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“再現しない不具合”ほど厄介な品質課題はない

目次
はじめに:再現しない不具合が製造業にもたらす危機感
製造業の現場で最も頭を悩ませる品質課題の一つに、「再現しない不具合」があります。
この現象は、検査や工程監査、あるいはユーザーからのクレーム対応時に顕在化するものの、工場の設備やライン上ではどうしても同じ現象を再現できないという、極めて厄介な問題です。
表面化するたびに原因究明が難航し、担当者・関係者の胃を痛めてきました。
品質管理の現場力を高めたい方、調達部門でバイヤーを目指す方、またはサプライヤーとして顧客の要求を的確に読み取りたい方へ、現場で20年以上培った知見から、「再現しない不具合」への実践的なアプローチを解説します。
再現しない不具合の特徴と現場の悩み
なぜ再現しないのか?根本的な要因を考える
不具合が再現しない原因には、大きく分けて以下のようなケースがあります。
・不具合が発生した時の条件が極めて限定的で、通常の検証条件下では発生再現ができない
・現象発生と検証までの間に部品交換や温度変化など環境の変化があり、再現条件が消失している
・ユーザーの使用状況や現場固有の環境変数(電源品質・振動・ソフトのバージョン違いなど)が、工場の再現条件と乖離している
そのため、原因究明や再発防止の手がかりとなる「トリガー」と「再発生条件」を特定するのが困難です。
その結果、担当者には「再現しない=証拠がない」「責任を取るべきなのか曖昧」といった心理的負担がのしかかります。
現場にもたらす影響と“昭和型解決”の危うさ
製造業の現場では、再現しない不具合が発生すると「とりあえずそのロットを全数再検査」「念には念を、と追加作業投入」といった保守的な判断が下されやすいです。
その背景には、
・トラブル未解決による顧客からのクレームリスク
・工程監査・品質会議で責任追及を避けたい心理
・業界全体に根付く「曖昧なままウヤムヤにする文化」
など、昭和時代から続く“空気”が今も一部のラインや会社に根強く残っています。
ですが、こうした“場当たり的対処”に終始すると、本質的な課題解決ができないまま、現場の人員負荷やコスト増大、慢性的なモチベーション低下、最悪の場合は市場での信頼失墜へと繋がってしまいます。
ラテラルシンキングで再現しない不具合に挑む
あえて現場から「視点を変える」思考が大切
技術的な対症療法だけではなく、「なぜ再現しないのか?」という固定観念から解き放たれた新たな発想、すなわちラテラルシンキング(水平思考)を駆使することが突破口となります。
その方法例をいくつか挙げます。
・不具合発生時の周囲環境、作業者、装置設定、輸送ルート、出荷直前工程など、普段は関心を持ちづらいポイントまで徹底ヒアリング
・(資料・記録)設計変更、外注先での特別作業、分解・再組立の有無など、担当部門横断的に情報を可視化
・客先情報やクレーム内容を技術用語化せず、“なぜお客様はその現象を気にしたのか”ユーザー体験視点で読み解く
・些細な変化、それこそ「たまたま」の出来事にこそ着目し真因探求する
工場の壁だけでなく、社内外や従来型セクショナリズムといった“見えない壁”も意識的に取り払うことで、新しい打開策が浮かび上がることもしばしばあります。
「現場の5感」をデータと結び付ける
現場のノウハウを体系化・デジタル化し、データ活用することで「再現しない現象」を再構成するアプローチも有効です。
例えば
・IoTセンサーや画像処理AIを駆使して微細な異変を記録する
・QCストーリーやなぜなぜ分析で“起点”を深堀り、時系列・場所・ヒトの相関性を可視化する
・複数部門でトラブル発生日誌を作成し、「前回発生した現象」と「今回の現象」を比較分析する
“昭和の匠の勘”と“令和のデータ駆動”を効果的に融合させることで、現象の再現条件を徐々に絞り込むことができます。
調達・バイヤー視点:再現しない不具合とどう向き合うか
サプライヤー選定の観点が“ものづくり力”を底上げする
調達・バイヤーの立場にある読者の方は、再現しない不具合に出会った際、原因特定・原因者追求に囚われがちです。
ですが、真に求められるのは「問題の本質をつかみ、双方で解決ビジョンを共有できるかどうか」、そして「サプライヤーが再現しない現象でも粘り強く情報を出し合える体制かどうか」を見極める力です。
選定の際には、以下の観点が今後一層重要になっていきます。
・トラブル時にも積極的に調査情報を開示し、開発・現場・品質部門の枠を超えてコミュニケーションできるカルチャーを持つサプライヤーか
・再現困難な問題に対する“アナログな現場力”と“デジタルな記録力”の双方を備えているか
・「証明できない不具合」の再現条件追求に折れず、ノウハウ集約や部品トレーサビリティ整備など、中長期的な取り組みを厭わないか
数値やコストだけでなく、“問題解決のために泥臭くやり抜く現場力”を重視する姿勢こそ、自社のサプライチェーン全体の強靭化につながります。
バイヤーの“現場感覚”が顧客信頼を生む
また、バイヤー自身も現場に一歩踏み込み、「なぜ再現しないのか?」を自分ごととして感じる姿勢が不可欠です。
たとえば、
・定例監査だけでなく、実際に製造現場で作業者や現場責任者にヒアリング
・クレーム現品の輸送経路や保管状態のトレーサビリティも自分で追ってみる
・調達仕様や契約上のリスク分担ではなく、“エンドユーザーの困りごと”を一緒に考える
サプライヤーとの信頼関係が築ければ、再現困難な問題にも双方で粘り強く取り組む文化が根付き、「行き当たりばったり」汎用対応からの脱却が必ず図れます。
“失敗から学ぶ組織”への転換が不具合再発防止の鍵
ヒューマンエラー・現場のスルーを「失敗の種」と見る
再現しない不具合の多くは、“偶発的な何か”の積み重ねです。
だからこそ現場で大切なのは、「何らかの見逃し・小さな不徹底」が繰り返される組織風土そのものを問い直すことです。
「なぜこの作業は現場で慣例的になっているのか?」 「現場で作業標準書が形骸化していないか?」
小さなヒューマンエラーや記録のスルーを、“誰でも起こり得る”と素直に認める文化が、根本的な再発防止や連鎖事故回避につながります。
“再現しない”からこそ全員で追い込む組織に
ここで忘れてはならないのは、「再現しない=難しい=誰か個人だけの責任ではない」という視座です。
QCサークルなど小集団活動、CL(クレーム)解決プロジェクト、あるいは外部専門家も巻き込んだレビュー会議など、組織力を横断的に発揮できる仕掛けを会社の文化としましょう。
「たとえ一人では再現できなくても、チーム力で条件を再現まで持ち込む」…これが、昭和的な“属人化頼み”から脱却した現代製造業の理想形です。
まとめ:再現不良は“工場の危機管理力”を示すリトマス試験紙
再現しない不具合こそ、現場の本気度や組織の総合力が問われる最大級の難題です。
アナログ現場力とデジタル活用、ヒューマンエラーを許容する組織風土、失敗事例も前向きに議論できる心理的安全性といった多面的な力を育て、“再現困難=最後は人間力”を合言葉にしていきましょう。
再現しない不具合に誠実に向き合い、ものづくりの現場力を底上げしていくことが、製造業の未来を切り拓く原動力となります。また、調達・品質担当者、バイヤーを目指す方々にも、“現場と向き合う力”が本質的なバリューとなる時代が来ているのです。
製造業の進化を、現場から一緒に作っていきましょう。
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