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輸入通関遅延をサプライヤー責任とされる不公平な問題

目次
はじめに:製造業に根付く「輸入通関遅延=サプライヤー責任」という常識
製造業において、部品や資材の調達は生産活動の根幹を担う重要なプロセスです。
グローバル化が進む現在、世界中のサプライヤーと取引することが当たり前となった一方で、輸入時の通関手続きにおけるトラブル——つまり「通関遅延」——が避けられないリスクの一つとして日常化しています。
ところが、日本の製造業の現場では、通関遅延が発生した場合、その責任が往々にしてサプライヤー側に一方的に求められる場面が多くあります。
「遅延はサプライヤーの落ち度」——これはバイヤー側、特に昭和から続く“アナログ調達文化”が色濃く残る現場で、暗黙の了解となっている部分でもあります。
果たして、これは本当に正しい判断なのでしょうか。
本記事では、この問題構造を現場経験者の視点から深堀りし、サプライヤーとバイヤー双方にとってよりフェアで生産的な関係構築のための着眼点を提案します。
なぜ通関遅延がサプライヤー責任となるのか?
契約と慣行が生む「責任転嫁のトリック」
貿易取引は輸出側(サプライヤー)と輸入側(バイヤー)それぞれの契約条件(インコタームズ)によって役割分担が大きく左右されます。
特にFOB(本船渡し)やCFR(運賃込み渡し)などの条件下では、本来は通関に関わるリスクと責任が一定の範囲で切り分けられています。
にもかかわらず、実際の現場では「届かないなら、サプライヤーが悪い」「全部持ってきた側の責任」と、調達部門や現場管理職が政治的にプレッシャーをかける光景が散見されます。
この背景には、インコタームズや国際取引の基本を理解しきれていないまま、過去からの慣例や要求に甘えているバイヤー側の“上から目線な文化”が根強いことが挙げられます。
現場主導だからこそ助長される原因
昭和の頃から続く日本の大手製造業では、現場起点で事態が動き、困ったときには「外注・仕入先に負担を押し付ける」傾向がどうしても出ます。
バイヤーは納期遅延が生産計画を狂わせることを恐れます。品質やトラブルに対して“仕入先に責任を取らせる”という姿勢を強く持つ伝統があるため、通関遅延もその文脈で扱われがちです。
しかしこれは、現実的なリスク分担というよりも、権力バランスがバイヤーに有利なときにのみ成立する“アンフェアな圧力”と言えます。
実際の通関遅延の現場で起きていること
複雑化する輸入通関の実態
近年、テロ対策や経済制裁、環境規制など、国際的な規制強化によって、従来に比べて輸入通関手続きの負担が格段に増しています。
書類不備や認証書類の遅延、さらには港湾ストライキや自然災害、パンデミック(新型コロナ等)の影響も無視できません。
こうした要因の多くは、サプライヤーやバイヤー、どちらの行為によっても左右できない、いわば“不可抗力”に分類されるべき事象です。
にもかかわらず、「納期通り届かない=サプライヤーの責任」という単純な図式がいまだに罷り通るケースが後を絶ちません。
現場での責任の押し付け合いと苦悩
工場長や生産管理職、バイヤー担当者は、日々の生産上のリスク管理のために多くの神経をすり減らしています。
「サプライヤーから急に“遅れます”と連絡が入った」「通関で止まってしまい、港で足止めされた」といった情報を聞いたとき、現場はパニックに。
生産遅延=損失拡大につながるため、取引先へ強くクレームを入れがちです。
しかし、こうした責任追及の構造には必ず“情報の非対称性”—つまり、通関や物流の現実を詳細に知らず、一方的な想像や過去の常識から何でもサプライヤーの非と決めつける現場心理—があります。
サプライヤー側も防戦一方となり、両者の間に摩擦や不信感が生まれてしまうのです。
業界の昭和的慣習と本来あるべきリスク分担
抜け出せない「バイヤー優位」のアナログ商習慣
日本の製造業界は、いまだにバイヤー(買い手)が取引関係で主導権を握るというアナログなバリューチェーンが色濃く残っています。
調達契約においても、“仕入先は従うもの”という上下関係が根深く、本来の契約上はサプライヤーが責任を負わない事項についても、納入遅延や通関トラブルが発生した場合は“やむなく受け入れる”、あるいは泣き寝入りするケースが目立ちます。
この構図は、特に地方中小、歴史ある大手の製造業現場で顕著です。
新しい調達モデルやサプライチェーンの構築がすすむ一方、現場の温度感は昭和の泥臭い力学に依存したまま、というギャップも生じています。
インコタームズに基づいた正しいリスク分担
グローバル調達が当たり前となった現代、国際契約の原則(インコタームズ)は「誰がどこのリスクをどこまで管理するか」を明確にルール化しています。
たとえば、「FOB」であれば本船積込までがサプライヤーの責任、「CFR」や「CIF」であれば到着地港までがサプライヤーの責任ですが、通関(輸入側)はそこから先、原則バイヤー側にリスクがあります。
この基本を無視した「旧来の慣習や現場感覚」でサプライヤー責任を問うのは、公平な取引からかけ離れた“日本的商慣行の悪癖”でもあります。
なぜこの問題の改善が必要なのか?
