投稿日:2025年7月14日

ワイヤレス電力伝送の四方式電磁誘導と磁界共鳴統一理論走行自動車への応用

はじめに:ワイヤレス電力伝送の現状と課題

ワイヤレス電力伝送(Wireless Power Transfer: WPT)は、近年ますます注目を集める技術です。
特に自動車分野においては、電気自動車(EV)や自動運転車の普及とともに、充電インフラの革新が求められる時代となりました。

しかし多くの工場や製造現場では、いまだに配線設備やケーブル管理に多大な労力とコストがかかっています。
昭和時代から続くアナログ的な慣習が色濃く残っており、ワイヤレス化の導入には大きな壁が立ちはだかっています。

本記事では、現場目線でワイヤレス電力伝送の四方式「電磁誘導」「磁界共鳴」「マイクロ波伝送」「電界結合」を解説し、それらを統一理論で俯瞰。
さらに、未来を見据えた走行自動車(ダイナミック充電)の応用についても詳しく解説します。

ワイヤレス電力伝送の基本四方式

電磁誘導方式

もっとも歴史が古く、家庭用電動歯ブラシやQi規格のスマートフォン充電器など身近なところで用いられている方式です。
送電側と受電側それぞれにコイルがあり、両者が至近距離でコイル同士を向かい合わせることで、一次コイルから二次コイルへ磁界を介してエネルギーをやりとりします。

この方式の強みは、単純かつ堅牢な構造、伝送効率が高いことです。
しかしながら、コイル同士を数ミリ〜数センチまで正確に配置しなければ効率が急激に低下し、位置ずれや金属物による干渉に弱いという課題もあります。

現場では、「ピッタリ合わせなければ充電できない」導入障壁となっています。
工程自動化に応用するには、ワークの位置決め精度や安全対策の合わせ技が求められます。

磁界共鳴方式

電磁誘導に比べ、離れた距離でも効率よくエネルギーを伝達できるのが磁界共鳴方式です。
これは、送電側・受電側双方のコイルやコンデンサを用いた共振回路を強く同調させることで、コイル間が数十センチ単位でも高効率なエネルギー伝送を実現します。
複数デバイスへの同時送電も理論上は可能です。

応用範囲が広く、屋外のEV充電ステーションから工場内AGVやAMR(自律搬送ロボット)への応用で期待されています。
一方で、金属部品や環境ノイズの影響、そして高周波漏洩による安全性配慮も必要です。
現場では「レイアウトの自由度」と「安全運用基準」を両立できるかが検討ポイントです。

マイクロ波伝送方式

電磁波の一種であるマイクロ波を利用し、空間を伝播して離れた場所に電力を届ける方式です。
大規模な遠距離送電や宇宙太陽光発電の地上受電など、スケールの大きなシーンで研究が続けられています。

工場の自動搬送システムへの応用もできますが、高出力が必要な場合や、人体・他の電子機器への影響(電磁波障害)への十分な安全確保が絶対条件となります。
アナログからデジタルへの現場移行の中で、「まだ現実的には夢物語だ」と捉える方も多いのが現状です。

電界結合方式

静電容量結合とも呼ばれるこの方式は、送電側と受電側の間にコンデンサのように絶縁体を通して電界を形成し、電力を伝送します。
シンプルで薄型設計が可能なため、ウェアラブル機器や小電力・低消費電力システム向きです。

製造シーンでは、微小な部品の充電や、非接触センサ・エッジデバイスの電源供給用途で期待されます。
ただし、伝送効率は低く、外乱ノイズや人体への影響の懸念もあるため、採用には用途制限がつくのが実情です。

四方式を統一する磁界共鳴理論の潮流

古くから「電磁誘導」と「磁界共鳴」は分けて語られてきましたが、近年「両者は同じ物理原理の延長線上にある」と考えられるようになっています。
つまり強結合(近接=誘導)から弱結合(遠隔=共鳴)まで、実はスペクトルのような連続体であるとする統一理論です。

工場での設備設計においては、単一方式だけでなく、現場ごとの要求に応じて両者をミックスし最適解を探るラテラルシンキングが必要です。
実際、ある工程では作業工程の直下に誘導コイルを設置しつつ、搬送途中で数センチ〜数十センチのワイヤレス給電ゾーンを設ける等、複合適用することでメンテナンス性と効率性の両立を果たしている現場も出てきています。

走行自動車(ダイナミックワイヤレス給電)への応用

究極のワイヤレス電力伝送応用分野として「走行中の自動車への給電」、いわゆるダイナミックワイヤレス給電(Dynamic Wireless Power Transfer: DWPT)が注目されています。

この方式では、道路下や車線に設置されたコイルや共振素子によって走行するEVへ継続的に電力を供給します。
給電ポイントで一時停止せず、走りながら充電できるため、充電のための停車時間やバッテリー容量の制約を大幅に軽減できます。

現在、国内外でさまざまな実証が進んでおり、韓国のKAISTやイスラエルのElectreonなどが有名です。日本でもNTTやトヨタなどが実証プロジェクトを開始しています。
現場目線で見ると、路面の耐久性や悪天候耐性、導入コストといった課題、規格統一や保守体制の整備も大きなハードルです。

工場内搬送での応用では、AGV路線の下に非接触給電ゾーンを設けバッテリーのダウンタイムを最小限に抑えるなど、止めない現場、止まらない物流を実現する突破口となる可能性があります。

昭和アナログ産業における現場の根深い課題と転換の糸口

昭和から続く製造業現場は、品質確保のための「配線至上主義」「目視確認主義」「リスク回避主義」が根強く、ワイヤレス技術には慎重な姿勢が蔓延しています。

しかし、現場の実情に合わせて小規模なパイロット導入や、限定領域からのトライアル、日本独特の「現場改善(カイゼン)」文化を応用することで、アナログ慣行からの脱却が着実に進んでいます。
たとえば、配線取り回しが難しい工程端末の自動検査装置へのワイヤレス給電や、クリーンルーム内での粉塵リスク低減のための非接触センサアプリなどがすでに現場定着化し始めています。

バイヤー目線:技術トレンドをどう見るか

調達購買(バイヤー)としては、単純なコストだけでなく、将来拡張性・保守の容易さ・現場作業負担・安全基準・サプライヤーの技術力を総合評価するのが鉄則です。

ワイヤレス電力伝送機器は、まだまだ特定ベンダー依存や規格乱立の傾向が強いため、実証例や第三者評価を精査しつつ、中期的な運用ビジョンを描くことが肝要です。
また、下請けサプライヤーの立場であれば、バイヤーが求めるものは「安全運用提案」「トータルランニングコスト削減」「保守容易性保証」が重要テーマとなります。

ラテラルシンキングが切り拓くイノベーションの現場へ

最後に、ワイヤレス給電の四方式は決して「選択式」ではなく、現場ごとに最適な組み合わせ・運用ノウハウの積み上げが必要です。

時には小さく始め、課題を見つけながら現場カイゼンでブラッシュアップを重ねる。
既存の延長線だけでなく、現場発のアイデアと「駄目元マインド」で試行錯誤するラテラルシンキングこそが、昭和型製造業をネクストステージに導く原動力です。

今後も現場が納得し、実際に価値を生み出すテクノロジーを見極め、正しく選択し、つなげていくバイヤーやエンジニアの存在が、製造業の真の進化を支えます。
ワイヤレス電力伝送は、その新たな地平線のひとつです。

これを読んだ皆さまが、目の前の現場と今後の世界動向をつなぎ、より良い未来への一歩を踏み出していただけたら嬉しく思います。

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