投稿日:2025年9月2日

塗装膜厚の均一化設計で塗り回数を減らす工数削減

はじめに:塗装工程の工数削減は製造業の大きな課題

製造業の現場では、付加価値の高いものづくりが求められる一方、厳しいコスト競争も常につきまといます。

中でも塗装工程は、工数・作業時間・材料費・エネルギー消費といったさまざまなコストがかかる重要な工程です。

塗装品質の維持向上と、いかにして工程全体の工数を削減できるか―この課題を突き詰めることが、生産性向上や収益改善につながります。

今回は「塗装膜厚の均一化設計で塗り回数を減らす工数削減」をテーマに、現場経験とリアルな業界動向をふまえた実践的なアプローチをご紹介します。

塗装現場の担当者やバイヤー志望の方、サプライヤーで取引先の要求を深く理解したい方まで、多くの製造業関係者のヒントとなるはずです。

塗装膜厚とは:均一性とその重要性

膜厚(まくあつ)とは何か

塗装膜厚とは、塗装された塗料の層の厚みを表します。

ミクロン(μm)単位で管理されることが多く、自動車や家電、金属製品などあらゆる産業製品で重要な品質基準になる項目です。

膜厚が薄すぎると下地露出や防錆性に問題が生じ、厚すぎると乾燥不良や割れ、コスト増、外観異常(たれ・ちぢみ)の原因となります。

均一な膜厚がなぜ求められるのか

「狙った厚みを均一に塗る」ことは塗装品質を安定させるカギとなります。

局所的な膜厚ムラが発生すると、不良品の増加や再作業の手間、無駄な塗料消費といった問題に直結します。

均一な膜厚設計・制御は「最小限の塗り回数でも、十分な品質を担保する」最短距離となるのです。

現状のアナログな塗装業界の課題

昭和的な職人技頼みの現場

実際の製造現場では、いまだに「見た目」「手の感覚」「光の反射」など、職人の勘と経験に依存した塗装作業が多く残っています。

熟練者が不足したり、作業者ごとのバラツキが大きいと、膜厚均一化どころか基準自体がぶれてしまいがちです。

場合によっては不安要素を打ち消すために「多めに塗る→乾燥→再塗装」と余分な塗り回数が追加されがちになり、工数と材料コスト、納期遅延リスクも増大します。

測定やデータ活用の遅れ

膜厚管理も手動測定やサンプルのみなど、部分的な管理に留まっているケースが多いのが現状です。

工程毎のデータ蓄積、膜厚分布の”見える化”といったデジタル化が遅れており、問題発生の事後対応が常態化している現場も少なくありません。

この遅れが、塗り回数削減や工数最適化のボトルネックとなっているのです。

均一化設計で塗り回数を減らす発想の転換

ラテラルシンキングで根本を見直す

つい「作業員の教育」「手順書の見直し」「QC工程表の整備」など現場改善は部分最適で留まりがちですが、ラテラルシンキング、すなわち常識にとらわれない発想の転換も重要です。

根本的に「なぜ複数回塗る必要があるのか?」を問い直し、工程設計自体を見直すポイントは何かを掘り下げてみましょう。

たとえば、「1回の塗装で規格内膜厚が確保できるなら?」、「膜厚ムラを未然に防げる設計方法は?」といった逆転の発想こそが、塗り回数=工数を最小化する新しい道を切り開きます。

均一化のための設計的アプローチ

膜厚均一化のためには、塗装工程のパラメータ設計(塗料粘度、エア圧、ガン距離・角度、ライン速度、静電設定など)を科学的に最適化することが求められます。

また、事前にワーク形状・材質(凹凸、高低差、温度伝導など)を分析し「どこに膜厚ムラが出やすいか」といったリスクを見える化、CAE(シミュレーション)や3D測定データ活用も現代的な手法です。

