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保証費用負担を一方的に転嫁する仕入先の姿勢

目次
はじめに:製造業現場から見た保証費用転嫁問題
製造業における「保証費用」とは、納品後の不良や性能不足など、品質問題に起因して発生する費用を指します。
多くの場合、こうした費用がどちらの責任で発生し、その負担をどのように分担するかは、サプライヤーとバイヤー双方にとって深刻なテーマです。
特に近年、サプライチェーン全体のコスト構造見直しや品質に対する顧客要求の厳格化とともに、保証費用の負担転嫁を巡るトラブルが表面化しています。
昭和時代の「なあなあ」「人情・根回し」といった慣習から抜け出せない一方、デジタル化とグローバル化が進むことで、曖昧なまま押し付け合いが発生する事例も少なくありません。
ここでは、長年現場に携わってきた私の視点も交えつつ、この問題の実際と、今後の健全なパートナーシップ構築のヒントを考察します。
保証費用とは?転嫁問題の背景
保証費用の内訳と発生パターン
製造業では納入製品が不良や故障を起こした場合、その追加対応には様々な費用が発生します。
具体的には、
・再検査、リワーク、部品交換の直接コスト
・ユーザー先での現場対応や調査出張費
・生産ライン停止による機会損失
・代品供給や賠償金
など多岐にわたります。
これらの費用をどちらが負担するかを巡り、サプライヤーとバイヤーの間に認識ギャップやトラブルが起こりやすいのです。
現場で起こっている「一方的転嫁」の実態
最近、サプライヤー側が保証費用の発生原因や境界を曖昧にしたまま、「全額バイヤー負担」「うちは材料だけだから保証しない」といった主張で一方的に費用を押し付けるケースが目立っています。
また、品質問題発生時の初動対応が遅れたり、原因特定や再発防止のための情報開示・調査協力にも消極的な姿勢が見られます。
製造業特有の背景と慣習
日本の製造業では、「阿吽の呼吸」で全体最適を図ってきた歴史や、「下請け=立場が弱い」という力学が背景にありました。
しかしコスト削減圧力や、グローバル化で契約主義が浸透する中、「言ったもの勝ち」「責任転嫁」が生じやすい土壌もあるのです。
なぜサプライヤーは一方的な転嫁を図るのか
利益確保・リスク回避のインセンティブ
とりわけ中小のサプライヤーは利幅が非常に薄く、保証費用が発生すると経営に直撃します。
そのため、
・責任を負う範囲を狭く強調する
・「工程内では不良無し」と主張し、現場での問題に目をつぶる
・自社工程の品質管理記録の開示を渋る
など、自分たちのリスクを最小化しようとするインセンティブが働きやすくなります。
品質管理や契約意識の未成熟さ
一方、「どこまでが自社責任か」という線引きや、契約書への明文化が不徹底な企業も少なくありません。
これは取引開始時の「暗黙の合意」や「昔からの商習慣」に頼るあまり、状況が変わってもルールを更新しない姿勢とも言えます。
組織体制や意識の昭和的遅れ
多くのサプライヤーで見られるのが、以下のような“昭和体質”です。
・営業/現場/品質の担当部署がバラバラで情報連携が悪い
・「現場は黙って従うだけ」「品質は最後の砦」式の分業
・経営トップが「余分なトラブルは避けろ」と指示する
この体制では、問題発生時に本質の議論よりも「とりあえず相手に押し付けろ」という空気が強く働いてしまうのです。
バイヤーが知っておくべきサプライヤーの内情
実際の工程管理・品質管理のギャップ
伝票上や納品書では「検査済み良品」とされていても、現場では忙しさや検査体制の問題で、
・抜き取り検査が十分でない
・設備の老朽化による見落とし
・人員の経験値不足
といった実情も見受けられます。
そこに「バイヤー側が完検(完成検査)してるはずだからウチには責任ない」といった思い込みが加わると、保証コストの押し付けが発生しやすくなります。
立場上の力関係から発生するジレンマ
サプライヤーはしばしば受注先企業とのパワーバランスに悩みます。
「取引を維持したい」「過度な交渉力行使は避けたい」ものの、経営を守るためには少しでも自社責任を減らしたい。
このせめぎ合いのなか、契約書も曖昧なまま“あうんの呼吸”でやり過ごす泥縄的体質が根強く残っています。
「責任境界線」がファジーな製造業の現場
原材料、部品、組立て、検査…と“つなぎ合わせ産業”である製造業では、「どこからどこまでが誰の責任か」がとても曖昧です。
現場の管理職でも「経験則」で対処しており、記録やデータの裏付けが弱かったりします。
この構造を知らずに「全面的な保証責任を負ってもらいたい」とだけ要求しても、サプライヤーから「現実的でない」と拒絶される事が多いのです。
これからの保証費用分担ルールとパートナーシップ
契約・ルール策定の徹底と運用
グローバル化や品質要求の高度化のなか、言質主義ではなく契約(QCDR: Quality, Cost, Delivery, Responsibility)ベースで明確化することが不可欠です。
・製品仕様書
・検査基準書
・保証範囲・免責事項
・トラブル発生時の初動フロー
これらを“定期的にアップデートし実運用する”ことが信頼関係の前提となります。
データ・記録に基づく原因究明の文化醸成
「現物・現場・現実(3現主義)」を徹底するには、
・トレーサビリティ(製造履歴の管理)
・工程監査や品質記録のデジタル化
・トラブル時の情報共有
といった仕組みを“両者で協力して”積み上げる必要があります。
トラブルがあった場合も、「どちらが全責任を負うか」で争うのではなく、「どのように再発を防ぐか」を共同で考えるパートナーシップが本質です。
バイヤー・サプライヤー双方の知恵と工夫
バイヤー側は
・現場の実像を把握したうえでの要求水準設定
・無理な保証範囲拡大の押付け回避
・サプライヤー現場の改善・教育サポート
サプライヤー側は
・実際の工程や検査体制の「見える化」
・問題発生時の隠蔽防止と速やかな共有
・積極的な品質改善活動
など、両者が歩み寄る「協働の枠組み」を作ることが大切です。
昭和からの脱却:製造業の新たな保証責任のあり方
アナログ業界からデジタル業界への転換期
もはや「昔ながらの職人勘」や「人情取引」だけでは、“サプライチェーン全体の競争力”を維持できません。
品質問題発生時の初動体制や、事実に基づく保証負担のルールづくりが不可欠です。
IT活用による情報統合、工程BOMや品質データの共有など、“業界全体でデジタル化”の流れにどう乗るかが、新旧サプライヤーに問われています。
強いサプライチェーンの構築に向けて
短期的な責任転嫁・一方的な保証費用の押し付け合いではなく、長期的な信頼と協働に基づく“強いバリューチェーン”づくりを目指しましょう。
「責任の透明性」「費用の適正分担」「共同啓発・人材育成」の3つを両輪で推進することが、従来の土壌から抜け出す突破口です。
まとめ:製造業の未来のために、現場主義と協業を
保証費用の一方的転嫁問題は、現場の実情や日本固有の商習慣が複雑に絡み合っています。
バイヤーもサプライヤーも短絡的な押し付け合いに固執すれば、結局は「信頼の崩壊」や「産業競争力の低下」を招いてしまいます。
デジタル化時代に即した協業ルールと、現場目線のリアルな問題解決の両立が、これからの製造業に求められる真の進化です。
皆さんの現場でも、今一度「自社の保証分担体制」「お客様や取引先との本音の対話」を見直し、新しい地平を切り拓く一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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