解

はじめに:下着のフィット感を作る「見えない工夫」

下着は、直接肌に触れるアイテムです。
そして一日中身につけていることも多いため、その「フィット感」が快適性を大きく左右します。
ユーザーは何となく「良いフィット感」と「いまいちな着心地」を感じ取っていますが、裏側ではさまざまな工夫が積み重ねられています。

とくに現場目線から見た時、フィット感を決定づけるのは「ストレッチ素材の選定」と「縫い糸テンション」の絶妙なコントロールです。
この記事では、昭和のアナログな現場でも根強く残る職人的なノウハウ、新世代の自動化やデジタル管理と対比させつつ、製造現場のリアルな視点でフィット感の仕組みを紐解いていきます。

ストレッチ素材が下着に求められる理由

肌着、特に下着には必ずと言っていいほど「伸縮性」が求められます。
なぜなら、人の身体は一人ひとり形状が違い、一日の中でも動きや呼吸によって寸法が常に変化するからです。

なぜストレッチ?「静」と「動」に寄り添う素材選び

座る、立つ、歩く、寝る…こうした「動」の瞬間、もし生地がまったく伸びなければ、不快感ばかりか、継続的に負担をかけてしまいます。
そのため、下着生地には必ず「横伸び(ウエストやヒップの補正に効く)」と「縦伸び(腿回り・バスト回りにも対応)」のバランスが求められます。

昭和期には綿100%が主流でしたが、技術の進歩とともにポリウレタン(代表例がスパンデックスやライクラ)のような高伸縮素材が登場。
今や下着のほとんどは、コットン、ナイロン、ポリエステルなどのベースに2~10%程度のポリウレタンを混紡することで、しなやかでピタッと寄り添う着用感を実現しています。

生産現場での素材選定の勘所

メーカーやブランドによって下着の「フィット感」は微妙に異なります。
その鍵は
– ポリウレタンの混率
– ベース繊維の種類や太さ
– 編み方や織り方(丸編み、トリコット、パワーネット等)

のような複雑な組み合わせにあります。

たとえば同じ5%のポリウレタン混でも、ナイロンベースとコットンベースでは伸び方に明らかな違いが表れます。
熟練のサプライヤーは、求める商品イメージをバイヤーと相談し、
「○○の狙いなら、この規格がちょうど良いですよ」
といった『身体感覚と理論の融合』を現場に持ち込んできます。

縫い糸テンションがもたらす「隠れた着心地」

どれだけ優れたストレッチ生地を選んでも、「縫製」で生地の力を殺してしまっては元も子もありません。
フィット感の本質は、縫製工程での「糸テンション管理」にも大きく左右されるのです。

縫製現場でテンションを意識する理由

テンションとは「糸の引っ張り加減」を意味します。
縫製ミシンには「上糸」「下糸」のバランスがあり、ゴム部やストレッチ部分には専用の伸縮ミシン糸や差動送り機構が配されています。

– テンションが強い:生地がギャザーになりやすく、伸び縮みの妨げに
– テンションが弱い:縫い目が乱れて強度不足に

この絶妙なあんばいを、職人が手感覚や長年のデータで調整しているのが昭和型の現場です。
近年はデジタルミシンやテンション自動調整装置も普及していますが、最終的には「現物合わせ&試着」によるリアルフィードバックが欠かせません。

テンション管理の具体例:ウエストゴムの場合

たとえば、ボクサーパンツや女性用ショーツの「ウエストゴム」部分。
ここでは
– ゴムの収縮率
– 生地とゴムの縫い境
– 縫い糸の種類(伸縮性糸か否か)
– 工業用ミシンの送り速度と送り歯設定

これらを千差万別組み合わせて
「お腹に食い込まず、且つズリ落ちないギリギリのテンション」
を追求します。

この現場ノウハウは、”見た目で推測しにくい”ため新規参入バイヤーや開発エンジニアの壁になりやすいのです。

実践的な現場改善:アナログの知見とデジタルの融合

昭和時代から続く「個人のカン」頼みは過渡期にあります。
変種変量・短納期・グローバル生産といった産業構造の劇的変化のなか、「アナログ」と「デジタル」の融合が現場力の底上げを進めています。

デジタル化で変わるテンション管理

デジタルミシンの導入により、
– 縫製データの保存・再現
– 不良発生時のログ確認と自動警告
– 画像解析による縫い目品質検査

などが一般化しています。
それでも「生地のロットぶれ」「人の肌感覚」「着用時の動き方」までは機械化しきれていません。

だからこそ、職人や経験者の
「ここは0.5Nだけテンション緩め」
「このロットだけ少し前工程で蒸気かけ」
といった微調整も現場には欠かせないのです。

現場バイヤー・サプライヤーへの提言

バイヤーを目指す方、もしくはサプライヤーとしてバイヤーの心を読みたい方に伝えたいのは、
「数字や理屈で説明しきれない現場感覚」を言語化し、蓄積することの重要さです。

バイヤーは、現場のテンション設定や素材サンプルを
「一次情報」として現物で掌握し、エビデンスデータや現場写真・動画とあわせて初めて正確な品質交渉が可能になります。

サプライヤーは、自身の経験則だけに頼るだけでなく、テンション管理マニュアルや、工程ごとの物性測定データ共有を進めましょう。
バイヤーとの信頼関係は
「なんとなく良い」から
「ここをこうした結果ここまで良かった」
への進化で格段に高まります。

まとめ:見えない工夫が最高の「着心地」を支える

下着のフィット感は、素材だけでなくその「縫い方」「テンションのかけ方」まで複合的な要素で決まっています。
そこには昭和から受け継がれる現場ノウハウと、現代のデジタル管理の両方が必要不可欠です。

製造業に勤める方、これからバイヤーを目指す方は是非、
「なぜこのフィット感が生まれるのか」
「別の素材やテンション設定ならどんな違いがあるのか」
を掘り下げて学んでみてください。

サプライヤーとしてバイヤーの立場を理解するには、彼らが求める「再現性」「客観性」も念頭に置きつつ、自分が持っている現場知見を型化していく姿勢が求められます。

「本当に着心地の良い下着」には、見えない職人技と最先端技術の両方が息づいているのです。

これからの製造業で新しい“地平線”を切り開くため、現場目線×ラテラルシンキングでさらなる高みを目指しましょう。

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