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靴の通気性を高めるアッパー素材の孔径と配置設計

目次
はじめに:靴の通気性が製造業でも重要な理由
靴は長時間にわたって足を包み込み、快適性や安全性、パフォーマンスを左右する重要な工業製品です。
特に、アッパー素材の通気性は、ユーザーの日常生活や労働環境、運動パフォーマンスに大きな影響を及ぼします。
製造業の現場では、長時間の着用や作業で発生する蒸れと汗による不快感やトラブル、衛生面のリスクを減らすため、靴の通気性向上は従来以上に求められています。
昭和時代のものづくりでは、アッパー素材の選定や孔の開け方は経験と勘に頼る部分が多く、手作業による加工で「仕上がりの良しあし」が決まっていました。
現代では、データ分析やCAEシミュレーション技術が進化し、孔径や配置の設計は科学的なエビデンスを基に最適化されています。
しかし、現場では未だに「こうやればうまくいく」という暗黙知が根強く残る分野でもあります。
本記事では、アッパー素材における孔径と配置の設計が、どのように靴の通気性に寄与しているのかを、製造業現場目線で解説していきます。
同時に、調達購買のバイヤーや、サプライヤーが知りたい設計思想のポイントにも触れ、実践的な知見を共有します。
靴の通気性とアッパー素材の関係
アッパー素材が持つ役割
アッパー素材は、靴の外観を決めるだけでなく、足を保護し、フィット感を調整し、外界とのインターフェースとなります。
汗や熱を効率よく排出しながら、水や異物の侵入を防ぐという、相反する要求に応えなければなりません。
そのため、通気性の高い繊維素材や、合成皮革、天然皮革、メッシュ地など様々な素材が使われます。
通気性の評価指標
靴の通気性は、「透湿度」「通気度」「水蒸気透過率」などの指標で評価されます。
JISやISO規格でも定量評価基準が設定され、企業ごとに通気性能の数値目標が策定されています。
現場では、通気性の追求が過度になると耐久性や防水性、デザイン性が損なわれる場合もあるため、バランスの良い設計が求められます。
孔を増やせば単純に通気性は高まりますが、全体構造の剛性や耐久性、価格とのトレードオフも無視できません。
孔径(穴の大きさ)が通気性を左右する原理
孔径がもたらす影響
アッパーの孔径は、通気量に大きな影響を持つ要素です。
一般に、孔径が大きくなるほど空気の通り道が広がり、一つひとつの穴を通じた通気量が増加します。
しかし、孔径が大きすぎると、異物や水滴が内部に侵入しやすくなるデメリットも発生します。
例えば、運動靴で一般的なメッシュは、孔径0.5mm〜2mm程度に設計されることが多いです。
安全靴や作業靴の場合、これよりも小さい孔やマイクロパーフォレーション(微細穿孔)を用いて、防塵・防滴性能と併せ持つ設計が主流となっています。
孔径設計の理論的根拠
通気量は、ダルシーの法則やハーゲン-ポアズイユの式によって物理的にモデリングできます。
これにより、孔径・孔の総数・圧力差から理論的な通気性能値が算出できますが、実際の製品設計では素材の圧縮や曲げ、着用時の変形など、動的な要素も考慮する必要があります。
昭和期の伝統的な職人技では、「もう少し大きく開けると通気が良い」「縫い目とのバランスを見る」という暗黙知がありますが、現代はこれを数値で示し、再現性のある設計が求められています。
孔の配置設計:なぜバラツキが重要なのか
均一配置と不均一配置の特徴
孔をアッパー全体に均一配置すると、理論的には通気性を最大化しやすくなります。
一方で、足の汗腺分布や熱の発生箇所は一定ではありません。
各部位ごとの「蒸れやすさ」に着目し、戦略的に孔配置を変えることで、少ない孔数でも効率よく通気性を引き出す設計が進められています。
たとえば、つま先やアーチ部には多くの汗腺があるため、蒸れポイントを周辺に多めに穴を開けるというアプローチです。
反対に、側面や甲周りは緻密なメッシュを配置し、最低限の防塵性も両立させるなど、現場発の工夫が数多くあります。
デジタル設計とアナログノウハウの融合