サプライチェーン全体の競争力維持のために
サプライヤーに過度な負担や理不尽な責任追及を強いる構造は、長期的には日本のものづくり全体の競争力を大きく損ないます。
サプライヤー側のモチベーション低下やコスト上昇は、最終的にバイヤー側の調達力や交渉力低下を招きます。
不公平な取引ルールが常態化すれば、グローバルサプライヤーとの信頼構築や持続的なパートナーシップにも悪影響が及びます。
“強い現場”が求められる時代だからこそ公平な基準を
日本の製造業が今後も世界で存在感を発揮するためには、“強い現場”だけでなく“公正な現場”——つまり、合理的で双方納得感のあるルール・運用が不可欠です。
通関遅延=全てサプライヤー責任、という一刀両断な姿勢はもはや時代遅れと言っても過言ではありません。
現場で意識すべき改善策と実務のヒント
契約内容の見直しとドキュメント整備
調達条件や納期に関する責任分担を、インコタームズなど国際標準で明文化することが大前提です。
契約書や発注書には、通関遅延の定義・リスク負担・不可抗力条項を明確に記載し、納入遅延時のペナルティ(ペナルティ条項)の範囲について合意形成を怠らないことが重要です。
ドキュメントが不十分だと、不合理な責任転嫁を受け入れる温床になりかねません。
バイヤー側の「現場力」向上への取り組み
バイヤー自身がサプライヤーの立場に立つ——これが本当に強いバイヤーに求められる資質です。
例えば、通関業務や書類作成、現地港湾の実情などを実地で学び、「本質的にどこに問題があるのか」を自分で調査・体感することは、サプライヤーとフェアな議論を進めるうえで欠かせません。
また、トラブルが起きたときには冷静に原因を分析し、「責任の所在」と「今後の防止策」を一方的な責任追及ではなく建設的に話し合える現場力が不可欠です。
サプライヤー側のリスク対応力強化も必要
一方、サプライヤーも「悪癖」に甘んじるのではなく、状況の事前共有・適切なイレギュラー報告・証跡管理を徹底することで、自衛と信頼構築を図るべきです。
具体的には、通関書類の不備がないか独自でダブルチェックし、遅延が予想される場合は、一刻も早くバイヤーへリスク報告と対応方針の相談を行うことがリスクヘッジに繋がります。
まとめ:新しい現場作りのために
輸入通関遅延に関する問題は、サプライヤーだけでなくバイヤー、生産現場、経営層それぞれの「当たり前」を見直す絶好の機会でもあります。
“一方的な責任転嫁”という昭和的商慣習から脱却し、“事実に基づくリスク分担と、建設的なパートナーシップ”へとシフトすることが、今後の日本のものづくり力強化に繋がります。
現場と現実の乖離を埋め、サプライヤー・バイヤー双方が納得し合えるプロフェッショナリズムの現場運営を、今こそ追求していきましょう。
この意識改革が、強いサプライチェーン・強いものづくりの未来を切り拓く鍵となるのです。
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