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フィルタリングされていない顧客要求がそのまま設計負荷になる問題

目次
フィルタリングされていない顧客要求がそのまま設計負荷になる問題
はじめに:製造業の現場と顧客要求のギャップ
製造業において、顧客の多様な要望に応えることは事業の根幹ですが、一方で顧客から伝えられる要求が十分にフィルタリングされず、そのまま設計や現場に流れることは大きな課題になっています。
バイヤーやサプライヤー、製造の現場担当者など、職種問わず「顧客のニーズを正確に把握し、最適な形で現場へ伝える」ことの重要性を認識しながらも、実際には設計負荷や生産トラブル、コスト増加といった形で悩みが噴出しているのが現状です。
この記事では、この「フィルタリングされていない顧客要求がそのまま設計負荷になる問題」について、昭和のアナログ体質が根強い製造業の現場目線も交えつつ、実践的な解決策を深掘りします。
顧客要求がフィルタリングされない背景
まず、なぜ顧客要求が十分にフィルタリングされず、ダイレクトに設計部門へ流れてしまうのか、その背景にはいくつかの要因が存在します。
営業力への極端な依存
ひとつは「営業担当者が顧客の窓口として丸投げされている」ことです。
営業担当は顧客満足に重きを置きすぎるあまり、「NO」と言えず、顧客の要望をほぼそのまま設計部門に伝えてしまう傾向が根強く残っています。
昭和のアナログ体質を引きずる企業では、顧客の言うことが絶対であり、「お客様のご要望はすべて最優先」という発想が根付いているため、現場で本当に実現可能か、コストは見合うかなどの検証がほとんど行われません。
顧客側の曖昧な要求設定
実は顧客側も必ずしも「何が必要か」を明確に分かっているわけではありません。
例えば「もっと軽く」「もっと丈夫に」といった抽象的な要求を、深く掘り下げず最終仕様とすることで、本来不要な要求まで設計仕様になってしまうケースが多々あります。
部門間コミュニケーションの壁
営業・調達・設計・生産技術が連携することが重要ですが、現実には部門横断のコミュニケーションが稀です。
設計部門は「仕様変更の連絡が急に降ってくる」「見積もりが机上の空論」と感じるとともに、製造サイドは「現場の都合が全く考慮されていない」と不信感を膨らませます。
この「タコツボ化」により、現場の知見が顧客要求の整理プロセスに反映されず、結果として設計負荷だけが増加してしまうのです。
設計負荷増加が現場にもたらす弊害
フィルタリングされていない顧客要求が設計部門へ直接降り注ぐことで、どのような実害が出てくるのでしょうか。
設計工数の肥大化と人材疲弊
まず設計現場に過度な業務負荷が発生します。
本来は不要なカスタマイズや仕様変更に追われ、本業である「価値創造」や「本質的な改善」へ時間が割けなくなります。
経験の浅い設計者ほど対応に追われ、残業や精神的な負担が増加し、人材流出やモチベーション低下を招きます。
コスト・納期リスクの増大
顧客要求に無批判に応じることで、部品点数増加、工程複雑化、部材調達リスクの顕在化など、全社的なコスト増加や納期遅延を引き起こしやすくなります。
現場の生産管理や調達担当者が「図面が来るまで仕様が分からない」といった声があがり、見積もり精度の低下や在庫過多、品質問題などのリスクも増大します。
品質低下や市場クレームの増加
仕様の目的曖昧なまま設計されることで、製品としての本来の強みが損なわれたり、過剰設計や本質から外れた設計ミスが生まれることがあります。
顧客に納品した際、「本当に必要だったもの」「余分だったもの」の乖離が明らかになり、追加改修や市場クレームにつながることも少なくありません。
過去の失敗事例から学ぶ:昭和型の悪しき慣習とは
昭和の高度成長期に確立された「とにかく間に合わせろ」「現場が何とかする」という精神論的アプローチは、21世紀の多品種・変動型市場には通用しなくなっています。
私の現場経験でも、こんなことがありました。
ある重要顧客の要望に丸ごと応えようとし、変更に次ぐ変更を繰り返して設計部門がパンク寸前に。
結果、肝心の品質検証が疎かになり、大口納品直後、各地の工場でトラブル多発。
現場は休日返上で対応し、信用の失墜と多額の損害が発生しました。
当時は「顧客を怒らせてはいけない」と誰も考え直すことができませんでした。
ラテラルシンキングが導く「本当に必要な顧客要求整理術」
では、どうすればこの悪循環を断ち切れるのでしょうか?
ラテラルシンキング(水平思考)の観点で、「従来の発想から一歩引いて、多角的な視点で顧客要求をとらえ直す」ことが有効です。
Why(なぜ?)を5回掘り下げて、本質を探る
「この要求は、本質的に何を実現したいのか?」を徹底して議論することが必要です。
営業と顧客の打ち合わせ時点で「なぜそれが必要なのか」「それで何が解決するのか」を5回繰り返して深掘りし、本当に根本的な課題だけに削ぎ落とします。
例えば「もっと丈夫に」という要求なら、「どこで何のトラブルがあったのか」「使用環境は?」「どのレベルまで耐久性が上がれば十分か」といった問いを重ねることで、漠然とした要求が具体的な目標値や設計指標になります。
クロスファンクショナルチームで要求を精査
営業・調達・設計・品質・生産管理など、部門横断的なチームを発足し、顧客要求ごとに多角的な視点で可否・適正性を議論するフローを設けます。
サプライヤーや社外専門家を交え「コスト」「品質」「納期」「調達リスク」など多様な観点から評価し、お互いの意見・現場知見を取り入れることで、素通りで流れてこない仕組みにすることが有効です。
「しなくてよい要求は極力しない」勇気を持つ
「お客様のご要望は全てYes」ではなく「現場として最適解をご提案する」「不要な要求にはNoをしっかり示す」勇気が製造業の未来には不可欠です。
昭和型の精神論で現場を疲弊させるのではなく、数字と事実に基づき、顧客との建設的な対話を重ねることが求められます。
実践現場で使える「顧客要求フィルタリング」チェックリスト
最後に、現場で即使える顧客要求のフィルタリングポイントをまとめます。
– その要求の「Why(目的)」は顧客と合意できているか?
– 要求の裏に隠れた真の課題は何か?
– 類似実績や社内標準を参照し、本当に新規設計が必要か?
– 追加コスト・納期への影響試算は事前に行ったか?
– 競合・代替技術・第三案の検討余地はないか?
– 部門横断でリスク・実現可能性チェックはしたか?
– 取捨選択・優先順位付けがなされているか?
これらをチェックリスト化し、案件ごとに回覧しておくことで、フィルタリングされない要求が設計負荷として現場を襲うリスクを大幅に抑えられます。
まとめ:フィルタリング文化が製造業を強くする
フィルタリングされていない顧客要求が設計負荷となり現場で大きな問題を生む構造は、今も多くの製造業で根強く残っています。
ですが、ここを乗り越える発想転換と実践ができれば、設計部門だけでなく、営業や調達、サプライヤーとの協業、経営全体の競争力向上につながります。
自社の現状を回顧しつつ、ラテラルシンキングで「何のためにその要求があるのか」を現場で何度でも問い直してみてください。
製造業の現場で苦しんだ経験が、必ず次世代の強い現場づくりに生きてきます。
読者の皆さまが、顧客・現場・会社の三方よしを体現できることを、現場出身者として心から応援しています。
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