投稿日:2025年9月26日

導入前に想定していなかった新しい課題が噴出する問題

製造業で導入前に想定しきれなかった「新しい課題」が噴出する理由

現場の皆さん、そして調達購買や生産管理に関わる全ての方々へ――。
私が20年以上勤めた工場の現場では、設備や新システムの導入が発表されるたびに、「これでもう、今の課題は改善されるだろう」「これで一歩前進だ」と期待が高まりました。
しかし実際には、導入前には想像もしていなかった新しい課題、いわゆる「副作用」とも呼べる厄介な問題が次々と浮上することがほとんどです。
なぜ、このような現象が日本の製造業、とりわけ未だアナログ文化が根強く残る業界で頻出するのでしょうか。
今回は、現場でのリアルな事例や本質的な原因、そしてバイヤー/サプライヤー双方の視点による再発防止策を、現場目線で深堀りします。

なぜ「新しい課題」が想定外に発生するのか

1. 部門間バラバラなゴール設定の落とし穴

工場長時代、私も多くの新システムや自動機、ITツールの導入に関わってきました。
その中で頻繁に感じていたことの一つが、各部門ごとに導入目的や優先度がズレているという事実です。
生産部は「納期短縮」を狙い、品質保証は「トレーサビリティ強化」、調達部門は「取引先の切り替えスムーズ化」、経理は「コストダウン」。
実はこの温度差や微妙な狙いの違いこそ、「思わぬ新課題」が出る入口となります。

例えば、調達購買部門のみが便利なWeb発注システムを導入したとしましょう。
現場現物の承認フローや、製造リードタイムなど「他部門の暗黙知・現場ルール」を反映しきれなければ、承認レスポンス遅延や、ミス大量発生といった新問題が発生します。
このように、導入前には部門の「縦割り」視点が場当たり的な決断につながり、それが後になって深刻な副作用となって表面化するのです。

2. 昭和的現場力が招く「口約束とローカルルール」の再生産

日本の製造業の底力としてよく語られるのが「現場に強い人がいてなんとかなる」文化です。
私も昭和の初期キャリアをその泥臭い現場で過ごしてきました。
良く言えば柔軟、悪く言えば属人性に頼り切ったオペレーションで工場は回っています。
新しいツールやプロセスが入っても「現場が回らないと困るから」と旧来の口約束、メモ書き、担当者の勘頼みといった習慣を温存しがちです。
結果、表向きは最新設備なのに実態は手作業や例外運用が増え、現場負担がむしろ増してしまうこともあります。

3. サプライヤー、バイヤーの「真の本音ギャップ」

サプライヤー側は「システムを入れておけば、バイヤーも満足するだろう」と考えがちです。
バイヤー側も「新規導入後のリスク洗い出しはサプライヤーが中心でやってくれるはず」と過信してしまう場合があります。
この無意識の期待ギャップこそ、後で「そんなつもりじゃなかった」「聞いていない」というトラブルを生みます。
昭和から続く「黙っていても相手が察する」文化が、真の課題を表面化させない遠因となっているのです。

現場からの「新課題」噴出リアル事例

導入当初は順調→数か月後に現場悲鳴!Web発注システムの失敗例

ある大手製造業では、調達部門が主導となって取引先とのWeb発注システムを導入しました。
これで業務効率化とコスト削減を狙ったものの、実装後しばらくして、現場から悲鳴が上がりました。

特に多かった声は、
・Web入力した内容が現場帳票に反映されない
・操作方法が複雑すぎ、現場担当が入力ミスを頻発
・取引先が現場オリジナルの呼び名や略称でしか伝達してこない
・結局、元のFAX併用という「二重運用」に後戻り

プロジェクト前には「現場で困っている課題がなくなる」と虚心坦懐に話し合ったのに、いざ動かしてみると“現場or現物”が起点の連携が全く設計に反映されていなかったという噴飯ものの事例です。

最新の自動化設備が「孤島」となりムダな手作業が増えるワナ

多くの工場で自動化設備やIoTモジュールを導入する際、「見える化」やダウンタイム削減を狙います。
しかし、設備データが社内システムに連動していなければ、最終的な報告作業は結局現場スタッフの手入力。
「前より便利になるはず」と期待したのに、「新しく増えた管理帳票」が現実的な負荷となり、ムダな手仕事が倍増するという“本末転倒”な課題となります。