最近では、3D CADやCAEを使い、足型や動作のシミュレーションに基づき孔の最適配置を決定する技術が進化しています。
しかし、現場に根ざしたアナログ知識――例えば、糸の凸凹が目詰まりを生みやすい部位や、長時間着用時の変形傾向など――を加味することで、数字だけでは見抜けない「使いやすさの微差」を追求できるのです。
このように、配置設計は「数字の正解」と「現場の納得解」を行き来するアートとサイエンスの融合領域だと言えます。
調達購買・バイヤー目線でのアッパー素材選び
コスト・性能・デザインのトレードオフ
バイヤーに求められるのは、最適コストで最大の価値を引き出すことです。
理解しておきたいのは、通気性に優れた高機能素材は、一般的に調達コストや加工コストが高くなりがちという点です。
小規模なサプライヤーは、一つ一つの穴あけが手作業であることも多く、量産性とコストで大手と差が出がちです。
だからこそ、調達時には「この孔径・配置バリエーションが実現できるサプライヤーか」「歩留まりや不良率はどこで変動しやすいのか」まで踏み込むことが大切です。
試作品や評価検証時に、着用テストや汗・温度環境での評価を忘れず導入することで、大量生産後のクレームリスクも低減できます。
サプライヤー目線で知っておきたいバイヤーの意図
サプライヤーとしては、「単に穴を開ける」のではなく、「どの部分にどの大きさの孔を、なぜ配置を変えたいのか」「最終的な通気性能のターゲットは何か」という目的意識のある問い合わせに応えることが差別化要素になります。
現場では「今までどおりで問題なかった」という声が出やすいですが、バイヤーの真意には、クレーム低減や、安全性向上、さらなる差別化を狙ったリニューアル要求が隠れています。
このギャップを埋め、バイヤーと積極的に技術対話を行うことで、長期的なWin-Win関係を築くことができます。
進化するアッパー加工技術:最新トレンドと課題
レーザー加工や3Dプリントによる微細穿孔
最新の靴製造現場では、レーザー加工や3Dプリントを活用した微細で高精度な孔あけが可能となっています。
従来より小径の穴を均一に多数あけることで、「通気性」と「耐久性」を高次元で両立することが可能です。
特に熱可塑性素材やハイブリッド繊維との組み合わせが進み、過酷な現場用シューズや高級スポーツシューズでも採用が広がっています。
AI・ビッグデータ活用による最適化設計
近年は、着用データや作業現場の動線、環境データをAIで解析し、最適な孔配置・孔径設計を自動生成する取組みも始まっています。
これにより、季節や用途、ターゲットユーザーに合わせてオーダーメイド型の通気性設計も現実的なものとなりました。
ただし、これら新技術の導入にはコスト増加や設備投資、現場職人のスキルシフトなどが課題となるため、古くからのアナログ工程も重要な選択肢として残されています。
今後の方向性と現場で生きるアナログ知識
アッパー素材の孔径・配置設計は、今後ますます高度化し、多様化していくことが予想されます。
AIや新素材による革新が急速に進む一方で、現場に根付く職人の観察眼――「この現場、この作業環境、この顧客の使い方だから、穴の数と位置をこう変える――という直観的な対応は、依然として欠かせません。
調達購買のバイヤーは、こうした現場の声やノウハウも積極的にくみ取り、サプライヤーと共創する時代に入っています。
また、サプライヤーも「既成品ありき」の受け身姿勢でなく、現場の困りごと解決に自ら提案することが信頼構築の鍵となります。
まとめ:深化する通気性設計、変わるものづくり現場
靴の通気性は、ユーザー体験の根幹を支える要素であり、アッパー素材の孔径や配置設計は、まさにその肝です。
進化するデジタル設計と、現場で蓄積されたアナログ知識の融合こそが、高付加価値な製品開発に不可欠な時代となっています。
バイヤーやサプライヤーの皆様には、是非現場の声や時代の流れに敏感に耳を傾け、新しい知見と古き良き実践知を組み合わせて、より優れたものづくりの現場をともに作り上げていっていただきたいと思います。
靴の通気性を高めるアッパー設計が、現場の快適性・安全性・省エネ・サステナビリティまで幅広い発展に繋がることを願っています。