投稿日:2025年8月27日

肉厚均一化で冷却時間を短縮し成形サイクルを下げる射出設計

はじめに:肉厚均一化の重要性を知る

成形サイクルの短縮は、製造現場において常に追い求められてきたテーマです。
特に射出成形において“肉厚均一化”は、冷却時間の短縮、品質向上、歩留り改善、ひいてはコストダウンの鍵となります。
本記事では、現場の管理職経験と20年以上の実践を踏まえ、肉厚均一化の本質、設計時に見逃しがちなポイント、バイヤーやサプライヤーの視点を交えて、深く掘り下げます。

なぜ肉厚が問題になるのか:冷却時間と品質の密接な関係

冷却工程が成形サイクルに占める割合

射出成形サイクルは、型締→樹脂射出→冷却→型開き→取出し、という流れで進みます。
この中でも、冷却がサイクルタイムの50%以上を占めていることは珍しくありません。
冷却が遅れれば残りの工程も“待ち”状態となり、工場全体の生産性が著しく低下します。

肉厚ばらつきが引き起こす課題

製品内で肉厚にムラがあると、冷却速度も部位ごとにバラバラになります。
熱の逃げにくい厚肉部はなかなか固まらず、時間ばかりが過ぎていきます。
さらに、肉厚が厚い部分ではヒケ・反り・バリなどの不良発生率も上がります。
結局、サイクル短縮・歩留り向上・仕上がり品質という全ての要素に負の影響を与えるのです。

肉厚均一化の設計原則

最適肉厚の選定〜薄くするだけが正解ではない〜

樹脂成形品で「とにかく薄く」と要求されがちですが、過度な薄肉は金型コスト増、強度低下、成形不良の誘因にもなります。
樹脂の種類や用途ごとに基準肉厚(例えばABSなら2.0〜3.5mmなど)を確認し、パーツの役割・力のかかり方まで検証したうえで適正値を設定しましょう。
厚みは必要最小限、かつ全体を均一に保つことが重要です。

リブ・ボスの設計:過剰な補強は逆効果

剛性が足りないと設計段階でリブやボスを追加しがちですが、これこそが肉厚ムラの元凶です。
リブやボスの根元は肉厚が集中しやすく、冷却ムラやヒケ・反りを誘発します。
基本は「本体肉厚の0.5〜0.7倍」を守りつつ、合理的な補強配置・金型内冷却ライン設計も意識しましょう。

アンダーカット・抜き勾配とのバランス

アンダーカット回避や抜き勾配設計で仕方なく肉厚UPを検討する場面もあります。
その際は部分的な肉厚増加を最小限に留めると同時に、冷却水路の工夫やコア・ピンの活用など、金型側の対策も合わせて検討しましょう。
設計と現場がタテ割りで別々に考えるからこそ、こうしたムリな肉厚部分が温床となりやすいのです。

成形シミュレーションの活用と現場のギャップ

流動解析でどこまでわかるのか

最近はCAE(流動解析)によって、射出・冷却・変形の予測が手軽に行えるようになりました。
製品設計段階からシミュレーションを活用し、どの部位が冷えにくいか、肉厚ムラの影響を可視化しましょう。
ただし、現場でよく問題になるのは“シミュレーションの前提と、実際の金型仕様や周辺条件が違いすぎる問題”です。

なぜ設計どおりに冷えないのか?

金型の冷却回路図面は、実際には樹脂詰まり、冷却水圧不足、冷却経路のバラツキなど、様々な要素で計画どおりに動作しないことがしばしばです。
現場側は経験的に「ここだけ全然冷えない」「毎回ヒケが出る」と感じていても、設計者は気づいていない。
このギャップが不良低減・サイクル短縮の壁となるため、設計・現場合同で“現物レビュー”を積極的に実施しましょう。

肉厚均一化を妨げる根本原因と乗り越え方

アナログ慣習が残る組織文化

昭和からの慣例主義で、過去の図面を流用・選択するケースは今も多いです。
「前回3.5mmで作ったから今回も同じ」「複雑なCAEより現場の勘」という“守り”の設計では、最適化は進みません。
新規プロジェクトでは、必ず設計思想から肉厚適正化を議論する文化を作りましょう。

社内外のバイヤー・サプライヤー対立

バイヤーはコスト最優先、サプライヤー側は歩留り・品質を担保したいという構図から、つい条件が厳しくなります。
「肉厚×保形性×サイクルタイム×コスト」をどこでバランスさせるか。
バイヤー視点で“なぜ肉厚均一化が現場評価軸なのか”を、逆に現場側も“なぜコスト/納期が重視されるのか”を相互に理解し、共通言語で会話できる関係性を構築することが不可欠です。

事例で学ぶ:肉厚均一化による成形サイクル短縮

厚肉部位の見直しによる冷却時間40%短縮事例

例えば、家電プラスチックカバー部品で、かつては「強度重視」で一部6mm厚に設定していましたが、ヒケや冷却ロス多発で歩留り30%未満に低迷していました。
設計再検討で3.2mm均一化、リブ配置見直し、金型冷却回路の改善を行い、冷却時間が従来比40%短縮。
サイクルタイム全体でも製品あたり2割の効率化を実現し、年間数百万円規模で利益改善につながりました。

自動車部品の複雑形状対策

複雑形状で致し方なく肉厚バラツキが発生する場合も、局所冷却ピンやインサート冷却などの金型工夫や、熱伝導性の高い材料選定で乗り切る方法もあります。
こうした場合は設計・現場・金型サプライヤーの三位一体連携が不可欠です。

現場発:肉厚均一化推進のToDoリスト

1. 樹脂の指定肉厚ガイドラインを必ず確認
2. CAE解析+現場レビューの二重チェックで冷却問題を予見
3. 意味のない補強リブ・ボスは極力省略、根元は必ず薄肉化
4. 調達購買部門と事前にコスト×性能バランスを議論しておく
5. 金型設計段階から冷却経路見直しを推進し、現物検証を怠らない

まとめ:肉厚均一化こそ射出成形最適化の出発点

肉厚均一化は、コストや品質・工程短縮といった製造業全体の課題を“根っこ”から解決する強力なアプローチです。
従来の常識から一歩踏み出し、設計-現場-調達が垣根を越えて“合理”を徹底的に追求することでしか、生産性向上や高品質化は実現しません。
アナログな組織文化を乗り越え、デジタルや現場ノウハウを組み合わせていくことで、射出成形の新たな地平線を切り拓いていきましょう。

製造業で働く皆さん、バイヤー職を志す方、サプライヤーとして現場改善を目指す方に、本記事の知見が現場改革へのヒントとなれば幸いです。

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