さらに塗装ブースの空調やミスト制御、静電ガン・ロボット塗装の導入により、熟練者頼みのばらつきを技術で補正する方法も効果的です。

「多めに塗る=安心」の誤解を正す

「作業毎に少し多めに塗っておけば大丈夫」という意識は一見合理的に思えますが、結局は無駄な工数増、材料ロス、不良発生率増大という大きなツケを生んでいます。

「均一に狙った厚さだけ塗ることで、結果的に一発合格率が上がり塗り回数が減る」という本質を、現場全体で正しく共有できるかがカギです。

工場自動化・DXと塗装膜厚均一化の親和性

ロボット塗装の本当の価値

近年、ロボット塗装の普及が進んでいますが、「人の代わりに動くだけ」と捉えてしまうのはもったいないところです。

本来ロボット化は、個体差や熟練度に依存しない精緻な膜厚制御が可能になる点に最大の価値があります。

自動化が進めば進むほど、1回塗りでもムラなく仕上がる条件出し(塗料経路・パターン設計、シーケンス管理など)がしやすくなり、結果的に塗り回数減=工数削減の効果が最大化されます。

デジタル膜厚測定とデータ活用

非接触型の膜厚計や、ラインごとにセンサを設置して塗装直後からリアルタイムで分布データを取得する仕組みも進化しています。

これにより「最適条件下であれば1回塗りで満遍なく所定厚みを満たせる」という根拠づくりができ、塗り回数基準の見直しや工数圧縮の交渉材料にも活用できます。

蓄積データをAIで解析し、異常検知や予知保全につなげるトレンドも今後加速していくでしょう。

塗り回数削減による具体的メリット

工数・コスト削減へのインパクト

塗装回数が1工程減るだけで、刷毛やガンの洗浄回数、段取り・マスキング・乾燥待ちなど付随工数も大幅に減らすことができます。

塗料や溶剤の使用量も減り、廃棄コストやVOC排出も低減。ライン生産のタクトタイム短縮や増産余力確保にもつながります。

また、一発で規格厚みを満たせるなら、再塗装や手直しのロスも激減し、現場スタッフのストレスと手離れも大きく向上します。

バイヤー・サプライヤー双方にとっての価値

供給側サプライヤーにとって「うちは1回塗りで十分な膜厚ムラ保証&工数も少ないです」と打ち出せば、ライバルと差別化できる大きな強みになります。

調達バイヤーや設計者の立場では、「より工程が少なく、適切な品質保証がされている塗装ライン」を採用する判断軸となります。

昨今の「部品調達リスク分散」「脱炭素」「グローバルコスト競争」の観点からも、工程短縮と品質安定はますます重要なテーマです。

塗装膜厚均一化を進めるうえでの実践ポイント・注意点

全社横断プロジェクトで推進する

一部の工程・担当者だけで部分最適化してしまうと、改善効果も限界があります。

品質部門・生産技術・原材料購買・工場現場を巻き込んだチームを編成し、膜厚データやライン条件の「全社横断」での見える化・再設計が成果につながります。

小さな成功事例から水平展開

いきなり全工程を”1回塗り標準化”するのはリスクや抵抗も大きいので、まずは不良多発工程やリピート生産品から先行トライするのが現実的です。

成功事例・定量効果が見えたら早期に社内共有し、水平展開・標準化の流れを作ると良いでしょう。

サプライヤーとの「目的共有型」コミュニケーション

受託塗装会社や外注サプライヤーと「コストダウン圧力」だけでなく「塗り回数削減と均一化でWIN-WINになる仕組み」を設計できるかが大事です。

設計側や調達バイヤーからニーズ・現場事情(たとえば「今ここにムラトレンド」「ここの厚み意識」など)をきめ細かく情報共有し、サプライヤーのプロセス改善余地を一緒に探る文化が、両社の生産性につながります。

まとめ:昭和から新時代へのシフトチェンジ

塗装膜厚の均一化設計で塗り回数を減らし工数を削減することは、決してコストダウン競争だとか、大量リストラといった後ろ向きの取り組みではありません。

「現場の悩み(工数・不良率・バラツキ)」と、「時代の変化(自動化・デジタル化・持続可能性)」をつなげて、よりシンプルで品質の良い工程へと進化させる、生産現場の“知と工夫”の結集なのです。

現場で悩む方、バイヤーや購買担当の方、サプライヤーの皆様—

「塗装膜厚の均一化設計×塗り回数削減」の視点を仕事の“当たり前”に組み込むことで、一歩先のものづくり力を高めていきましょう。

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