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工程能力指数が改善しない理由がラインの揺れという盲点

目次
はじめに:工程能力指数とは何か
製造業に携わっている方であれば、「工程能力指数(CpやCpk)」という言葉を幾度となく耳にしたことでしょう。
品質管理や生産管理のKPIとして、あるいは取引先や顧客から品質保証の観点で頻繁に求められるこの指標ですが、数値改善の壁に直面して悩んだ経験を持つ現場担当者も多いはずです。
工程能力指数は「製造された製品が規格値の範囲内にどれだけ安定して収まっているか」を統計的に示す値です。
高い工程能力指数を維持することは、不良品の発生低減や顧客満足度の向上、ひいては利益率やブランド信頼の向上に直結します。
しかし、多くの現場で「いくら対策をしてもCpやCpkがなかなか目標レベルに届かない」という課題が根深く存在します。
この停滞の陰には、現場で見落とされがちな「ラインの揺れ」という盲点が潜んでいます。
工程能力指数が改善しない典型的な理由
1.4M(人・機械・材料・方法)への注意不足
工程能力指数が伸び悩む要因としてまず取り沙汰されるのは、4M(Man、Machine、Material、Method)に起因するバラツキです。
例えば、作業者ごとの手順の違い、機械の個体差や経年変化、材料のロットごとの性質、作業手順や治具の使い方の不統一などがあります。
多くの現場では、この4Mを管理・標準化し、異常があればすぐに是正する体制が取られています。
2.測定システム(MSA)の問題
もう一つ頻繁に見落とされるのが、測定器精度自体の問題です。
測定員ごとに差があったり、測定器が校正切れを起こしていたりする場合、正しいデータ取得ができません。
MSA(Measurement System Analysis: 測定システム解析)をしっかり行い、誤ったデータに惑わされない体制を構築することも基本のひとつです。
3.目標設定や評価指標のミス
本来、工程能力指数は「工程の安定性」が前提です。
工程そのものが安定せず、外的要因に左右されている状態では、いくら対策を打っても数値改善にはつながりません。
この工程自体の「安定性」の確認を怠ると、根本的な問題解決にはなりません。
昭和アナログから続く現場の盲点:“ラインの揺れ”とは
実は、表面上は4Mや測定系の問題を適切に管理していても、どうしても工程能力指数が伸びてこない現象があります。
ここに潜むのが、「ラインの揺れ(プロセスのゆらぎ)」です。
これは、目視や個々の職人技に依存していた昭和の製造現場の遺産とも言えるアナログな問題ですが、現代の自動化ラインでも見逃されがちです。
なぜ“ラインの揺れ”が無視されるのか
ラインの揺れとは、例えば設備の微小な振動、電源変動、温度・湿度変動、基礎固定の甘さ、昼夜交代時の小さな調整差といった、データ取得の“外”にある工程バラツキのことです。
現場では「そんな微細なものが、実際に品質にまで影響するのか?」という軽視が典型的です。
また、こうした揺れは一時的な異常ではなく、常にじわじわと工程全体に影響を与え続けているため、なかなか因果関係を特定しにくい特徴があります。
昭和の現場でよくあった“現象”としての揺れ
例えば、ある食品メーカーのパッケージ工程では、コンベアのベルト駆動部の軸受け根に溜まったグリースの粘度変化が1日にわたり微妙に速度を変動させ、結果としてパッケージ成形寸法に周期的なブレが現れていました。
また、加熱炉の燃焼式から電気式への切り替え時に、わずかな換気装置のスイッチングが風圧となって品物をゆがませていたケースもありました。
いずれも“職人の勘”では気付けても、通常の生産データや帳票上には顕在化しにくく、工程能力指数の悪化要因として見逃され続けました。
データだけでは見抜けない揺れの正体
工程能力指数は「統計的に安定した工程」で計算しはじめて初めて活きてきます。
しかし、工程自体がラインの揺れという“静かなバラツキ”に支配されていた場合、どれほどサンプル数を増やしても、安定した数値向上は望めません。
IoT化で得たデータでも見えない“暗黙知”
昨今の自動化・IoT化の進展で、センサーによるデータは過去にないほど取得・可視化できるようになりました。
しかし、品質への寄与を正しく解釈できる“実務感覚”を持たなければ、多くのデータは“ただのノイズ”として扱われてしまいます。
例えば、振動センサーで「一定時間ごとに異様なピーク」が検出されているのに「故障や異常停止がないから」と放置していませんか?
工程の“揺れ”は、設備単体だけでなく、ライン全体の微妙なバランス—すなわち物流や搬送経路、電源の品質安定など、複数要素の複合的な絡み合わせで発生します。
現場目線で実施できる“揺れ”への対策
1.短周期・マルチポイントでのデータ取得
揺れの正体は、多くの場合「瞬間的」かつ「局地的」です。
工程の主要パラメータ(温度・圧力・速度・電流等)は、従来のような1日1回や1時間1回の取得ではなく、1分間隔や設備ごとなど、短周期かつ多点でデータを収集します。
データを“分布”として俯瞰し、工程間のシンクロズレや急激なピークを抽出してみるのが有効です。
2.現場へのフィードバックループを強化
例えば、生産ライン脇に映像分析や振動モニタリングの結果をリアルタイムで可視化し、作業者が「普通と違う」と気付きやすい環境をつくります。
更に昼夜シフトや管理者交代時の小さな変化点も記録し、「工程データ + 変化点記録」で見逃し防止の仕組み化を図りましょう。
3.スループットと品質の同時管理
時に「生産スピードを落とせば品質指数は上がる」という誘惑が現場にはあります。
しかし、ライン全体のスループットをガチガチにすると、揺れに由来する微調整の余地が失われ、実質的にはライン全体の不安定化を招くリスクも。
むやみに速度を下げるのではなく、「どの速度・条件で品質バラツキが顕著になるか」を徹底的に可視化し、最適な運用レンジを定めることが本質対策です。
ラテラル思考による“新たな地平”の開拓
工程能力指数改善において、従来の「4M管理」「MSA」「自動化」だけでは抜けきれない壁が、“ラインの揺れ”です。
ここから先の品質向上には、現場経験×ラテラルシンキングの掛け算アプローチが求められます。
エッジケースにこそヒントがある
例えば季節の変わり目、長期連休明け、ラインの仕様アップ時などに一時的に工程能力指数が大きく悪化した経験はありませんか?
このような“非連続点”からデータを抽出し、どんな環境要因・運用変更が働いたかを現場ヒアリングも交えて深掘りすることで、他社や過去の自社事例にはなかった知見を得るチャンスとなります。
現場の“体感”と“デジタル”の融合
IoTとAI分析の活用で揺れの兆候を抽出しつつ、そこに働く「人間の勘」「違和感」を現代的に織り込み、新たな改善手法を開発しましょう。
これこそ、昭和から令和にかけて“製造大国・日本”が保てる本当の競争優位になります。
まとめ:バイヤーにも伝わる“真の工程能力”を目指して
サプライヤーの立場では、「工程能力指数」をただカタログ的に報告するだけでは、バイヤーの信頼獲得は難しい時代です。
本記事で取り上げた“ラインの揺れ”のような「奥に潜むバラツキ」まで見極め、現場と一体で根本対策に取り組む姿勢こそが、バイヤーに響く新しい品質保証力となるのです。
工程能力指数の改善が進まない現場は、「ラインの揺れ」という見逃された“微細なバラツキ”に目を向けることで、大きく飛躍する可能性を手に入れることができます。
従来の発想やデータ分析に加え、現場現物現実と最先端のIoTを融合した、新しい地平への挑戦をおすすめします。
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