ラテラルシンキングで問題を根治するアプローチ

現場・部門・経営層の「目的の再定義」が重要

課題の根本は、各ステークホルダーの「目的」が一致していないことにあります。
各部門のゴール――品質、納期、コスト、現場安全、顧客満足等――を、一度フラットな状態で洗い出し、現場担当レベルから経営層まで本気で深堀りする場を設けましょう。
単なる要件定義(仕様書作成)だけでなく、「なぜ本当にそれが必要なのか?」という“WHY”を行間まで解剖していくことが、未然防止の大きなカギとなります。

「見える化」だけでなく「意思疎通のプロトコル」を設計する

日本の工場現場では、見える化ツール以上に「情報伝達ルールの標準化」が大きな課題です。
単なるシステム置き換えではなく、「担当者の思考や習熟度差」「呼称や略称の統一」まで丁寧に現場での仕組みを再設計することで、真のデジタル化が進みます。

短期導入&改善サイクルの「PoC」文化を定着させる

最も効果的なのは、ある程度“未完成”“不完全”でもよいので、小規模で効果検証を繰り返し、その都度修正していく「PoC(Proof of Concept)」アプローチを日常化することです。
小さな導入→現場ヒアリング→改善→再導入……このサイクルをわざと組み込むことで「これも問題だったのか!」という気づきが事前に出てきます。
システムの正解は一発で存在しない。
「失敗→改善→仕組み定着」を繰り返してこそ、課題が析出・共通認識化されるのです。

サプライヤーから見た“想定外課題”の本音と対応

「相手企業の業務フローを丸裸に」しないと本当の提案はできない

多くのサプライヤーが、表向きはバイヤー担当と仕様書や要件の打ち合わせを重ねます。
しかし本当に深い提案ができているかというと、バイヤー現場の習慣や日常的な「ナレッジの暗黙化」にはなかなか踏み込めません。
理想は「現場見学+ヒアリング+紙ベースでの業務追体験」です。
バイヤー側も「社外に見せたくない、恥ずかしい部分」こそオープンにすれば、サプライヤーからまったく新しい価値提案や、真の課題解決策が得られます。

「どうしても変わらないもの」と「変えられるもの」を分けて提案設計

昭和型の現場力や、暗黙ルールには企業文化や人間関係が色濃くこびりついています。
全てを変えようとするのではなく、絶対に動かせない部分(たとえば現場のリーダーが判断権を握るタイミングなど)は据え置きつつ、その前後だけに新ツールを差し込むなど「部分的な最適化」から始めることで、想定外の副作用をかなり抑え込むことが可能です。

バイヤーを目指す方へのアドバイス

現場の痛み・人の動きの「アナログ感覚」を絶対に軽視しない

これから調達バイヤーを目指す皆さんへ。
MBA的なデータや数値で語れる改善ではなく、現場で起こっている“ちょっとした引っ掛かり”や、“人の手が止まる”瞬間を見逃さない観察眼こそ最重要です。
担当者がどこで戸惑っているのか、どんな「やりかた」を続けてしまう習慣があるのか。
この「人間らしさ」「昭和的アナログ性」への洞察が、現代のデジタル導入にも必ず活かせます。

まとめ:「進化」と「副作用」は紙一重、だからこそ現場の声に正面から向き合おう

どんなに素晴らしいシステムや設備も、現場のリアルな人の動きや暗黙知とかみ合っていなければ、必ず新しい課題が出てきます。
その「副作用」をうやむやにせず、なぜ起きたのかを全員で冷静に向き合い、失敗を積み重ねて最適解へと近づいていく。
昭和から最新のIoT時代へ移り変わる今だからこそ、「人間本来の直感」+「テクノロジー」の合わせ技で、製造業の新たな地平線を切り開いていきましょう。

現場で悩むすべての方へ、最後に伝えたいのは「想定外の課題は、進化の証」だということです。
恐れず、声をあげて、また一歩前進しましょう。

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